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”カイさん、早く来て”

すっかり明るくなった。朝の喫煙所。

まだ4月に入ったばかりで寒いという表現も間違いじゃない。


草加部はタバコに火をつける。こないだ届いたばかりの赤い充電式ライターは気に入っている。


この時間になると続々と出社してくる。みんなジャンパーを着ていた。やっぱり動かないとまだ寒い。

「おはようございます。」

「おはようございます。」と形式的に返す。

草加部は夜間作業員が仕事をしていないかのように風評を流され、それを信じている周りの人も敵に感じる被害妄想的になっていた。


”どうせ、向こうに行ったら一緒になってやるんだろ。”

と信じられなくなり、人間不信的にもなっていた。


大型トラックのエアーが抜ける音がした。プシュー

関東便が到着したのだ。この音はブレーキを踏んだ時の音だ。


グリミー6号こと伊藤いとう 健一けんいち(41)だ。


普通の髪型で自然に真ん中から分かれている感じで髪は上げている感じだ。

顔は少年のような幼さがある。

歩き方が特徴的でガニ股で歩幅が小さくチョコチョコと歩いている。

いつもリュックを使っていて、そのリュックは身体にピッタリフィットするように調整されているので、リュックを背負ってガニ股で狭い歩幅で歩いている姿はランドセルを背負った少年に見える。


グリミーはグリミーだが、グリミー化の感染が広まって行った際に突然変異的なことが起きたのか、他のグリミーとはちょっと違う感じの亜種(あしゅ)的な分類だ。グリミー化にも進化があるのだろうか。

なんか、インテリっぽいような理屈を言うタイプで、知能指数という単語もよく使う。何年か前はここの配達ドライバーをしていたらしいが、務まらずに辞めて、何年かしてから大型ドライバーになって突然現れたらしい。その時の上位機種に乗って誇らしげだったことが話題になることがある。いわゆるブーイングで。


草加部がタバコを吸い終わり荷降ろしのホームに向かった。

そこには大沢君だけがいた。

草加部は周りを見渡す。

ダンディーな河童ことカケルの姿が見えない。グリミーは”コの字”の中で、わざとらしいしかめっ面で左肩を回しながら何か言っている。口が動いている。荷降ろしがしたくなくて左肩を回すことは前からあった。

この業界、どこも痛くない人はいない。大沢君くらいじゃないか。


大沢はバーを外していた。カタンコトン


草加部は空の台車を箱型の荷台の前に持ってきた。二人で降ろし始めた。


一台目が終わり大沢君が”コの字”へ運ぶ。草加部は残り、グリミー6号こと伊藤が来るまで降ろすつもりだった。

このグリミー伊藤は、”接車”してから降りてくるまで遅い。他にこういうドライバーはいない。


”露骨に荷降ろしをしたくない作戦を仕掛けてくる。”


二台目が終わり、”コの字”の前まで持って行く。グリミーは何か言いたそうな顔をしている。


”カケルさんは?いないようだ。”


草加部は荷降ろしに戻る。降ろしては”コの字”付近に並べる。


”カケルさんがいた。ホームの向こうからダンディーに歩いていた。”

グリミーが怒りを抑えているのが分かる。


草加部は荷降ろしをしながら”コの字”の様子を見る。大沢君もこんな雰囲気は嫌だろう。


”それにしても、グリミー伊藤は来ない。というかトラックからまだ降りていない。”


草加部は荷降ろしを続ける。”コの字”を見る。

”なんで三人でやっててこんなに遅いの?おいグリミー、本当に夜間を一人でやってたのか?”


トラックから降りてくる音がした。

チョコチョコとガニ股で小さい歩幅で事務所に向かって行くのが見えた。遠回りして。だが、ここからまだ時間がかかる。いつもだ。


そんな時、配達に行っていたトラックの一台が戻ってきたのが見えた。ドレッドヘアのグリミー沢木だ。グリミー能見はまだ寝ているが、事務所で出社してくる頃を見計らって今まで仕事をしていたか風に疲れたアピールして休憩室に入って行く。いつもだ。


そして、抑えていたグリミーこと東藤が吠えた。

「キー!カケル、スマホ見ながら仕分けしてんじゃねえよ。キー、さっきも隠れてスマホいじってだろう!キー」

さっきは、あうんの呼吸の連携プレーで夜間作業員を攻めていた二人だが、グリミーの堪忍袋の緒が切れた。

カケルは無視しながら仕分けをしていた。だから3号になれなかったのだ。

どっちが正しいのか分からない。どちらも仕事をしていない。


草加部は、カケルに対してキレているのを通り越して殺意を抱いている。気にせずに荷降ろしをする。大沢は頑張って仕分けを続ける。”ゴリラと呟いてるに違いない。”


真ん中から自然に分かれた髪を上げている感じの少年がガニ股でチョコチョコと小さい歩幅で歩いてきた。

草加部は「お疲れ様です。」と挨拶をする。


「ふうー」というため息しか返ってこないかと思ったが、後から小さな声で「おはようございます」と聞こえた。台車の音や荷降ろしの音で聞き逃してしまうくらいの感じだ。


グリミー伊藤が、

「何か揉めてんですか?いいおっさん二人が。」草加部に聞いた。

「荷降ろししてたから分かりません。」

「あのカケルさんは知能指数低いよな。キィー」と草加部に言ってきた。

「知能指数?どうしてそう感じるんすか?」

「ホラを吹き回って、周りが全然気づいてないと思ってるところ。」とニヤニヤしながら言う。

「ほー、なるほど。」

「前なんか、事務所の人が構内に出て、カケルさん体調不良で起きれないから休むそうですって、アナウンスしてたんだけど、そうなんだと思って仕事してて、10分後くらいにここから外見たら、ここの前を車で通ったんですよ。ウキャウキィー、ズル休みするならここは通らないでしょ。普通は。IQですよ。」と完全にバカにしている。


”さっきから、俺を感化するつもりか?”


草加部は、グリミー化すると、平気でニヤけながら人のIQのことを言えるようになるのかと怖くなった。感化された人が集団化すると人をバカにすることへの躊躇がなくなる。


”だけど、お前も一緒だ。荷降ろししたくなくてなかなか降りて来なくて、事務所からも出てこないで、作業員に少しでもやらせようとして、今も話しで引き延ばそうとしている。バレバレだぞ。”


草加部は、「大沢君が心配だから申し訳ないですけど仕分けに入ります。」と説明して”コの字”に行こうとした。


グリミー伊藤は露骨なことを言い始めた。

「大型ドライバーさんはさ~、寝ないで走って来てんだから、本来なら作業員が、お疲れ様ですと走って来て、あとはやっておきますからあがって下さいというのが本当でしょ。作業員が4人いて何やってんのレベル低い。」


”この人は本気で言ってる。今さっき、あなたが知能指数が低いって言ったんだよ。期待してんの?”


「あの二人に言ってくれますか?とにかく大沢君が心配なので。それと、三人でやってて全然はかどってないんですよ。あれじゃ駄目でしょう。」と言って草加部は逃げた。


”最後に露骨に種明かしをするところ、お前も同じじゃねえか。常軌を逸している。”


草加部が”コの字”に向かって歩くと、ドレッドヘアのグリミー5号の沢木が見ていた。

頭がいい沢木だ、何かを企んでいる。


グリミー沢木が紳士的に言った。

「ウギー!カケルさ~ん。そっち4人いるの?キー」

さらに、沢木は吠えた。

「仕分けなんてしてねえで、こっちやれよ。ギーー」


カケルは、ある意味助かったと思ったのか、ポケットに手を入れながらダンディーに沢木の方に向かった。

「あっちなんか一人で十分だよ。余裕。」と言い、グリミー5号の配達の段取りを手伝い始めた。


それを見ていたグリミー6号こと伊藤が”コの字”に歩いてきた。

ガニ股で歩幅が小さい、特徴的だ。


「作業員3人いるんだったらさキー、荷降ろししてからしか仕分けできないんだから、荷降ろし優先したら。」とバカにした言い方で言ってきた。


グリミー伊藤は戻りながら、

「バッカじゃないの~考えれば分かるだろ、頭悪いから仕方ないか。」と近くにいた配達ドライバーに言っていた。


グリミー2号こと村上も配達から戻ってきた。川中も戻ってきた。


”そうだよな。この時間で余裕で間に合うんだよ。戻ってくる時間変わらねえじゃん。”


草加部は、怒りと殺意と疲労を感じながら、”大沢君を優先させる”と即決した。


”今、潰されるわけには行かねんだよ。”

何かが切れて吹っ切れている草加部はいつもと違かった。全く動じなかった。


”大沢君優先。” ”仕分け優先”

草加部は仕分けに入った。

”くそ、栄養ドリンクを飲んでおくべきだった。労働者の味方。”


今度はグリミーが話しかけてきた。

「カケル、あいつ断れねえのかや。断らないあいつが悪いんだよ。さっきなんか、隠れてスマホいじってたんですよ。この一番忙しい時間帯に判断できないのかねっ。荷降ろしだってドライバーの仕事なんですよ、本来は。」と同意を求めるように、告げ口をするように言ってきた。

いつもこういう言い方だ。


“こうやって感化してきてんだよな。”


草加部の右上のまぶたが引き攣り、顔が左斜めに傾き、左肩が少し上がり後ろに回る、顔が左に少し動いた。無意識だが草加部が怒った時の癖だ。


草加部は感情のない顔でグリミーこと東藤を見る。見透かしていた。

「東藤さん。陰でばっかり言ってねえで直接言えよ。」

静かに、押し殺すように、草加部が言った。


大沢はビクっとした。


草加部は続ける。

「てめえが周りに媚売って、自分はやってますアピールして、夜勤を悪者にして、こうしたのはおめえだろ。」


グリミーは、草加部の静かに鬼気迫る覚悟に飲まれた。

「事務所が悪いんだ。会社が悪いんだ。だってスマホばかりいじって、こっちは(たま)ったもんじゃない。事務所が言えばいいんだ。」と精いっぱい今思い浮かんだ言葉を並べた。

だだをこねているようにも見えた。これがグリミーのとっさの反応だった。赤い手袋を着けた両手を動かしながらの精一杯の反応だ。


草加部は続ける。

「事務所が悪い?これは現場の問題だ、事務所は関係ねえよ。こうしてる間も一番頑張ってるのは大沢だ。おめえは6時に来て何してたんだよ。冷静によ~く考えてみろ。大沢がかわいそうだから。」

と言って仕分け作業を始めた。


周りは全く気付かなかった。鮮やかだ。


グリミーはこのまま大人しくしているとは思わないが、草加部の虫の居所が悪かった。

入社して3年、こんなことを言ったのは初めてだ。


グリミーは強い相手には屈する。そういう奴だ。それを証明できた。


顔を真っ赤にして、草加部に気を使いながら、わざとらしいかしこまったキビキビした動作で、黙って仕分け作業を始めた。


”カイさん、早く来て。”


ーつづくー

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