第一話 冬は始まる(6)
「そんなこんなであいつらはついに結婚することになったと……あんたもご苦労な事ね」
「全くだ。飲まなければやってられん」
家を出た私は、知り合いとバーで落ち合った。因みに彼女こそ高嶺のいうところのお節介な奴だ。
「……ところで、一つ聞きたい事があるのだけどいいかしら?」
「……何かね?」
彼女の目が輝いている。これは危険な兆候だ。
「あんたがあえて言わなかった事って何なの?」
舌打ちをして後悔する。思わず口が滑ってしまったのだ。
「……自分で考えたまえ」
「私の考えだと、料理とかが怪しいんだけど?」
……相もかわらず勘の鋭い奴だ。だが、いくら彼女でもあの料理には辿り着けない――
「ねえ、マスター。話は聞こえてたでしょ? 心当たりはない?」
この女、躊躇なくマスターに聞きやがった。
「まああるにはありますが……」
話していいか視線で問い掛けてくるマスター。当然のように視線でNOと答える。
マスターも断ろうとしてくれたが、
「教えて下さらない?」
彼女の悪魔の如き微笑みに陥落した。
「ええと、熊本の郷土料理ですよね?」
マスターの問い掛けに私は無言を貫き、無表情を心がけた。
「当たりだって」
効果は無かったようだが。
「……熊本にはおしあわせという料理があるんですよ」
私はマスターの言葉を聞きながら、一気にグラスの中身を飲み干した。
ようやく第一話終了です。長かった……
次は伏線回収のため第二話――と見せ掛けて別の話です。
楽しみにしてて下さい。