表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

第一話 冬は始まる(5)

「面倒な……」

清水に聞こえないように呟く。

どうすればいい? そう自問する。

答えは見つからない。さらに思考を続けてみる。だが答えは見つからず、焦りばかりが募る。

「む?」

思考に気を取られていたため、危うく火を通しすぎるところだった。

火を止めて器に移しだしたところで、手を止めた。バタバタという足音が聞こえたからだ。さらに続いて、勢いよくドアが開く音と、

「清水!」

高嶺の叫び声が聞こえた。

これ以上ないほどにベストなタイミングである。私が切り札をまだ見つけていない事を除けば、だが。

「清水、高嶺はこんなにもお前の事を心配しているが、それでも信じられないか?」

高嶺が殺気立った目で睨みつけてきたが、それは一瞬だけだった。おそらく、私の言葉と表情から、何故あのような事を言ったのか理解したのだろう。

「心配してくれるのは嬉しいわ。だけど私には……」

やはりこの程度では清水には届かない。

「隠している事があるから信じきれない、か?」

清水が今にも泣きそうな顔で頷く。

ここから先どうなるのかは、私にも分からない。

「秘密?」

高嶺の訝しげな声。

「…………」

清水は答えない。

清水が隠そうとしている以上、私から答えを言うつもりはない。ないが、ヒントぐらいは出させてもらう。

「誰にも話せないが話さなくては結婚出来ない秘密、だそうだ」


高嶺の頭は悪くないが、あのヒントで気づけるかは微妙なところだ。それでも高嶺が気づく可能性に賭けるしかない。

そしてその結果は――

「そんなのとっくの昔に知ってるよ」

私の勝ちだった。

「お前が隠そうとしてる秘密なら、どこぞのお節介な奴に教えられたよ」

高嶺は秘密の内容に確信を持っているようだったが、清水はそれを信じる事が出来なかった。

「嘘よ! あれを知っているのなら何で結婚してだなんて言えるのよ!?」

泣きながら、清水が叫ぶ。だが、高嶺はそれを意に介さず清水に近づく。

「来ないで!」

殴られる。それでも強引に近づき、高嶺は清水を抱きしめ、耳元で何かを囁く。おそらくは秘密の内容を。

「何で、それを知ってて結婚してだなんて言えるのよ……」

力無く清水が呟く。

「お前の事が本当に好きだからに決まっている。そうだろう、高嶺?」

高嶺が力強く頷く。

「俺がお前が好きだ。過去にお前が何をしていようと、この気持ちには関係ない。だから――」

一旦言葉を切り、大きく息を吸い込む。

「俺と――結婚してほしい」

清水は泣きながら、

「……うん」

輝くような笑顔で頷いた。

見つめ合う二人。完っ璧に私の事を忘れている。

「……君達」

ビクッ! と体を震わせてから二人がこちらを向く。

「武居……お前いたのか?」

「ああ、いたとも。最初からな。それにここは私の部屋だ」

私の怒りを感じ取ったのか、二人は大人しく離れる。

「全く……清水!」

「な、何?」

「そこの馬鹿のせいでせっかくの料理が冷めてしまった。温めなおしてやるといい。器は好きに使って構わん。鍵はここに置いておく。ポストにでも入れておけ」

「お前……出かけるつもりか?」

怪訝そうに高嶺が聞いてくる。

「そうだが何か問題でもあるか?」

高嶺は首を横に振った。

「何もない」

「では出掛けてくる」

コートを着、靴を履き、ドアを開けたところで私は立ち止まった。

「……一つ言い忘れていた事があったな」

「何だ?」

「私のベッドを使うなよ」

すぐに外に出て、ドアを閉める。中から、

「誰が使うか!」

という高嶺の怒声と何かがドアに当たる音が聞こえた。

言い忘れというか、あえて言っていない言葉ならあったが、それはすでに示してあるので気づくかはあの二人次第だ。

「気づかないに一万、といったところか……」

呟いてから私は、目的地へと歩きだした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ