第一話 冬は始まる(3)
『お前は……何を言っているんだ?』
呆然とした声で高嶺が聞き返して来る。
「清水と別れろと言っている」
沈黙。その後、高嶺は搾り出すようにして声を発した。
『理由を聞かせろ。俺達が別れた方がいいと思う、その理由を!』
「一体何回目だ?」
『……は?』
荒れる高嶺に、私はわざと冷静に、冷徹に、理由を告げる。
「この状況は一体何回目だ? いい加減にしたまえよ君達。いつまでも人の好意に甘えていられると思うんじゃない。」
長年溜まっていた鬱憤を全て、解放する。
「私の手助けなしでは続ける事も出来ないような関係なら、いっその事別れてしまえ」
一瞬の空白をおいてから、高嶺が怒鳴る。
『だけど! 俺達は相思相愛なんだぞ!』
「それだけで幸せになれるほど、世界は甘くない。第一、清水はお前の愛が信じられないから私の所に来るのだぞ? それを本当に相思相愛だと思うのか?」
『それでも俺は、清水が好きなんだよ……』
「それが清水に届かなければ意味はないな。届かない理由は、自分でも分かるだろう?」
高嶺の行動、それこそが理由なのだから。
「清水がいながら、他の女とは遊ぶ。名前で呼ばない呼ばせない。友人の前ではぞんざいに扱う。まだまだあるが極めつけはこれだな、清水本人には絶対に好きだと言わない。これで一体どうやって愛を信じろというのだ? 高嶺、答えてみろ」
救いがあるとすれば、高嶺が本当に清水の事が好きだという事だ。そうでなければ、わざわざ仲を取り持ったりしない。
「初めて私がお前達の仲を取り持った時、お前の本当の気持ちを聞かせろと言ったのを覚えているか? 私に言うのに慣れてしまえば清水にも言えるだろうと思ったのだが……効果は無かったようだな」
『くっ…………』
高嶺からの反論はない。したところで叩き潰すまでだが。
「そろそろ小銭が無くなりそうだから電話を切らせてもらう。言わずとも分かっているだろうが、これから私はお楽しみの時間なのでね、うちに来るんじゃないぞ?」
『っ! ふざけ――』
「うちには来るなよ」
高嶺の言葉を無視し、伝えるべき言葉だけを告げて電話を切る。
こういう時に公衆電話は便利だ。相手からかけ直す事が出来ない為、すき放題に言葉を言える。携帯電話ではこうはいかない。
「はてさて、どうなる事やら……」
既に日が沈んだ空を見ながら考える。
今回の材料は私、高嶺、清水の三人。いい加減飽きたので、今回で終わりに出来るような味を目指してはいるが、上手く出来るかは分かったものではない。
「どうなるにせよ最善を目指すのみ、か」
とりあえず私は、本来の目的地であるスーパーへと向かう事にした。