第一話 冬は始まる(1)
匿ってくれない?」
私が黙っていると、彼女が再び問い掛けてきた。
「理由を聞かせろ。答えはそれからだ」
「……」
彼女は質問に答えない。別に予想は出来るので気にはならないが。どうせいつもと同じ理由だろう。
「あいつ……高嶺から匿えばいいんだな?」
彼女の肩がピクリと動いた。どうやら当たりのようだ。
「まったく……」
呟いてから嘆息する。私は優しいから、今にも泣きそうな人間を放っておくことが出来ないのだ。
「そこをどけ」
「……嫌よ」
しばらく無言で睨み合う。
「……そこをどけ。買い物に行けんだろうが」
「……買い物?」
「どこぞのばかたれがいきなり押しかけてくるものだから、夕飯の材料が足りんのだ」
私の言葉に、彼女は一歩後ろに下がって私が通れるようにした。その顔には何故か諦めのようなものが浮かんでいる。
一体何を諦めたのだろうか?
そんなことを思いながら部屋を出る。入れ代わりで彼女が部屋に入っていく。
そこを近所の老人に見られた。
……嫌な予感がする。
その場を動こうとせずに、ニタニタ笑っている老人を見てそう思う。
「ほっほっほ。冬の始まりだというのに、あんたには四年ぶりの春が来たようじゃの。あの嬢ちゃんはあんたのコレなんじゃろ?」
そう言って老人、時嶋氏は小指を立てた。少々敬老精神を封印したくなる。
「彼女には彼氏がいますが?」
「だからあんたがそうなんじゃろ?大丈夫じゃ、あんたの彼女に手をだしたりはせんよ」
「……彼女の彼氏の名は、武居ではありません」
武居と言うのは私の名だ。
「つまりは婿養子になったということじゃな?」
「私以外の人間が彼氏ということです!」
不覚にも叫んでしまう。これでは時嶋氏を喜ばせるだけだ。
「ほっほっほ、そう恥ずかしがらずともよかろうに。あんたとわしの仲ではではないか」
……どんな仲だ。
私は誤解を解くのを諦めて歩きだした。
後ろから時嶋氏の声が聞こえたが無視した。
……5分後、私は疲れ果てていた。時嶋氏のせいで時間を浪費したというのもあるが、目当てのものが見つからないのだ。携帯電話の普及により絶滅の危機にある公衆電話というものが。
「やはり携帯を買うべきなのだろうか?」
正直いらないのだが、こういう時は不便だ。
まあ、自宅の電話が使えない状況などほとんどないのだろうが。
10分ほど歩いたところでようやく目当てのものを見つけた。正直気は進まないが、高嶺に電話をしなければならない。
私は意を決して記憶している番号へと電話をかけた。