ハビタブルゾーン
学校、休み時間。
「走、なにしてーーひょは?」
「へんな声を出すな雨滑」
雨滑は十秒ほどで一時停止から復帰した。
「だめだぜ走。学校にマンガなんか持ってきたら」
「活字だ」
「パーフェクトパワー文庫の新刊?」
「よく見ろ全然ちがう。ってなんだその聞いたことないレーベル」
「ひょはーー!?」
「いちいち停止すな」
「走が、英単語帳を読んでいる……」
「もうすぐテストだからな」
三回目の停止をするかと思ったが、
「むろん、知ってたさー。ただ現実から目を背けていたかっただけだ」
「雨滑、おまえ何しに来た」
雨滑が顔を近づけてきたので俺は顔を遠ざけた。
「どうして逃げるんだ」
「逃げてない。近づかなくても話できるだろ」
雨滑は声をひそめて、
「うわさになってるぞ」
「なにが」
「北埜原さんのことさ。お前、彼女に何した?」
「なにもしてない」
「むろん、信じるさ。長年の友人だからな。だが、隠しごとはよせよ」
「だから、なにも隠してないぞ」
「水くさいな。たしかーー花粉と黄砂とアトランティスから発せられる高次元波動エネルギーと、ニル・ア・テルメニア星系のハビタブルゾーンを崩壊させた惑星直列がもたらすところの宇宙的災厄にたったひとり立ち向かう人類の残された希望ーーだったか?」
「全然ちがうぞ」
「じ、つ、はーー先週からひどいイボ痔でな?」
「病院いけ!」
「走だからこそ秘密を打ち明けたのに」
「友人として通院をすすめる」
「もちろん病院にはいく! だがテストがせまっているから時間が惜しいのだ。座ってられないから勉強できないんだよー」
「だからって俺にそんなこと話してーーって、まさか」
「例のクスリ、わけてもらえないか? なんにでも効くといううわさの…」
あやしいブツをねだるように言うな。
俺は周囲に誰もいないことを確かめた。
「雨滑…おまえ、その話いったいどこで…」
「実はだな、走が北埜原さんと話してるとき、たまたま二メートルほど背後を通りかかったのさ」
「きもっ! ストーカーかお前は!?」