眠気ナッシング
ティリルはとなりで静かに寝息を立てている。
俺の服をつかむ小さな手を、そっとはずしてやった。
~・~・~・回想シーン・~・~・~・
「離すんだ、ティリル。俺は行かなきゃならないんだ(学校に)」
「いやーっ!」
「たのむ!分かってくれ。俺にはもう時間がないんだ!(遅刻する)」
「いやーっ!!」
「なぜそんなわがままをいうんだ!? もう二度目はないんだ。こんど間に合わなかったら俺は、俺は…(きっと担任のバックブロー)」
「いやーっ!!!」
「くっ…帰りにスイーツ買ってきてやるから!」
「い…」
「ん?」
「いやーっ!」
いまちょっと迷った?
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
やれやれ、毎晩、別れるのはひと苦労だ。これでも、最近は聞き分けがよくなったほうだけど。
俺は静かにベッドから降りると、家を出た。
星明かりだけを頼りにしばらく進み、元の世界へもどるためのゲートの前までやって来た。
こっちとあっちとでは、昼夜が逆転している。そして俺は学生だ。
だから、夜はいっしょにいられない。
俺は夜陰にうかぶゲートに向かって歩き出した。
こんな二重生活にも、救いがひとつ。ゲートをくぐると、どういうわけか眠気を感じなくなる。
つまり、移動は睡眠に等しい効果があるってこと。
そんな都合のいい話あるかって?
実際に本当に事実なんだからしょうがない。
そうでなければ俺は、両方の世界での生活を成り立たせることは困難だったろう。
ゲートをくぐり抜けると、アパートの俺の部屋だ。
カーテンのすきまから、朝の光がもれている。