第20話 祭りのヒロインに大抜擢
王都では、毎年花の季節に合わせ、王国の豊穣と繁栄を祈念した『使徒の虹祭り』が行われる。国創りの神話を由来とした祭りだ。
神話曰く――この国の出来始は、あらゆる生を飲み込む混沌しかなかったこの地に、神が手を加えたことによる。かの存在は永遠の安定した生に飽き、この地に、不完全な生命を放って愉しもうとしたのだ――と。
そして、生命を途切れず循環させるため、造り出した生命には万物を輪廻する道を与えんと力を奮った。けれど力は強すぎて、灼熱の焔に地表は覆われた。苦慮した彼は自身の力を3つに分割し、生命に安寧を与える使徒として遣わした。
つまり、最初の強すぎる力の残滓が、覇気湧き起こす赤い翼の「焔使」。
それを押さえ込んだ力が、安寧をもたらす黒い翼の「黒天」。
そして生まれた生命を正しくあるよう導く力が、穢れを許さぬ白い翼の「天使」。
最後に、生命が命の喜びを謳歌する為与えられた力が、好奇心旺盛で悪戯をもたらす緑の翼の「翠天」だった。
それが今なおこの国に現れ続け、発展へと導くとされる4人の使徒だ。神の力の化身であるからこそ、それぞれの使徒は、2人同時に生まれることが無い。
「黒天」「天使」「翠天」が焦げた地表の「焔使」のもとに向かったとき、神は虹の橋を架けて神界と地上とを繋げたと云う――――。
「もちろん、王城から貴族街を繋ぐ貴族向けのパレードは賑々しく豪華に行われるよ。対して平民街は全然小規模ではあるんだけど、ミリオンが嫌なら無理は言わないよ? 断りの文句を入れるのは私がやるから気にしないで」
「コゼルト様はお優しいからそんな事をおっしゃるけど、実際は商工会で決まって持ってこられた話なんだ。そう簡単に断ったんじゃあ、今後の付き合いが・ぃてっ!」
もじもじと言葉を紡ぐコゼルトの隣で、偉そうに言葉を被せたペシャミンに素早く拳骨が落とされて、ポカンとしたミリオンの視界から栗色髪の頭が消えた。
にーっこりと大袈裟な笑みを作って、しゃがみこんだペシャミンの頭を、尚もグリグリしているのは、勿論コゼルトだ。
「痛い痛い痛い! だって、旦那様、ホントのことでしょ!?」
「私は断ったんだよ。人にはそれぞれ事情ってものがあるんだから、多数決で全部が決まってたまるもんか! いつもは多数決なんて無しに、自薦した娘さんの中から決めるのに、あの狸爺達ときたらフローラの使徒姿を見たいのと、商店街の客寄せに利用したいだけなんだから!!」
どうやら、平民居住区の商店街の方でも毎年、独自の『使徒の虹祭り』を祝う仮装パレードが行われているらしい。商売繁盛・五穀豊穣の行事に、近頃評判の『コゼルト薫香店』きっての看板娘フローラを是非・と云う話が満場一致で出されたとかなんとか。
「大丈夫ですよ。仮装であるなら尚のこと問題ありませんわ。お世話になってるコゼルト様のためでしたら是非やらせてください!」
いつもの恩返しができるのなら、仮装なんて全然オッケーとばかりに二つ返事で承諾したミリオン。けれど、当日、この時の迂闊な返事を激しく後悔する羽目になるのだった。
好天に恵まれた『使徒の虹祭り』当日。
朝まで掛かって商工会有志が製作した衣装が、着付け担当のご婦人2人と共にコゼルト薫香店に届いた。大きな包みを目にして、何を大袈裟なと軽口を叩いたコゼルトに、ご婦人がたは、ただ気まずそうな表情を返すだけだった。その反応に若干の違和感を感じつつも、コゼルトは着付け用に空けた作業部屋のひとつへ、ミリオンとご婦人たちを案内したのだが……。
作業部屋から、2人のご婦人に手を取られながら前屈みでヨタヨタと出てきたミリオンを見た瞬間、コゼルトは、この世の終わりを見た表情となり、ペシャミンは、いつもの顰めっ面が抜け落ちる。
「芝刈りした……お姫様……?」
ポツリとペシャミンが呟き、静かな室内はすぅと温度を下げた気がした。けれど一言でいうならそんな衣装だ。胸下にふんだんにフレアを寄せ、踝までの長いスカートとなった生成りのワンピースは質素な生地ながら愛らしい。けれど、背負う格好になった『藁とススキ』のカタマリは、身長の半分以上の大きさで、重量に負けて前傾姿勢を取れば、正しく芝刈り帰りかと突っ込みを入れたくなる有様で……。
とことん怪訝な表情で呟くペシャミンに、遅れてコゼルトの拳骨が落ちる。今回ばかりはしっかり的を得たペシャミンの言葉に、コゼルトの反応も遅れたらしかった。
次話より、1日1話を朝に投稿させていただきます。
次のお話から長編だけの展開となりますので、お楽しみに!




