第5話 ♪城内BGM【その主に我が剣を捧ぐ】
翌日、ルテットの姿はオルザノの町を囲む壁の上にあった。ゴロりと横になり瞳に青々とした空を映し出しては耳を澄ませていた。
目当てはオルザノの町自体が奏でる町BGM【今日も迎えられる朝】。それは町に結界の様なものを張り巡らし魔物の侵入を阻止する効果があった。
オルザノの町はRPG『ファイナルクエストサーガ』に登場するままの佇まいを取り戻したのである。
「ずっと音が鳴っていたらうるさいとか騒ぎ始める人は~~いなかったな。そもそも、それが当たり前の人達だったわけだし」
騒音問題になるのではないか?そんなルテットの読みは杞憂に終わった様である。
「懐かしい」
「故郷にいるはずなのに故郷に帰ってきた様だ」
町中から漏れ聞こえる人々の会話はその様なものばかりだった。
しばらく壁の上に寝転がり続けていたルテットだったが急に目を見開くと、はたと上半身を起こした。
「待てよ。町にBGMがない事も勇者アルトの敗退にも関係あるんじゃ?」
ルテットが慌ただしく頭の中で考えを巡らせ始めた頃。彼がいる壁の下にいくつかの人影が集まりだしていた。
傭兵ギルドに所属する魔法使いが壁の上にいるルテットを指さすと、重厚な甲冑を身にまとった騎士がその先に視線を伸ばしていた。
ファーレン王国はバルディア大陸の南方に位置し、オルザノ地方と呼ばれる一帯を領有している。領内の中心に位置する王城はオルザノの町から馬足で約半日ほどの距離にある。
ルテットは彼を訪ねて来た王国騎士に連れられファーレン王城まで馬車に揺られた。そして、王のいる謁見の間へ通されていた。
「そなたが魔物の群れを追い払ったと噂の者じゃな。聞けば笛一つ吹いただけと申すではないか、一体どの様な術なのじゃ?」
さて、RPG『ファイナルクエストサーガ』っぽい展開になってきたぞ、と。本来ならオルザノの町に押し寄せた魔物を主人公が町の外でバッタバッタと薙ぎ倒す。
その功績を国王に認められ勇者と呼ばれる事になり、魔王討伐の旅へ送り出される。Fクエはそんなオープニングシーンから始まる。
主人公とはやり方が違うけど確かに俺も薙ぎ倒した事には違いないから2人目の勇者認定でもされるだろうか?この世界に転生していた事に気付かずに過ごした16年間、何だか随分と長いプロローグを経てようやくオープングに辿り着いた様な気がする。
「私が用いたのは『魔奏』というものにございます」
そもそもこの世界はFクエがリアル化した様な世界~~云々は説明してもポカーンとされるだけのはずなので置いといて。音楽で特別な効果を引き出す魔法の一種という感じの説明にしておいた。後は実演して効果を感じてもらえばいいか。
「この城もオルザノの町と同様、魔奏に共鳴して奇蹟を起こしてくれるはずにございます」
そんなわけで城内BGM【その主に我が剣を捧ぐ】を。初めてやってみるのでどんな効果になるかわからないけど。まあ、これまでの経験でマイナス効果って事もないだろう。
ティンホイッスルを取り出し魔奏を始める。やはり、城は魔奏に反応して共鳴を始めた。きっと今頃は城内のあちこちで城内BGMが鳴り響いているはずだ。
「おぉ! これが魔奏の起こす奇蹟かっ! 城が曲を奏でるとはの。それにしての不思議じゃの、初めて聴くのにどこか懐かしい。何かこう、知己の者に再会した様な気分じゃ」
初めてだけど懐かしい、反応も町の人達と同じだ。それはいいとして、肝心なのは効果だが?
「おい? 何だか妙に身体が硬くなった様な気がしないか?」
「お主もか。硬くはなったが手足は普通に動かせる、今ならどんな魔物と戦っても盾となって陛下たちをお守り出来そうな気がするぞ」
謁見の間の隅っこで衛兵たちがざわついている。なるほど、城内BGM【その主に我が剣を捧ぐ】がもたらす効果は防御特化っぽいな。
バトルBGMはバランス良く全ての戦う力が向上したけど、城内BGMは防御だけが激上りという感じなのだろう。確かに城に相応しい効果かもしれない。町BGMは使い方が限られてしまうけど、城内BGMならもしかしたら戦闘で使う場面もあるかな?
取り敢えず城の人達が満足してくれているならそれでいいとしよう。防御力の向上を実感した事より、最終的には懐かしさを感じで嬉しがっている様子が何となくいい。
国王だって妙に上機嫌だ。ゲームの時、玉座にずっと座っている姿しか見た事のない人が今は剣舞を披露するほどなのだから。そう言えば若い頃は一廉の戦士だったみたいな設定があったっけな。
「魔奏士ルテットよ! 音楽で奇蹟を起こすそなたの働き、しかと確かめさせてもらったぞ。オルザノの町を救った者としてに功績に報いて褒美を取らす。何なりと欲しい物を申すがよい」
人々の笑顔。Fクエだと主人公はそれを褒美として望み、国王を大いに困惑させる。だが、それを取り戻すべく魔王を討つ旅に出ると続ける主人公に国王は『勇者』の称号を贈るのだ。
さてと、俺の場合はどうしようか?
「この世界にあるべき音楽」
「ん? どういう意味じゃ?」
「この世界には民が暮らす多くの町がありそれらを守る国の象徴である城がございます。それらは音楽の力で護らていない為、魔物の脅威の見舞われている事でしょう。それらに護り手となる音楽を灯して巡りたく思います」
「ふむふむ、確かにそれはそなたにしか出来ぬ事。だが、それを褒美と呼んでいいものやら……。何だかアルト殿が旅立つ前に申していたのと様子が似ておるな。そうじゃの、ルテット殿がそれを叶えやすく手助けをさせてもらおうか」
「陛下にご助力頂けるとは。なんと、もったいない!」
「これから町々を訪ねて周るのであれば、勇者アルト殿の下へ送る補充メンバーのパーティと同じ道のりになるであろう。ルテット殿もしばらくそこに加わり彼らに護衛してもらうとよいだろう」
「はっ! 陛下のご配慮に感謝致します」
そう言えば、戦士を失った勇者アルトのパーティに補充の戦士が送られる事になっていたな。傭兵ギルド所属の戦士ならば所詮はモブなので誰も彼も実力は似たり寄ったりだが。結局、誰が選ばれたかな?
「補充の者は丁度この城におる。早速、ルテット殿に挨拶させようぞ」
ん?代わりの戦士は傭兵ギルドから出すんじゃないのか?まさか元戦士の国王自ら行くとか言い出すんじゃないだろうな。俺の知っているシナリオ展開とは少しずつ変わって来てるから何があってもおかしくない。
「誰か呼んで参れ! 我が娘のコレットを」
コレットだって!?コレット姫はエンディングで勇者と結ばれるヒロインだぞ。それが代わりの戦士とはどういうわけだ!?
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