第4話 ♪町BGM【今日も迎えられる朝】
俺は町を囲む壁の上に立ち口元にティンホイッスルを当てていた。
「町BGM【今日も迎えられる朝】、予想通りならば」
ゲームの時、フィールドから町に入ればあのBGMが出迎えてくれた。魔物との戦闘に明け暮れパーティがボロボロ状態で町に辿り着いた時、取り敢えず全滅は回避出来たのを感じられる瞬間。あれほどホッとさせられ安らぎをあたえてくれたBGMは他にない。
この世界にやってきて以降、ずっとオルザノの町で暮らしていながら聴く事のなかった心落ち着かせるメロディが町中へ染み渡っていく手応えがある。そう、『ファイナルクエストサーガ』においてこれがあるべき本来の町の情景。しかし……。
あれ?待てよ、他の楽器の音も混じり始めた様な?FクエのBGMを知っているのは俺だけのはず、他に演奏出来る者がいるわけないのだが。魔奏を中断して辺りを見回しはみたがそれらしき人影は見当たらない。
「やはり、おかしいぞ。今、俺は全くティンホイッスルを吹いていないのにBGMが鳴り続けている」
ティンホイッスルでつつましやかに魔奏していたはずだが、今はまるでオーケストラの様。町中に行き渡るほどの大音量だし、俺の魔奏すら必要ないみたいだし。これは一体どうした事だ?
「んっ? なんだか足下が震えている様な」
全ての感覚をそこに集中させてみる。何だか足下の辺りがうっすらと振動している様だ。しゃがんで壁に耳を当ててみる。
「壁の中から音が出ている、町そのものが演奏を始めたのか!?」
どういう仕組化はよくわからない。でも、町を覆う壁の中の方から町BGMが鳴り響いていた。そして、町の上空に薄ら青い光を放つ粉の様な物が昇っていくのが見える。それらはまるでドーム状の屋根の様になり町を覆い始めている。
「あれは魔法力か。それにしても、あんな大量にどこから湧いてるんだ?」
青く光る粉が昇ってきた先を追いかけるとオルザノの町の人々の姿があった。人間が持つ魔法力を1人1人からほんの少しずつ放出させているという事か。
俺の魔奏でそこそこ魔物の侵入を防げるかも?程度に思ったけど、これだけの規模にBGMが膨れ上がるならきっともう大丈夫。町の上空に青白く輝く魔法力で形作られた屋根を見てそう確信した。
ルテットが割と呑気に壁上でティンホイッスルを吹いていた頃。彼とは対照的に血相を変えた傭兵ギルドの傭兵たちが町の至る所に向かって走っていた。無論、彼らの目的はオルザノの町を魔物から守る事にある
その中でも特に弓の扱いに長けた者、魔法を使える者は慌ただしい様子だ。高台に上がってそれぞれ手に持つ弓や杖を上空に向かって構え始める。地上から迫る魔物より空から来る方が遥かに厄介、それをどれだけ食い止められるかで町が受ける被害は大きく変わる。幾度も防衛戦を経験した者達には常識だった。
その様な者達の目には壁の上で笛を吹いている男の姿は奇異に映った。この状況で一体何をしているのだ?そんな暇があるなら他にやる事があるだろう。そうは思えどおかしな男に構ってはいられるほどの余裕はなかった。
そして、いよいよオルザノの町を舞台にした攻防戦は始まった。しかし。
空飛ぶ魔物たちは上空から降り注ぐ雨の様にオルザノへ町へ突入を開始した。そして、町を覆う青い光の壁に当たっては片っ端から弾けていった。爆散した肉片もまた、光の壁に当たると瞬時に蒸発した。
こうして、100匹以上はいたと思われる空飛ぶ魔物の群れは突入と同時に全滅したのである。
また、地上から迫り外周の壁をよじ登ろうとしていた魔物。頭突きを繰り返していた魔物も、町自体が青白い光に覆われて以後はやはり砕けた。
そうして先頭にいた魔物たちが自らの突撃の結果で肉片を散らばせると後ろに続く魔物たちは後退りを始めた。
やがて1匹残らず姿を消していた。幾匹もの魔物たちが命を散らした後には、町BGM【今日も迎えられる朝】が陽気に鳴り響いていた。
魔物の群れが退散したのを見届けた俺は口元からティンホイッスルを外してその場に腰を下ろした。
「やはり、町BGMには魔物から町を守る効果があったか。それにしても、俺の魔奏に反応して町自体が町BGMを奏でるとは予想外だったな」
俺の魔奏は大火事の起点となるマッチ1本の点火の様なものか。町BGM【今日も迎えられる朝】のバイブレーションが壁に燃え移り、その中に一気に燃え盛る炎に成長して町中へ行き渡った。
ゲームの時、町のどこにいてもBGMが聴こえていたのを思えば町自体が音響設備になっていたというリアル化も納得だ。
「ところで。これ、夜中になってもずっと鳴り響いていたらうるさくないかな? 寝られないとか苦情が殺到したらどうしようか……」
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