第3話 勇者敗れる
ルテットが暮らすオルザノの町には遠方より驚愕の一報が届けられていた。
「ボルテッドの塔を護る魔物に勇者アルトが負けただって? ウソだろ……」
「本当らしい。傭兵ギルドから連れて行った戦士ガルザスが死んじまって、その補充に新しい戦士を派遣して欲しいとの依頼がギルドに来ているくらいだからな」
「むむっ……。ガルザスはギルド随一の戦士だったろ? その代わりなんているのか? それに町周辺の守りで戦える者は1人でも多く必要だ。新たに人を出す余裕だってないぞ」
「それはそうだが、次は勇者アルトが危ういかもしれん。勇者を失うわけにはいかないだろ……」
オルザノの町が生んだ勇者アルト。人間の世界を滅ぼさんとする魔王を打倒する為に旅立ち、次々と魔物を打ち破って快進撃を続けていたはずの勇者が敗れる。その衝撃は稲妻のごとく瞬く間に町中を駆け巡っては空を覆う雨雲かの様に人々の顔を曇らせていった。
ルテットは酒場の隅にある席に腰をかけて、うなだれながら言葉を交わす町の人々の話に耳を傾けていた。この世界がRPG『ファイナルクエストサーガ』だと気付いているルテットだけは町の人々と感じ方が少し違った様である。
「ボルテッドの塔と言う事は~~、相手は『ドラギニャ』か。確かに強敵ではあるがそこまで攻略の難しいボスじゃなかったはずだが……」
それがゲームの時に主人公である勇者の中の人として対戦した事がある俺の感想。HPと防御力がズバ抜けて高い竜だがこれと言って凶悪な特殊攻撃があるわけではない。物語の進度に合わせて普通に成長させた勇者パーティで充分戦えた、はず。
でも、あれか、この世界はBGMが欠けてしまった分だけ人間側の力が弱い。バトルBGMで大幅に強化されるステータスだけど、勇者アルトのパーティにはそれがない。しかも、ボルテッドの塔に辿り着くまでに相手する小ボスクラスと違って『ドラギニャ』戦では初めてボス戦専用BGMが流れる。
通常バトルBGMでさえ充分過ぎるステータスアップを感じられた。まだ実際に魔奏として使った事はないが、ボス戦BGMはもっと効果が高いと思われる。それがないから敗れた?とにかく、俺が知っているRPG『ファイナルクエストサーガ』とは随分違う展開になってしまった。
違うと言えば、オルザノの町の状況も俺が知っているゲーム世界のものと違う。町の外は魔物が徘徊しているのに町へ侵入しようとしてくる様子は一向にない。だから、町から外へ出ない限りは安全が約束されていたのがゲームの時。
ところが、今俺がいるオルザノの町には魔物が大挙して押し寄せて来る事が度々あった。頻度は月に1回程度だがその度に町のあちらこちらが破壊され、死人も大勢出た。
「そろそろか……。ゲームの時の町にあって、リアル化した世界にないもの。それが魔物が町に侵入出来てしまう違いだとしたら? 試してみる価値はあるか」
それから数日ほど経った頃。
「来たぞ~~! 魔物だ!!」
オルザノの町は城塞都市という程の規模ではないものの外周が壁で囲まれた造りとなっていた。地上から突入するには出入口として東西南北に配された4つの門のいずれかを破るか、壁そのものを崩してしまうか、という事になる。
この辺りには幸いにしてそれを可能としてしまうほど大型の魔物はいなかった為、地上から迫る魔物はそれほどの脅威とならなかった。問題はがら空きとも言える空から侵入してくるものたちだ。
町の上空には空飛ぶ魔物たちの襲来があった。体格が普通のものの5倍はあろうかという大ガラス。子豚ほどの大きさのハエで両前脚が鎌状になっているカマキリバエ。
魔物としてみれば最下級に属する程度が町で暮らす一般の住民にしてみれば充分に生命の危機となる存在。それらが10匹や20匹では収まらないほど町の上を飛び、不快な羽音を響かせていた。
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