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初めての嫉妬(「貴方が恋と愛を見つけるまで」の書きたい所だけ短編です)

作者: 崎谷紫

「貴女なんて、たかが田舎の領主の娘ごときが...!」



振りかざされる手がゆっくりに見えた。





パシンと頬を叩かれた時、正直驚いてしまった。

わたくしは喧嘩とはいえど、まさか手をあげられるとは思っていなかったから。

「叩かれる」という想像はしていなかったのだ。

そして、爪でもあたったのだろう。

左頬全体の痛み以外に、薔薇の棘を誤って触ってしまった時のような、

皮膚が切れた感じがした。




目の前のご令嬢も、予想外だったのか顔色を青くしている。

そして冷汗も浮かんでいる。



気を使ってあげたいと思うのだが、自分の頬の痛みに精一杯で考えられなかった。



呆然としていると、ご令嬢の後ろから走ってくるユイシアが見えた。

それにほっとしたのもつかの間。



ユイシアは、何とご令嬢の髪を後ろからわしづかみ頭を地面へと投げ捨てようとした。

ご令嬢が怪我をしてしまう。

何より、ユイシアが悪く思われてしまう。

止めなくては!!



「ユイシア!」



大きな声で叫ぶ。

ぴたりとユイシアの腕が止まり、ご令嬢も座り込むような姿勢になった。



「大丈夫よ。」

「......血が出ている。」

「お話し中に、ただ手がかすっただけよ。偶々爪でも当たったのだわ。」

「そうには見えない。」



ギリッと音がして髪を掴んだままのユイシアの拳が鳴る。



「本当よ。信じてくれないの?」

「......。」



それでも、ユイシアの手はご令嬢の髪を掴んだままで、

ご令嬢に至っては口をぱくぱくとさせて、真っ青を通り越して白い顔で泣いている。

哀れだ。

こうなったらと、奥の手を出す。



「ユイシア、わたくしお腹がすいたわ。昼食をとっていないの。」



嘘だ。

むしろサンドイッチが美味しくて食べ過ぎたくらいだ。



「久しぶりにユイシアの淹れた紅茶が飲みたいわ。お腹がすいたわ。」

「......。」



何度も言うと、ユイシアは大きな息をついた後、ご令嬢の髪を放した。

ご令嬢はようやく息ができたとでも言うようにせき込みながら泣いている。

それを構うことなく、わたくしの前まで歩いてきた。

わたくしには左頬の状態が分からないのだが、そんなに酷いのだろうか?

ユイシアが泣きそうな顔をしている。



「ユイシア...?」



首を傾けて疑問に思っていると、ふわりと抱きかかえられた。

こ、これは!!

ロマンス小説で言う所の「お姫様抱っこ」!!



「ユ、ユイシア!足は何ともないわ!!わたくし歩けるわ!!」

「黙って。」

「でもっ、わたくし重いでしょう!?」

「軽すぎるよ。もっと沢山食べて。」



あわわっとじたばた腕を動かしてしまいそうになるが、ユイシアが「静かに。」と、

真剣な顔で言うので、両手は胸の前で組んで大人しくした。



ご令嬢達にも、集まっていた観客達にも目もくれずにわたくしを抱えたままで、

ユイシアが歩き出す。



「しょ、食堂に行くの?」



自分は咄嗟に「紅茶が飲みたい」と言ったのだ。

ならば食堂に行くのかと聞けば。



「ううん、生徒会室。」

「生徒会室?」

「治療魔法に特化した人を呼んである。」



その言葉に、もしかして癒しの手を持つエルフ族の姫君かと胸が苦しくなる。

ユイシアとお似合いだと噂になっていた...。



「スノーが子供の頃から治療魔法が苦手だって、今も駄目だって言ってたから呼んだんだ。」

「...え?」

「それでも治療魔法を使いたいって頑張っていたから。」



教えてもらえばコツが分かるのではと、話をしていたと言った。



「でも今はそれよりも、傷を治してもらう。すぐに。」



そう言ってわたくしを抱えながらも、早足になるユイシアのシャツの胸のあたりを、

きゅっと掴む。



「......ユイシア、わたくし嫉妬していたわ。」



その言葉に、ぴたりとユイシアが止まった。

呆れられてしまうかもしれない。

でも。

この胸にあった醜い心は謝罪しなくては。



「ユイシアと、エルフの方が親密だと聞いて嫉妬したの。」



そう、ぽつりと呟くと。

何故かユイシアの頭が目の前に来る。

耳が真っ赤だ。

どうしたのかしら?と思っていると、がばっと音がするくらいに顔をあげると、

「まずは傷の手当だ。」と、顔まで真っ赤にしてまた歩き出した。







学園の庭ではまだざわめきが起こっている。

「スノーに手を出せば、ユイシア王太子殿下を怒らせる」という声と、

「王太子殿下に茶をいれさせるなど、やはりあいつは卑しい悪女だ」という声だ。




その喧騒の中。

ぽつりと。




「だーから、王太子殿下の宝物に手を出すんじゃないよ。」



そう苦笑する青年の声がした。



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