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第009話

歩行訓練を初めて1週間。

アーティは走れるところまで、バランス感覚を身に着けていた。

本当に徐々に走れるところまで来たので、相棒の事ながら自分の事のようにうれしい。

なんだろうね、これが子供に自転車の乗り方を教えている父親の心境なのだろうか。

子供持った事ないけど。


歩行訓練の間は金策をせずに過ごしていたのだが、その間に色々と検証紛いな事はしてみた。

とは言ってもバディロイド関連のものではなく、プレイヤー関連のものだ。


単純に走ったり、無茶ギリギリの事をしてみたり、平たく言うと学校である体力測定のちょっとキツイ版。

その中で一番顕著に結果が現れたのは、走った時の疲れ具合だった。


お使いクエスト……というか、ウー○ークエストでは基本的に俺は手製の岡持ちリュックサックに配達物を入れてご町内を徘徊していた。


もちろん、走るとそれ相応に疲れるのだが、では実際にその“疲れ”に現実との差異はあるのだろうか。

答えは“差異はない”である。


実際の検証とネットでの体験談(この手の検証勢はたくさんいた)はぴたりと一致。

全力疾走できる距離も、無呼吸状態で走れる距離も変わらない。

面白いのが、呼吸法や足の運び方といった技術面もしっかりと反映されていた点である。

これがわかった時、俺は思った。


──この世界、相当に狂っている……と。


正直、実はここはゲームの中じゃなくて別世界に来てますって言われた方が信じられるレベルだ。

でもゲームである。

ログアウトだってちゃんと出来る。

ケガも現実に反映されない。


まぁ、元々ここは俺にとっては異世界だ。

俺の頭じゃ考えるだけ無駄なんだろう。

とりあえず今は、賞金を目指しながらアーティと楽しく遊ぶ。

それだけ考える事にしよう。


そんな無駄な事を考えながら、俺達は今、軽い配達クエストをこなしていた。

もちろん徒歩で。


いやぁ、低レアマニピュレータとはいえ、ブループリントのものは優秀だなぁ」


岡持ちを自作して、わざとアーティにクエスト用の物品を手荷物として持たせてみたが、アーティはまるで問題なさそうだ。

肩を軽く稼働させたり、荷物を上下させてるが、汁物を運んでいないし、中身が零れることも無い。

いや、ここはあえてラーメンとかの方が良かっただろうか。

ふいにアーティが俺にジト目を向ける。


「確かに保持出来ていますが、これくらいならば元の身体でも十分持ち運べます。

 わざわざこの身体で運搬する意味がわかりません」


そりゃあロープ(ゲーム内のホムセンで買える)で括り付ければ運べるだろうさ。

でもそれじゃあいけないんだよね。


「手で運んでいるのは器用さの熟練度のためさ。

 まぁ熟練度なんてものがあるゲームなのかはわからんけども」


「確かにステータスがほぼないゲームですしからね」


そう、このゲームにはステータスウィンドウと言うものがない。

あ、メニュー画面とかはあるけどね。


とはいえ、空間ディスプレイよろしく、よくわからないデジタルなものが空中に浮かぶなんて事はなく、初期装備のスマホがその役割を担っていたりする。

未来都市ばりに、まっぽーめいたデジタルな看板がある世界で、なんでここだけと思わなくもない。

分かりやすいけれども。


「そこらへんも異端だよなぁ。

 ただ、ステータスがないってわけじゃないと思うけどな」


「どういうことです?」


「マスクしてるだけって話。

 ほら、この世界でずっと全力疾走って出来ないだろ?」


「無茶をすると強制ログアウトですからね」


「それは最終的な結果だよ。

 この世界、汗はかかないけど、走ると疲労感はあるんだ。

 息も上がるし」


「バディロイドの私にはわからない感覚です」


「そうなのか。

 まぁ、ゲームだし?

 その疲労感も現実よりも緩和されてるっぽいから初めは気づかなくて、

 簡単に無茶出来ちゃったわけだけどさ」


この緩和についてだが、どちらかと言うと、苦痛に対して鈍感になっているようなんだよね。

全力で走っても息が荒くなったりはするけど、苦しさはさほど感じないし、ふくらはぎに乳酸が溜まる感じもない。

こけた時も衝撃とチクっとした痛みはあるんだけど、現実のそれとはまるで違う。

おかげで反射的に痛いと口走ってしまったりもする。


前世の記憶を思い出しながら、俺はさらに続ける。


「その疲労感を感じるっていうのがミソなんだよ。

 ステータスのない世界なら、そもそも疲労値がないから、疲労感を感じない」


ゲーム的にはこの考え方は間違いではないはずだ。

アーティが怪訝な顔をする。

うん、作ってよかった表情差分。


「それはただ、現実をシミュレートしているだけなのでは?」


「そうとも言うけど、結局、シミュレート用の変数値は存在するんだよねぇ。

 まぁ、この考え方を突き詰めると、現実にもステータスが数値で存在するなんて

 結論になりそうだけど、そんなのゲーム脳でしかないし。

 そもそもステータスの数値なんて、

 製作者側がプレイヤーにわかりやすさを伝えたいために出来たものだし」


「……それが擦れた考え方だと思えてしまうのは私だけでしょうか?」


「前世でオフゲのMOD武器とか作ってたりもしたからね。

 1度は考えちゃうよね、んでちょっと怖くなるよねぇ」


「そんなところにも前世の影響が……およよ……」


「なんかアーティは前世の記憶が悪いものとでも言いたげだな?」


「だって、子供というのはもっと無邪気なもののはずです」


「そんなの人によるだろうに。

 というか“はず”って、ネットかなにかで調べたのか?」


俺が、こんなあけすけにいうのは、アーティだけだ。

一応、両親の前でも猫を被っているし、曲がり間違ってもし両親がそういう心配をしてるなら、もっと良い子にしないと……。


「バディロイド専用の掲示板に質問しました」


「ネットリテラシーっ!!」


「心配しなくても個人特定は出来ないようになっていますよ?」


「そういうことでな」


「それに頂いた回答は満場一致で“早い中二病”でしたから」


「……えっもしかして書いちゃったのかよっ!?

 前世云々とかっ?!」


「もちろん。

 客観的な意見が必要でしたから。

 とはいえ、ヒロシの特異性は接しないとわからないのかもしれませんね」


「……そういうプライベートな内容をネットに書いちゃいけません」


「バディロイドしか見れないのにですか?」


「当たり前だろっ?!

 ……たぶん」


「プライベート情報はしっかり保護プロテクトがかかっているのに……」


「……そのプロテクト、破られたりしないだろうな?」


「するわけないですよ。

 高度に暗号化されたものですよ?

 国のセキュリティーより安全なものです」


それはそれで怖いんですけど。

テラコーポ君っていったいどんな会社なのよ……。

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