第008話
「アンヨは上手、アンヨは上手♪」
「やめてください、恥ずかしさで死んでしまいそうです」
俺たちは今、いつもの人が少ない公園でアーティの歩行訓練をしている。
両手を繋ぎながら俺が後ずさりして教えるさまはさながら、子供に歩き方を教える親のようだ。
まぁ、俺にそんな縁が出来たことは前世でもないけどなっ!
「しっかし。
頭部を簡易モニタにしただけでもアーティの感情がわかるようになるもんだな」
「その簡易モニタを作るのに一番手こずってたくせに何言ってるんですか」
「仕方ないじゃないか、頭部が真四角モニタなんて許せなかったんだから」
「そのこだわりはどこから来るんですかね?」
「あくなき探求心?」
「また適当な事を言って……」
今のアーティはさながらヒロイン型の勇者ロボって形の2足歩行ロボットのシルエットをしている。
頭部は個人的ジャスティスな髪型をモチーフにしたポニテ髪風ヘルメット、顔面は人の頭部をツルンとデフォルメさせたモニタタイプと少しこだわっている。
まぁ、モニタは目の表情しかビジュアル化してないけどね。
口ムズイし、口パク×表情差分で物量的に軽く死ねる気がする。
そんな感じで感情表現してほしくて顔は頑張ったけど、身体はさすがに妥協した。
拘ると完成が見えなさそうだったし。
フェチズムって罪深いよホント。
お陰でおっぱいとかそれっぽいのが付いてるだけ。
揺れないし、固いし、小さい。
あ、先端の突起とかもないよ?
シルエットは女性型なのに、残念無念だ。
「それにこの格好はどうにかならないのですか?
ほぼ裸じゃないですか」
「何を仰るナイチンゲール。
ロボットで服着てるのなんてほとんどいないじゃないか」
ちなみに、ごく一部のユーザーはロボットに服を着せている。
布などの素材は店売りしているし、いろんなところでゲット出来るので、そりゃ出来なくないけど、3Dソフトが役に立たない。
布製品作りたかったら全てVR空間でのハンドメイドしてねっていう鬼畜仕様だ。
まぁ、課金要素にコスチュームあるからね、さもありなん。
敷居が高いったらないね。
「シルエットの問題です!」
「えー……そうかなぁ」
「“えー”のあとのためが長かったので、自覚してるのですね」
「うっ……するどい。
まぁ、真面目に答えると、装甲追加しようとは思ってるよ。
特に股間部はバトルじゃ狙われやすいからスカートにする予定」
「それまでこのままなのですか?」
「だって、まだ設計できてないんだもん。
大丈夫、大丈夫。
まだ、だれとも戦うつもりはないから、股間を攻撃されることもないよ」
「そういう、心配をしているわけではありません……。
あと股間股間連呼しないで下さい、恥ずかしい……」
「だってそこの関節やられると、移動不可バフかかって恰好の的ジャン。
それに装甲増やすと排熱に問題もでるから、適当出来ないんだよねぇ。
ほんとこのゲームよく出来てるよ。
いっそのこと排便とか実装しようかなぁ」
「……ヒロシ、いま、聞き捨てならない言葉が聞こえたのですが」
「あぁ、排便のこと?」
「有機ボディでもないのに、私がお花を摘みにいくわけないでしょうっ?!」
「ものの例えだよ。
今もラジエーターとファンで排熱してるけど。
どっちも定期的にメンテナンスが必要だからね。
ある程度は自浄効果で冷却水のおしっこと埃のウンコできるようにしたら
便利かなって思ったんだ」
ゲームの中で機体内部にゴミが溜まるなんて仕様を見つけた時は、発狂しそうだった。
誰がそこまで仮想現実に求めたのか……。
だから俺は悪くないし変態じゃない。
自浄効果を持たせたくなるのは当然の帰結でしょ?
「発想が変態のそれ……ヒロシはまだ10歳なのに……変な前世のせいで……」
「失礼な。
真面目に考えてるだけなのに……。
ホコリも熱暴走も前世でやらかしてパソコン壊したことあるから、
しっかり対策したいんだよ」
「それだけで、貴方がどれだけ自堕落な生活をしていたのかうかがい知れます」
「それはぐうの音も出ない指摘だな」
これでおっぱいラジエーター作る気だとか言ったら、相当怒られそうというか、説教コースになりそうだな。
……でも、おっぱいラジエーターいいと思うんだよね。
人型で不自然じゃなく、それなりに大きいものでも2機ものせられるし……。
流石に絞ったら冷却水がピュッと排水するのはアウトだよな。
俺もそこまで変態じゃないし?
やはりおしっこ、おしっこが全てを解決する……ような気がする。