第006話
「ヒロシ、さすがに無茶です」
「へーきへーき、これぐらいの荷物……」
グシャ
……
…
「……はッ?!」
と、張り切って仕事をしてたらいきなり強制的にログアウトされた。
何事?
『疲労によるログアウトですね』
俺の疑問にアーティがセンサーを点滅させて答えてくれた。
彼女もログアウトしたようだ。
「疲労? なにそれ?
え? ゲームでしょ?」
『ゲームでも疲労は蓄積します。
この場合は精神的疲労と言う形になりますね。
ヒロシは今、立ち上がるのも億劫になっていませんか?』
言われて気づく。
マジか、確かに指一本動かす気力がない。
「50kgの荷物をマントにくるんで運ぶなんて無茶するからですよ。
クエストは失敗判定ですね。
ペナルティは少しありますが仕方ありません』
「ペナルティって……どのくらい?」
『あの依頼までの稼ぎがパーな位ですかね』
嘘だろライ○ンッ!!
20はこなしてたぞッ?!
──そんな失敗にもめげず、俺は金策に邁進した。
失敗しないように今度は綿密にスケジュールを立て、タスクをこなしていく。
前世からこういう作業は得意だ。
さらに、どうやら基地の購入を目指すのはチュートリアル的扱いの範疇なようで、計算したところ、1週間でとりあえず小さな基地が買えそうだ。
小さい、と言っても12メートル級人型ロボットが格納整備出来る程度には巨大だったりする。
大きな基地になると、それはもう大きな街レベルのものまで用意されているそうだ。
何だろう……経営シミュレーションでもやらせたいのかな?
基地は基本的に街にあるデパート及びマンションなど、エレベーターのある建物から行き来が可能で、地下にあるという設定だ。
なんだかエレベーターが転送装置みたいなんだけど、突っ込んだら負けだろうか?
他にも立地条件、例えば町工場風とか、港風とかはたまた山の中の秘密基地風、宇宙ステーションなど切りがないほど様々なものがあり、究極的には自分で建設も出来たりする。
もちろん、そのぶん購入代金は跳ね上がっていくんだけどね。
町工場風はちょっと憧れるけど、色々制約もあるらしいので今は普通ので大丈夫かな。
とにかく購入代金が安くて楽チン楽チン♪
『……と言ってた期日から、さらに1週間ほど経ちましたが?』
どこか怒ってそうな声でアーティがそんな事を言ってきた。
「実際ゲーム内通貨は溜まったでしょ?」
『でも基地、買ってませんよね?』
「そりゃあね。
買ったって直ぐに何かできるわけじゃないし。
思った以上に早く買えそうだから、金策を減らして、勉強しようと思ってね」
『学校のテストはまだだったような気がしますが?』
「学校の勉強じゃなくて。
骨格の勉強だよ」
『……へ?』
俺はフリーズしたようにセンサーを消灯したアーティにPCの画面を見せる。
「もちろん人体のじゃなくて、こんな感じで2足歩行ロボットの骨格さ」
『……これは、CADソフトですか?』
CADソフトは端的に言えば3Dモデリングソフトだ。
CADはその中でも寸法にシビアな設計図を作るようなソフトのこと。
「そうだよ。
もちろんフリーソフトを使ってる。
ここら辺は昔取った杵柄さ。
この世界でも投稿動画サイトは健在だからね。
ちょっとチュートリアルを検索すれば、作り方の1つくらいサクッと出てくるんだよ」
前世の世界でもそうだったが、ネットの世界とは広大で、動画文化が隆盛な事もあって、多種多様なジャンルのチュートリアル動画が転がっている。
もちろん、そういうのは検索しないと出てこないが、逆を言えば、検索する単語さえ分かっていれば、何でも出てくるのだ。
こっちの世界でもそれは健在で、GSOに限った話で言えば、検索すると多量な攻略動画が出てくる。
その中にはもちろん、俺が求めている2足歩行の作り方講座もあった。
そこからは簡単だ、セオリーを動画で学んで、触りの部分だけでも覚える。
これだけでとりあえず、バトルに勝てるロボットは作れなくても、2足歩行ロボットは作る事が出来る。
「というわけであと少しで2足歩行の素体の設計が出来るから、それが終わったらベースを買おう」
『……あー……では、必要そうなパーツのブループリントが貰えるクエストを
ピックアップしておきますか?』
「助かる!
あまりにもクエストが多くて最短ルートの割り出しに四苦八苦してたんだよ」
『お気になさらず。
何と言いますか……こういった場合はお礼を述べるべきなのでしょうか』
「ん?
俺は俺でロマンのためにやってる事だから、別にお礼とかはいいよ。
良い感じの素体になると良いな♪」
『……そうですね。
少し、楽しみにしています』
少し嬉しそうな声色を出したアーティに俺は握りこぶしを突き出して答える。
「最善を尽くすぜッ」