第002話
「切実に人型ボディが欲しい」
アーティと俺しかいない自分の部屋で、ベッドに寝転がりながら独り言ちると、アーティがジト目(あくまでそのような雰囲気)で俺にため息をついた。
『なんですか、藪からスティックに。
TSにでも目覚めたんですか』
アーティがネットスラングに毒されてしまうなんて。
もう少し、言葉遣いに気を付ければ良かった。
もう遅いだろうけど。
「目覚めねぇよ。
アーティの身体のことだよ」
『別に今のところ、不自由ありませんが?』
「俺が不自由なの。
その体じゃリアクションもとれないじゃん」
意外とセンサーの明滅と声色で取れてないことも無いけど、個人的に仕草がないっていうのはやっぱり物足りないのだ。
あと表情。
喜怒哀楽くらいは分かりやすくしてほしい。
だってここまで人間臭いのだ。
それがアクションにもフィードバックされるかどうか気になるじゃん?
『そんな事をする必要を感じませんが?
それにですね、まずは現実を見ることをオススメします』
「現実?」
俺はアーティに促されるまま、人型ボディのカタログページをネットで見て、開いた口が塞がらなくなった。
「さ、300万……?」
『オプションなしで、その値段です。
というか、女性型なんですか?』
「そりゃあ、アーティは女性ぽいから」
『どこらへんが?』
「声」
『……え?
それだけ?』
なんだかアーティが喋らなくなったが、とりあえずそれどころではない。
なんだ、このふざけた金額は?
カタログから詳細を調べてみて納得した。
これ医療用技術が使われてる。
特に義手や義足の技術だ。
それも、ロボット技術が高いせいか、前世とは比べ物にならないほど精巧で、人工筋肉だけでなく、皮膚すら人工のものがあり、人間のものと見分けがつかない。
……いや、もっとお手頃なのでも大丈夫なんだが。
さらに検索をかけると、シリコン成形で百数十万、骨格標本みたいなのでも、数十万するようだ。
「シリコン製は販売店での定期メンテナンス推奨、骨格だけでも関節類のメンテナンス必須……。
ほぼ新車買うのと変わらん感覚なのか」
あれ?
そう考えると安いような?
いや、俺の初年度の年収より高かった。
そう考えるととても高い。
高いよな?
『人型ロボットは精密機械ですからね』
「あっ、復活した。
でもなんで低い声出してんの?」
『こっちが地声です』
……ひょっとしてそれはギャグで言っているのだろうか?
「女の子が無理して低い声出してるようにしか聞こえないんだけど」
『……くぅ』
何故に鳴く?
まぁ良いか。
「とにかくアーティが現実を見ろと言ったのは分かったよ。
こりゃ10歳の子供には無理ですわ」
『……分かってくれたのなら幸いです』
「さて、そうなるとどうするか……」
ベッドに寝転がって考えてみる。
金額が新車並みに高い事は分かったけど、ハードルはあくまでそれだけ。
なら金策に走ってみようか。
子供でもお金を稼ぐ場合、真っ先に思いつくのは動画投稿。
……人見知りでキョドリ屋な俺には無理では?
クラスメイトとは何とか普通に話せるけど、不特定多数とか無理ぞ?
個人特定されたりしたら泣けるぞ?
デジタルタトゥー確定ぞ?
そも、自分の声とか嫌いだし、容姿だって前世より相当まともとはいえ、動画編集で自分の顔を見るとかキツイにもほどがある。
結論、動画投稿で収益化するのは無理。
後は地道に新聞配達とかかな。
……いや、この世界の新聞、全滅してたわ。
紙の本は生き残ってるのに、新聞はクソザコだったわ。
そうなるとギャンブル?
いや、前世から運なぞない俺がそんなものに手を出したら破滅ぞ?
色々考えて凹んだ俺はうつ伏せで唸り声を上げる。
『……そんなに人型が欲しいんですか?』
「欲しいね、切実に欲しい」
『なら、やってみます?
オンラインゲーム』
「オンラインゲーム?」