第015話
ヒカルと成瀬さんが(強制的に)同行する事になって個人的に不安が増した道中だったが、思いの外楽しいひと時を実感していた。
主な原因として、俺の人見知りが発揮されなかったというのがでかい。
2人ともおしゃべり好きであるらしく、道中の話題に全く事欠かないおかげで、あのちょっとした沈黙で胃がキリキリしてくる感じがまるでしないのだ。
「ヒロシも誕生日にバディロイド貰ったのかッ!!
俺と一緒だし、運命を感じるな♪」
運命と言うか、バディロイド自体が結構流行っている玩具だし、よくある事なのでは?
「いや、さすがに偶然だろ。
ビートは格闘タイプなのか?」
ルルースのバディロイドであるディーネと並んで後ろを歩くビートに視線をやる。
見た目は勇者ロボだが、武器を持ってないし、兵装と言えるものがあんまりない。
正直、あのレアモンをどうやって倒したのか、ちょっと気になる。
「うん、父ちゃんが買ってくれたんだけど、
『ブースターがないロボットはロボットじゃないッ!!』
ってはしゃいじゃってさぁ。
俺の意見はほとんど通らなかったんだぜ?
剣とか持たせたかったのにさぁ」
ヒカルの父ちゃんはブースター派か。
──いやいや、そこじゃなくて、
「ブースターのみ?
あのレアモンはどうやって倒したんだ?」
「あれ?
見てなかったのか?
あ、そうだ、お前気絶してたもんなぁ。
ビートは両腕にシールド発生装置を付けてて、それで体当たりしたんだよ」
おっと、思ったよりビートはイカれたブースター積んでそうだ。
体当たりだけであの巨体を倒すとか、どうなってんだ?
気になる、気になるけどあんまり根掘り葉掘り聞くのもしつれいかな?
話題変えよう。
「なるほどな。
でも剣を持たせてくれないとは、ご愁傷様だな。
ビートに似合いそうなのに」
「ヒロシもそう思うだろっ?!
やっぱり、ヒロシにはシンパシーを感じるなぁ」
せやろか?
ま、俺もロボット好きの男の子だしな。
こんな感じでヒカルとは元々気が合うのか、話していても苦じゃないし。
「なるほど、素体だったのはまだ試作段階だったからですのね。
無駄な装飾がない分、スマートには感じてましたが、確かに、これですと関節部が露出し過ぎですもの。
デザインはどこのものを参考に?」
「に、ニチアサとか?」
男の子の通り道、ニチアサ。
特撮ヒーローやヒロイン番組が集中的に放映されている時間帯だ。
一応俺目線だと、今世は異世界と言うことになるんだけど、ところが変わってもニチアサは放映されていた。
ありがとうニチアサ、フォーエバー。
「ニチアサ?」
しかし、成瀬さんはどうやらそっちの道は通ってこなかったようだ。
ヒカルが簡単に補足する。
「日曜朝にやってる、特撮番組だよルルース」
「何ですってッ!?
なんと……私は人生の半分を損していただなんてッ!!」
「そんな大げさな」
バディロイドオタクなお嬢様はアーティにご執心で、会話に困らない。
「良かったですね、ヒロシ」
俺に肩を貸されながら歩くアーティはそう言いながら俺ににっこり微笑んだ。
アーティの足関節は、要修理の段階までいったらしく、片足を引きずりながら歩いている状態だ。
「何のことかなぁ、アーティ君?」
「……いえ別にぃ?」
喜色の浮かんだやりとりをする俺達。
ちょっと顔に熱を感じたが気のせいだろう。
からかわれたくないので、ちょっと話題を変えるか。
「そう言えばヒカル、ビートはどうして音声デバイスがそんなにノイズ交じりに聞こえるんだ?
個性のため?」
「あぁ……これはね。
ブースターと外見に極振りした結果、一番安いのしか買えなかったんだよ」
せ、世知辛い。
というか、今の話だともしかしてビートは今も現実の姿のままって事か?
現実世界でブースター極振りとか、ヒカルの親父は何を考えてるんだ?
『私自身は個性だと思っているがな』
「確かに。
これで両手剣な勇者ソードとか装備してたらまんま勇者だな」
「ヒロシもそう思うッ?!
いやぁ、色々無茶な父ちゃんなんだけど、カスタムセンスはあるんだよねぇ」
「ヒロシさんの素体もどちらかと言うと、その勇者ロボに近いですわね。
でも決定的に顔が違いますわ」
「ビートみたいな人間のように口をスムーズに動かすタイプって自作するには難易度ルナティックなんだ。
現実世界でも高いでしょ?」
「……そう言えば俺、買うとき値段見なかったな」
「値段なんか気にした事ありませんでしたわ……」
このセレブどもめ。
「ま、意外と人の顔って作るのに手間がかかるって事。
それにとりあえず目元さえ分かれば、アーティがどんな気持ちなのか読み取れるから」
「ふーん」
「へー」
「……何だよ2人とも」
「いやねー?
そう言えば、ヒロシを膝枕させてたアーティさんの表情がちょっと悲しそうだったなってさぁ」
「確かに、目元だけでもどんな気持ちだったのか、は想像に難くない、と思っただけですわぁ」
「気持ちを汲んでくださるなら、もう無茶はしないで下さいね、ヒロシ」
「……大変申し訳ない。
じゃ、なくて、あれは事故だろッ?!
予測不可能回避不可能だったってッ!!」
「そう言うことにしておきましょう」




