第012話
動かしている足が鈍く感じる。
アーティのじゃない、俺の足だ。
ここは仮想現実なので、人間に限り、走っていると関節が痛くなったり喉が痛くなったりはしない。
ただ、自分の身体は鈍重に感じ、とにかく呼吸が荒くなる。
まぁ、何が言いたいかと言うと、俺の体力の限界が近い。
ペースメーカーのアーティがどうにかギリギリで敵が追い付けない速度で走ってくれているが、それも無限に出来るわけじゃない。
決断の時だ──。
「アーティ、ボディを限界突破させてとにかくアーティだけでも安全圏にいくってのは出来るかッ?!」
「損耗の大きな関節が自壊するため、速度が出せず不可能です。
私もヒロシも物理的に現実で死ぬことはありませんが、
これはボディの素材ごとロストを覚悟した方が良いかもしれません」
「俺を囮に使っても無理かッ?!」
「そんな事絶対にしません。
それくらいなら私が敵に特攻します」
「その方がロストが大きいだろぉッ!!」
「とにかく絶対に嫌です」
「この頑固者めぇーーーーッ!!」
「仕方ありません。
救難ビーコンを作動させます」
「作動させるとどうなるっ?」
「近隣にいるプレイヤーがそれを探知し、助力してくれるかもしれません。
人見知りのヒロシには辛いことかもしれませんが……」
「背に腹は代えられないっ、気にすんなっ!!」
そんな事気にして出し渋っていたのかよッ?!
気を遣わせて申し訳ないッ!!
「了解。
──救難信号がキャッチされました」
「早くないッ?!」
「バディロイド間の通信ですので。
現在、2組の救援者が自分達の座標を送信してくれました」
「え?
なに、もしかしてそこまで頑張れとッ?!」
「ここは地雷原ですから二次遭難にならないためでしょう。
どうしますか?」
「い、行くけど、どっちにッ?!
じょ、情報をくれ!!」
「片方は中学生のグループですね。
数は5人、編成は」
「そっちじゃない方の座標にするッ!!」
「まだ説明の途中ですが?」
「後ろのあいつを擦り付けてきたのが中坊共だったんだッ!!
似たような奴らを頼れるかよッ!!」
「人数的には中学生のグループを推したいところですが、承知しました。
──進路変更。
次の木を左に曲がります」
「抽象的過ぎてわからんねぇよ、ロケーター出してくれッ」
「私の身体がロケーター替わりです」
「ちっくしょおおおおおおおおッ!!」
もつれそうな足を必死に酷使しながら救援者のいる方へ向かう。
全部捨てて諦めたい。
そんな思いが一瞬頭をよぎったがここでそんな弱音は吐けない。
希望が見えてしまった。
なら最後まであがいてやるっ、コノヤロー!!