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第四話 楽しい楽しい魔法教室(2) - え……まだ続くの? -

豊かな森の中に災いの種あり。

大木に残る傷跡。

そんな時でも叡智の悪魔 ダンダリオン先生の講義は続く。


ノゾミは少し疲れていた。

ダンダリオンの話は確かに有意義だ、全て覚えていることができれば。

なんせ脱線の数が尋常ではない。

1つ例を出し始めると、そこに付随する情報を余すことなくしゃべり続ける。


今、必要な話をもっとして欲しい、とも思う。

記憶力も集中力も無限ではないのだから。


陽が少し傾き始めた。

そろそろ今夜の寝床を決めるべきだ。


といっても変わり映えしない森の中。

水の流れ込みそうな場所を避けた上で、大きな木の根元がいい。

一週間ほど前に、一度だけ寝ている間に雨が降ったことがあったけど、その時は本当に最悪だった。

起きたら水浸しで体調を崩したし、食べ物も服も地図も泥塗れ、丸一日乾燥と回復に努めて復活したものの、あの時は死を覚悟した。

雨が降り続ける中にいるとそれだけで体力が削られていくのを思い知った。

それに一人で体調を崩すと食べ物を得ることもできない、栄養がなければ回復も遅い、熱に効く薬草などを探すこともできない。

あの時はさすがのダンダリオンも黙り込んでいた。

屋根がある場所が、誰かが隣にいるというのがどれだけ幸せか思い知った。


その後すぐダンダリオンは薬草について、そして寝る時は木に魔法をかけておくことを教えてくれた。

なんで最初から教えてくれなかったのかと思ったけども、確かにノゾミは訊ねたことはなかった。

子供なら黙っていても、必要なものを与えてもらえるかも知れない。

けれど大人は、求めなければ与えられることはない、プライドというものがあるから、おせっかいという言葉があるから。


ダンダリオンが自身を大人として扱ってくれていたのに、文句を言うのは、それは子供だ。

だから今は訊ねるようにしている。


「今日はここにしようか。どう思う?」

<いいんじゃないかな。>


木に寄りかかって寝る。

その前に木に魔法をかける、危険なことがあれば知らせて欲しい、それと虫を寄せ付けないで欲しい、と。

一晩、根本を借りるついでに頼み事をする、報酬は魔力。

宿代みたいなものであり、知っていれば求めることができるサービスは多い。


<さて、では次は『杖について』。>

「え……。まだ続くの?」

<まだ陽が落ちきるまで時間があるからね! 明日には魔女の庵に着くはずだから、それまでに話しておかないと。>


・<杖について>

さてここまではなしてきたことで、杖についてピンと来ていることだろう。

魂の宿っている杖こそが魔法を使う上でもっとも理想的ということだよ。

姫が拾った枯れ木はなかなか悪くない。


生木の方が良いのでは? と思うかも知れないけど、それは最悪に近い選択だ。

何故なら木という魂の群体から木の枝を手折る、魂を手折るという行為が含まれるからさ。

そんなことをすればどうなるかわかるね、魂が自身で選び存在していた場所から、無理矢理別の場所へ移動させられるのだから。

よくて不満、悪ければ魂は焼失、最悪なのは魂の叛逆。

魔法を使おうとして魔力を与えたら、それを使って逆襲されてしまうことすらある。


故に地に落ちた枯れ木なのだ。

そこに魂のある確率はあまり高くはない、あっても小さな魂であることが多い。

しかし中にはその枝が、その状態が好きなものもいる。

人間だってそうだろう? 住み慣れた家、住み慣れた土地というのは愛着という意味で捨て難いものさ、そこは魂も同じなのさ。


しかし枯れゆく木は、いつか朽ち果て地に飲まれ自然に還ってしまう。

そこで魔力を与えることで、今の状態を保持できるようになると魂も喜ぶわけだ。

飴と鞭っていうわけではないけどね、朽ちゆく我が家に板一つでも分けてくれるものがいれば、誰だって喜ぶだろう。


そういった魂は協力的であり、先に述べた生命力の変換効率も高い。

なによりその魂がまわりの魂に働きかけてくれる。

魔法とは術者が周囲の魂に働きかけ事象を起こしてもらうことだが、杖の魂も同じように周囲の魂に働きかけてくれる。

同族のものであれば耳を貸すことも増えるし、格の高いものであればなおさら影響が大きくなる。


樹齢の高い木の枯れ木は最高というわけだね。


こう話すとでは直接木に働きかければ、とも思うだろう。

別に良いと思うよ? 持ち歩けるならね?


……。

まだ続きそうな気配がする。

仕方ないのでノゾミは無言で魔法を使い始める。

土を掘って穴を造り、空気中から水を集め、注ぐ過程で振動させ熱湯に変換する。

カナデに教えてもらった電子レンジという魔法。

水に特殊な振動波を与え続けることで何故か暖かくなる。

これがとても便利だった。

食事もあったかいものが食べられる、火を使わずにお肉に熱を与えられるのは有用すぎる。

もっとも泥塗れの肉には視覚的な問題で無意味だったけども。


<姫。気持ちはわかるけど、それすっごい魔力使ってるからね!? カナデでも水は別で用意してないとできない魔法だからね!?>


「湯浴みでも生命力は回復するんでしょ。使った分回復するから、とんとんだよ。」


<その消費量を賄えるわけがないんだけど。……やっぱり姫はとっても不思議だね。>

「いいから目を切って。」


悪魔の魔眼を使っていなくても、ダンダリオンとは視界を共有している。

ダンダリオンの方で視界の共有状態は切れるらしい、が、もちろん油断はしない。

少々長かったワンピースの裾を切断した布切れで右目を隠し、てきぱきと一日の疲れを流しにいく。


・<魔なるものとの契約>

湯につかり上気する姫の肢体を堪能できないとあらば口を開くしかあるまい。

さて、魔なるものとの契約について話そう。


魔なるものとは、概ね高位の魂から事象の領域にあるものである。

ボクのような悪魔、対をなす天魔、他には魂の群体……例えば、風の魔魂や魔木。

さらには逸話のある魔剣、名匠の魔楽器、などなど。


契約の内容は概ね、魔力とは別に肉も与えるから、その力を貸し与えたまえ、という内容が多い。

姫が契約で差し出した右目がそれだ、基本的にその目はボクのものだ。

なのでいくら姫が入浴を見られることを嫌がっても、見るなと命じたとしても、この目だけはボクが契約に従い自由にできる。

まあボクは姫が大好きだから、姫が嫌がることはしないけどね!!


契約によって得られるものを紹介しよう。

まず契約で差し出した部位には概ね特殊な力が宿る。

姫の場合は驚異的な視力だね。


さらに契約した魔なるものの力も借りることができる。

姫の場合はボクの持つ知識を頭の中で探し呼び出す検索能力も使える。

手順が面倒だし情報量が多すぎるから姫は面倒くさがってしないけどね、でもその分ボクに尋ねてくれるようになったからボクはとってもニコニコさ!


それと契約したものの魔力が自身の魔力に混じる。

つまり生命力だ。

生命力が増えるということは単純に有利だけども、加齢による生命力の減衰を緩和できること。

魔女が概ね長寿なのはここに起因する。

もちろん単純に魔法として扱える魔力も増える。

それと契約したものの魔力の影響力も得られる。

これが格の高い魔木等だとどうなるか、一体どれだけの魂に働きかけ事象を起こせるか想像もつかなくなってくるね?


そして命令ができる。

魔なるものの名を懸けた命令は絶対的な効果を発揮する。

これはもう知っているね。

もしその名に恥じる行いをすれば、自身の行いで自身の定義を外れるようなことをすれば、その魂や事象は消滅する。


契約というものはこの通り、多くを得ることができる。

半面、問題もある。

それが契約に差し出した肉だ。


魔なるものとの契約を違えるたびに、魔なるものはその肉の近しい肉を代償として得ることができる。

契約を違えるほど、その肉を奪われてしまう、ということだ。

姫の望みはこの世界の全ての魔女を排除すること。これ以上、魔女が悲しみを生み出さないために、根絶やしにすること、だったね。


逃げられた13番目はノーカウントにしておくよ。


なんてね?


しかし悪魔はこの裁量の部分を上手く利用し、ねじ曲がった捉え方をして契約違反だと言うものが多い。

肉を奪われ絶望する契約者を見るのが好きなものや、肉を得て好き放題に楽しんでから事象に戻るもの、とかね。

これがボク達が人間に悪魔と呼ばれる所以なのさ。


それとこれも普通はわざわざ教えないんだけど……魔なるもとの契約に使った肉を使えば使う程、肉に魔なるものが馴染む。

つまり肉を奪われるのさ。


「……え?」


水に命じて濁りを沈めながら、髪の汚れを洗い流していたノゾミが硬直した。


<もっともボクに関してはそんな危険はないから安心したまえ。愛しいものがこの世から消えてしまう選択に、一体どんな意味があるだろうか。>


とても大事な危険な話だった。

しかしそれをわざわざ口にした。

それが嘘か本当かを調べられる方法まで教えた。


なら、きっと大丈夫だと思うことにした。

さすがに恐ろしい内容だったので反応せずにいられなかっただけだった。

悪魔……と自称するけども、私の悪魔はずいぶんとその名が似合わないな、なんて考えながら、次は服を洗うことにする。



・名を与えること

さて本日最後は名を与えるということ。


姫は今日拾った枯れ木の杖に名は考えたかい?

なんでもいいというわけではないが、もし思いつくようなら考えてあげたまえ。


名を与えるということ、それはつまり、個を認めるということ。

その存在は他とは違う、自身にとって特別な存在であると、自身が認めたと示す儀式だ。


これについて知りたいのなら、姫自身が体験してみるのが一番理解できると思うよ。

誰かに認められるということ、それは自身の存在を認識し、自身を定義づけることにも繋がる。


要は自信が湧いてくる、ということだね、自信は気分を前向きににし、その前向きな気持ちが力となる、という少々心情的な話さ。


同じような効果として贈り物がある。

杖もそうさ。

姫が目隠しに使っている布切れでもよい、杖に巻き付け贈ってみるといい。

これも心情的な話にはなるけども、贈り物を貰うのは誰だって良い気持ちになる。

主人から主人が大切にするものを貰うというのも、自身を認めてくれた証でもあるからね。

これもなんでもあげればいいってものではない。

けども杖の場合は元が質素なことが多いからね、概ね何を贈っても喜んでくれるさ。

たまにデコりすぎて、何が何だかわからない物品もあるけどね!


「デコ?」

<きらびやかに飾りつけるという、異世界語さっ!>


ふむ。

洗い終わった服や自身に纏わりつく水へ退くよう命令する魔法を使い水気を飛ばし、暖かい風を運ぶ魔法で乾かす。

ドライヤーという魔法だとカナデは言っていたけども、他の魔女は名前をつけるほどの魔法ではないと言っていた。

さっぱりした。

ダンダリオンの言う通り確かに消費は激しい、しかし得るものは大きい。


贈り物と名前か、手元にある枯れ木の杖を見つめる。

あまりしっくりこないから、まだいいかと考える。


そして自身の胸元を見やる。

あれから薔薇は生えてこない。

ダンダリオンは私自身がきっぱり拒絶したからではないかと言っていた、よくわからない、とも。


明日は魔女の庵につく。

契約する悪魔の名はナフラと聞いた。

この森で杖を創り、村に卸しているらしい。

高価な杖ではないが、魔法を初めて習うものによく馴染む良い杖と言われている。


魔女の定義『世の為人の為にその力と知恵を行使しより善い世界へ共に往くもの』の体現者のようにも聞こえる。


いっそ悪人であればいいのに、私は明日、その人を殺すのだから。


木にもたれ夜空を見上げる。

枝葉に邪魔されよく見えない。

……今、自分は何を考えたのだろう。

私は魔女殺しの魔女なのだから。

心を沈める。

深い深い闇へ。

しずめ、しずめ、しずめ。

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