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INTRODUCTION

始まります。

―――――――

どれほどの時間が経っただろうか。

疎らであった雨はいつしか篠突く雨となり、その場にいる者全てをしとどに濡らしていた。

鼓膜を劈くような金属の衝突音、鈍器を叩きつけるような破砕音は止み、鼓膜を叩くのは、ただ降りしきる雨の音。

抉れた地面と、破壊を逃れた雑草に雨粒が打ち付けられる静かな雑音だけが其処にあった。

其処にいる誰もが、ただそれを見守ることしかできなかった。

誰も動けず、誰も声を上げられず、誰もそれから目を離すことができなかった。

絶え間なく叩きつける雨のことなど忘れてしまうほど、気にすることが出来ぬ程の緊張感、緊迫感。

多くの物が見守ることしか出来ない、ただ見ているだけしか出来ないその中心にあるのは、小さな二つの人影だった。

―――――――




数ある天変地異というものの殆どは科学技術の発展によって予測することができるようになり、事前に対策を講じる事によって被害を抑えることができるようになった。

地震、台風、火山の噴火など、多くの天災と呼ばれるものは早期かつ高い精度での予測が可能となり、人々が甚大な被害を被ることは少なくなっていた。

ただ、科学の力に拠る予測、そしてそれへの対策というものには、限界というものがあった。

或る時、地球の公転軌道状を直径数十キロの小惑星が通過するという観測結果が某国より発表された。

その小惑星の軌道及び移動速度と地球の公転速度から計算すると高確率で地球に衝突し、もしそれがそのまま直撃した際には人類どころか地球の存続に関わるとのことだった。

この発表を受け、大国や先進国と呼ばれる国を中心に、その小惑星の破壊ないしは軌道を逸らす方法を模索し始めた。

強力な爆弾や巡航ミサイルなど、各国が持てる軍事力や技術力を尽くし、その破壊・軌道変更を試みた。

しかし世界をあげて行ったその努力を嘲笑うかのようにその小惑星は進路を変えず、大きな損傷も負わずに地球へと近づいてくる。

世界中の人々は宗教の有無や人種を問わず、ただただ神に祈りながら、最後の時まで抵抗を続けるしかなかった。

そしてもうあと数時間で地球へ衝突するであろうという瀬戸際に、奇跡とも呼べる事が起こった。

最後の最後、もはや悪足掻きとも呼べるタイミングで世界各所から打ち上げた核弾頭を乗せた数十発の巡航ミサイルが、迫りくる小惑星の一点に次々に着弾する。

その着弾地点から小惑星に大きな亀裂が幾つも入り、やがて無数の細かな破片を飛散させながらゆっくりと、しかし確実に分裂していく。

既の所で小惑星の直撃を避けられた。

が、しかし、大小幾つもに分離したその小惑星の破片に対応する余力は、もはや人類には残されていなかった。

財や権力のあるものはシェルターなどに避難し、神を崇めるものはただ祈る。

もう終わりだと諦めた者たちも、それぞれの最期にふさわしいと思う行動をした。

そして数時間後。

無数の小惑星の破片は大気圏に突入、大気との摩擦で火球となり、燃え尽きることのなかった破片は世界各地の大地に大穴をあける。

建造物は安価な玩具のように破壊され、生き物は塵のように消し飛び、大地はパズルの様に砕け、飛び散った。

小さな島は海に沈み、捲れた大地が新たな陸ともなり、その出来事で世界地図は大きく変えられてしまった。

そして変わったのは、地形だけではなかった。

地球外から飛来したその小惑星に含まれていた未知の成分が地球上に飛散し、残された人々や生き物に、そして常識に変化を与えた。

それは、何十年も、何百年も、はたまた何千年も前から、想像上或いは空想上、伝説や架空のものにしか過ぎなかったような事。

所謂、『魔法』に近しい現象を可能とした。



―――その、地球の常識を根底から覆した出来事から百年ほどが経った、今。

残された人類は、残された技術と理論、残された記録と記憶を使い、そして『魔法』に近しい未知の力・現象を少しずつ解明しながら、新たな常識の世界で再び日常を築き上げていた。



或る晴れた日の午後。

或る町の、或る建物の周辺は騒然としていた。

黒と白の特徴的なカラーで塗装され、赤と青のランプを点灯させた自動車のような物がその建物の入口付近に数台停まり、それを盾にするように統一された制服の者たちが建物の中の様子を伺っている。

何事かと野次馬が集まり、制服の男の一人がそれらを散らすように声を上げるが、また少し離れた場所に人だかりができ始めてしまっている。

建物の入り口には覆面をした、如何にも強盗ですというような格好の男が、震える女性を連れて現れたところだった。

その男は片手で女性の肩を乱暴に掴んで抱き寄せるようにし、こめかみに拳銃のようなものを突きつけると、制服の男たちに向かって怒鳴り散らす。

「おいクソ警邏ども!コイツブッ殺されたくなかったら黙ってそこで大人しくしてろ!」

「ひ…ぃ…ッ!」

硬い金属の銃口を押し付けられた女性は、恐怖のあまり声も出ず、ただ震えながら自身を拘束する男に従うしかなかった。

一方制服の男たちも、一般市民を犠牲にすることもできず、しかし見過ごすこともできず、膠着状態を保つことしかできていなかった。

「…どうしますか…」

「今はどうもできん…応援は?」

「本部の方に要請しました。ここから少し離れた場所…東西南北2ブロックほど離れた場所で待機するように」

「ここに呼ばないのは正解だな…」

「逆上して人質を殺りかねませんからね…あとは、万一に供え『騎士隊』にも声をかけましたが…」

「なんて言ってた」

「『使い手』がいる確証がなければ動けん、と」

「だろうな…騎士サマたちらしい」

制服の男たちはただ、入り口で人質を盾にしている男を見据えることしかできなかった。

中にいる、強盗の仲間たちがどう出るのか。

そしてその男たちの中に、『魔法剣の使い手』がいるのか。

それによって動き方が全く変わってしまうがゆえに、動きようがなかった。

「中に『狩人』が居合わせていれば、話は変わるでしょうけども…」

「居合わせていたンなら、もっと早く状況は動いてるだろう」

「ですよね…」


「チッ…めんどくせぇことになった…」

建物の中で、強盗集団の指揮をとっている男が渋い顔をしながら独り言を言う。

人が少なく警備も甘そうな田舎の銀行を襲って金を奪い、警備隊が来る前にさっさとずらかる。

計画通りに行けばものの5分もあれば終わる、簡単な仕事のはずだった。

しかし彼らにとっては運が悪いことに、たまたま近くを巡回していた警備隊が建物内の異常を察知してしまったのだ。

メンバーの一人に人質を連れて外に出て警備隊を脅して足止めをするよう命じたが、逃走後の追跡が厄介だ。

「いざとなったら頼むぜ、レギ」

指揮をとっている男の横でその補佐をしていたレギと呼ばれた男は腰に携えた剣の柄を軽く握りながら頷く。

「ああ…、だが殺しはできるだけ避けたいな」

「そうだな…、厄介になる。…、おい、金はまだ詰め終わんねぇのか!?」

「もう終わる。おい、さっさとしねェか!」

指揮をとっている男が受付カウンターの奥で『仕事』をしているメンバーに作業を急がせる様に言う。

それを聞いた数人のメンバーは、銀行の係員の頭に大きな銃を突きつけ、金庫の鍵を開けさせる。

係員たちは恐怖で震えながら指示に従い、幾つもある金庫を次々と開け、そのそばから強盗たちが乱暴に中の紙幣をかばんに詰め込んでいく。

「チッ…思ったより遅ぇ…」

「ボス」

「あ?何だ」

警備隊に見つかった上想定以上に『仕事』の進みが遅く、若干苛立っていた指揮をとっている男にメンバーの一人が声をかける。

それはロビーの隅に人質を集め、妙な動きをしないように監視をしていたメンバー二人のうちの一人だった。

「それが…」

「お…おといれぇ…」

監視の男が目をやった先には、若干涙目になりながらぺたん座りでもじもじとしている少女が一人。

質素な白いワンピースを着、長い金髪はあまり手入れがされていないのか所々跳ねている。

「あ?」

「ひっ…!」

指揮をとっていた男はそれまで置きた想定外のことと、つまらないことで呼び出されたことで苛立ちを顕にした声を放つ。

少女はそれに怯え、びくりと身を一時強張らせるが、尿意が限界なのか再び腿をこすり合わせるように動かす。

その様子を見て指揮をしている男は短く舌打ちをし、外の様子を伺っている別のメンバーに声をかける。

「…くそ…、おい、ベル」

「どうしました」

「このガキを便所につれてけ」

「は?」

ベルと呼ばれた男は指揮をとっている男が発した言葉を聞き、思わず怪訝そうな声を上げる。

「ここで漏らされても面倒だ、妙な動きしたらぶん殴って構わん。ただ、殺しはするな」

「解った…、おら、立て!」

「きゃうっ…!」

「ユリシス!」

「てめェは黙って座ってろ!」

ベルが少女の腕を掴み乱暴に立ち上がらせると、その隣りに座っていた青年が少女の名を呼びながら慌てて立ち上がろうとするが、監視の男が持っていたショットガンのグリップで頭を殴りつける。

青年は短い呻きを上げながら床に倒れ込んだ。

「おにいちゃん!」

「大人しくしてりゃァ殺さねぇよ。おら、さっさと済ませるぞ」

ユリシスは兄と呼んだ殴られた青年を心配そうに数度振り返りながら、ベルに手を引かれ奥のトイレへと連れて行かれた。

青年を殴りつけた男がふとその青年の手を見ると、その手にはボロボロの布に包まれた長い物が握られている。

形状からしてそれは剣のようにも思えた。

「ボス、こいつ…」

「あ?…あー…はぁーん…?」

指揮をしている男は監視の男に再度呼ばれ、まだなにかあるのかと監視の男が指している方を見ると、態度を変えてゆっくりと青年の方に近づいていく。

他の人質が慌てて避けて作った道をゆっくりと歩き、うつ伏せに倒れている青年の前にしゃがみ込む。

青年は苦しそうにうめき声を上げながらも、その手は確りとその剣のようなものを握りしめていた。

それを見て男はあざ笑うように鼻で笑う。

「その剣、兄ィちゃん、もしかして『狩人』か?」

「だ…だとしたら…なんなんですか…」

「ク、ハハッ!もし兄ィちゃんがそうならよォ…、なァんでそんなとこで寝ちゃってるのさ?

俺達、悪ィ強盗さんなんだぜ?その手に持ってる立ィッ派な剣で、俺達のことをさァ、こらしめなきゃァいけないんじゃねぇの?」

馬鹿にするようにそう言い、男が青年の握る剣に触れようとしたときだった。

ロビーの奥、先程少女とベルが入っていった便所の方から鈍い音と、短い呻き声が聞こえた。

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