試演
ものの数分で学校の前についた。
すでに生徒も先生もいない時間のようだ。
日本のように部活があるとかってわけでもないし、テストみたいなものは殆どないから先生も残業するようなことはほぼない。
収穫祭周辺には忙しいみたいだけど、まだ先だしね。
馬に跨ったまま私達は校庭に入っていった。
セスさんも後ろからついてきている。
校庭入ってすぐの左側に馬をつなぎやすい木があったので、そこに行き降りてからエラン様とセスさんが手綱を括った。
その様子を見てから校舎の方を見ると不思議な気分だ。
めっちゃ暗い。
日本の学校は結構遅くなっても職員室には電気がついてることのが多かった。
そんな明かりもない。
そもそも明かりの設備がほぼないと言っていい。
もし悪天候なんかで暗くなったときのためにろうそくとか松明が保管されてはいたはずだけど、嵐が来れば学校は休みだし、そうそう使われることはない。
校舎の様子を眺めているとエラン様が肩掛けのバックから何かを取り出した。
横笛?
フルートに似ているけれど、木でできているものだ。
まぁ、もともとフルートも木管楽器なのだけどその原型のようなものなのかな…
「踊るのに音楽がないとやりづらいだろうと思ってね。」
おお…用意がいいですね。
「ありがとうございます。えっと…どのあたりがいいのかな…」
校庭の周りの石が光るらしいけど、その石の数は10超えてる気がする。
「たぶん…そのあたりでいいと思うよ。セス、ちゃんと見ていてくれ。」
「かしこまりました。」
エラン様が私に指示しそれに従い位置についた。
一番近い石のあたりでセスさんが見ている。
エラン様が横笛に口をつけ奏で始めた。
めちゃくちゃ演奏うまいな。
そして、自然と私の体は動く。
慣れた踊りだ。
私はひたすらその音に合わせて体を動かす。
踊っているととても気持ち良い。
小焼けの空に乾いた風が頬をかすめていくと風になったような気持ちになる。
だが、一つ気になるのは視線の端にちょこちょこと明かりが見える。
さっきまでは空の僅かな残りの日の光だけが見えていたのに、明らかに星ではない位置に照明ほどに光る何かがあった。
私はそれに気を取られつつも踊っていると一曲を終えた。
踊った爽快感と魔法陣が反応したであろう絶望感で複雑な気持ちだった。
「始まりの曲でここまで光るのなら確定だろうね。セイラちゃんは精霊に愛されてるよ。それにしてもうまいね。」
「あ、いえ…恐れ入ります。」
セイラは確かに踊りがうまいかもね。
前世の私はピアノは習ってたけど、リズム感があまりなくて、才能もそんなになかったから長くは続かなかった。
セイラになってわかったけど、才能ってやっぱりあるんだなぁ。
この収穫祭の踊りは、なんていうんだろうそこまで癖のあるダンスではないんだけど、とにかく回る。
自分も回るけど、全部通すと移動するときも円を描くように回る。
足を地面にこするように回ったりもするので、地面が土だと独特の模様が浮かび上がるダンスだ。
その模様がきれいだとうまく踊れていると言われる。
その模様がさっきの踊りで浮き上がっているのだけど、まるで魔法陣のようだった。
「エラン様の演奏もとても上手いですね。」
「そうかい?一応人に聞かせられるくらいは習わされたけれど、まだまだだよ。」
まぁ、領主の息子ですから期待はされるでしょうしね。
でもほんとうまかった。
「さて、どうするか…」
そうエラン様が呟いて腕を組んでいる。
「いっそ、貴族街だけ出てもらうという方法もありますよ。」
セスさんが何も感動もなく進言した。
アミュティリス石を見ていたあの人が同一人物とは思えないな。
「それもあるが、それはそれで目立つだろう。
平民から貴族側に出るのは少々懸念がある。むしろ貴族街の演舞は誰が精霊に特に愛されてるかはわかりにくいから平民として出る方がいいだろう。」
「しかし、庶民向け収穫祭でここまで光るのはあまりないことですよ。3曲無事に踊り終えられるのかも心配です。」
「なら石の近くに松明を、たけば良いだろう。ミレーナ殿も協力してくれるそうだし…」
「ミレーナ殿…あ、そういえば、あれからサレンナの教師をしているんでしたか。それでしたら良いかもしれませんね。彼女は少々真面目過ぎますが、信頼の置ける方だ。」
セスさんがミレーナ先生を知ってるとは…
というか、ミレーナ先生って何者なんだろう。
貴族になんでそんなに知られているんだろう。
元貴族とか?
仕事として教師をしているだけ?
でもあんなに真面目な人が貴族だとしたら、なぜ教師をしているのかがわからないんだよね。
聞いていいことなのかどうかわからない。
「セイラさん、それでいいですか?」
エラン様に同意を求められ頷くしかできなかった。
私自身そんなに危険があるとは思っていないのだけどね。
私はただの商家の娘ですから。
ということは収穫祭までに踊りをブラッシュアップしてかないとね。
とは言ってもかなり踊りは体に馴染んでるから、一日一回通しをしてくだけで十分な気がする。
とは言っても通しだとなかなか長いんだけど。
踊りの種類としては日本舞踊とバレエを足して2で割ったようなスラッとしてカチッとした動きだ。
音楽の方はケルト音楽に近い。くるくる回るダンスだからなのか、その音楽だからくるくる回るのかわからないけれど、回るような同じフレーズを繰り返し、トランス状態のようになる曲だ。
演舞で行われる曲は一応3曲ある。
順番はいつも決まっていてみんな【始まりの曲】【間の曲】【終わりの曲】と呼んでいる。
エラン様が吹いた曲は始まりの曲だ。
始まりの曲は比較的明るく徐々に激しくなっていく。
キラキラ星変奏曲っぽい曲かな…
これは3分位。
間の曲は少しゆったりしていて変調を何度かするので明るくもあり暗くもある。
イメージ的には童謡のアマリリスとかっぽい。
これは5分くらいの曲。
最後の曲はリズムも調性もコロコロ変わるのでこんな曲というイメージがない。
あえて上げるならペードーベンのエリーゼのためにみたいなストーリー性のあるメロディラインかな…それをケルトっぽくした感じ。
これは8分くらいの曲
ちなみにそれを本番は3回ずつやるので長丁場だ。
まぁ、3人が順番に踊るから休憩挟めるのはいいんだけどね。
貴族街ではどう踊るんだろう。
「ちなみに貴族街ではみんなで踊るんですよね?一巡しかしないんですか?」
「そうだよ。貴族街の踊りは本格的な奉納舞だからね。休憩無しで3曲まとめてやる。ちなみに私も演奏に参加するよ。」
ぶっ通しで16分はやばいな。
体力づくりしたほうが良さそう。
「エラン様も参加するというのは心強いですね。」
「そうかい?」
エラン様はニコニコして、少し顔が赤くなっている気がする。
もうかなり暗くてわからない。
「エラン様、そろそろ帰らねば」
セスさんが感情のない表情で私達を促す。
そして、エラン様のエスコートで馬に乗り帰宅した。
帰り際に明日は迎えに行くよと言われ了承した。
アミュティリス石の買い取りについて話すために領主の城に行くからね。
家について、家族は慣れたのか特に心配はしていなかったし、メリーさんはもう帰宅していた。
そういえば、能力についていつ言おう。
これも考えていかないとなぁ。




