アドル老師の過去
アドル老師は農村の産まれだった。
当時は一般の生徒が通う学校などもなく、能力証などもなく、魔法を使える庶民を発見する術はほぼなかったそうだ。
見つけられる原因は大概はコントロール不能に陥った場合のみ。
しかし、その魔法文化や教育文化の低い世界に庶民ながらに強い能力を発現させたのがアドル老師だった。
11歳の頃に急に力に目覚めたアドル少年はその能力で作った発明品を売った。
何もない状態では全属性ではあるもののわずかな魔法しか使えないアドル少年の強みは大体の魔法は魔法陣として作れることにあった。
最初は水が湧き出る桶、お湯が湧き出る桶なんかだったが、火が出る石台とか、決まった動きで振るだけで様々な効果のある杖とか武器になるような物も作れたところでいろんな人の興味を引くようになった。
庶民はもちろん貴族や領主もそして皇帝も。
さらには悪党にも目をつけられていた。
道具の噂は貴族にも庶民にも広まって行って商売も順調に見えたある日、林で素材集めをしていたアドル少年はそれを手伝っていた友人の目の前で連れ去られる事件が発生した。
友人は必死で逃げて村長に告げ、村長はそのあたりを管轄していた貴族へ告げた。
貴族はアドル少年に価値を見出していたので必死に探したが見つからず、遂に二日後領主の耳に届いた。
当時の領主、つまり先代にあたるのだが、彼はその力と権力を持って、ボロボロになりながらも悪党の作らせようとしていたものを作らないと抵抗していたアドル少年を救出したそうだ。
悪党は全滅した。
これを機に領主はアドル少年を専属魔法技師として契約し、それに答えるように領の、ひいては帝国の魔法技術発展の礎を築くことになったのだ。
能力証や学校、保障制度などの社会制度の構築から生活を便利にする商品など。
分野を超えて携わった事業は多岐にわたる。
…というお話だった。
わお、壮大。
ちなみに浄化魔法付きトイレもアドル老師の作品だとか。
何がすごいってその魔法陣を作って、半永久的に定着させることがすごいのだとか。
そんな経緯かあったのか。
知らなかった。
「学校では習ってないですよね?」
「まぁ、まだアドル老師は健在ですし、本人が目立つのを嫌がってるから教師が自ら教えることは今の所ないのですよ。なんせ、我々教師はアドル老師から教育論を叩き込まれていますからね。」
なんと!?
なんで老師?って思ってたけど、教師の教師だったとは。
「それでも、三の壁以内では伝説のように親から子に語られる話です。壁外だとあまりアドル老師の道具が出回ってないのでそれほどではないですが。」
まぁ、確かにうちには不思議道具はトイレくらいか。
ボットンだけど臭いはあまりしない。
水は…そういえば水道はあるなぁ。
そういえばポンプのような役割を魔法で補っていた気がする。
それもアドル老師の功績なのかな?
ただ、うちレベルでは氷室なんかは無いからキッチンの奥には地下倉庫がある。
そうは言っても集落で不思議道具があるのはうちだけじゃないかな。
井戸水を汲んでるのをよく見かけるし。
お金が溜まったらお湯が出る桶がほしいなぁ。
あと氷室とか。
うん?氷室は不思議道具じゃないのかな?
「あの氷室はアドル老師が作ったんじゃないんですか?」
「氷室?あー携わってたけど、魔術師協会と協議して今の形になったんだと記憶してます。昔から氷魔法が使える火属性魔術師は優遇されてきたので…」
あー、なるほど。ぶつかっちゃったのか。
氷魔法の魔術師は氷室の氷を提供することによってそれなりの額の稼ぎができるのでその職を奪うことになりかねないしね。
「その代わり、氷室の普及と改良はかなり進みましたよ。氷が溶けにくくなったし、上級貴族しか使えてなかったのに、下級貴族まで使えるようになったのはアドル老師の功績ですね。氷室を小型化したり、氷魔法を使える火属性魔術師を教育して増やしたりしたんですよ。」
なるほどねぇ。
老師の魔法は力の理解と構築らしいから発明だけではなく教育は向いてるのか。




