セイラの噂と立場
私は朝の一通りを済ますと、メリーさんから昼食の包、つまりお弁当を受け取ると周回馬車の停留所に向かった。
停留所にはしばらく後にアリンとネイとイルカが来て久しぶりに話すことになった。
「ねぇねぇ、最近噂になってるんだけど…貴族とセイラが馬に相乗りしてたって。」
他愛のない話をしてたら、ネイが唐突に聞いてきた。
ネイは笑顔でそんなことないよねー?という雰囲気で聞いている。
その質問にアリンとイルカがビクッとしていた。
この感じだと二人も噂は知ってるんだろうな。
聞くに聞けなかったのかな。
ネイは男の子だからそういう機微に疎いから聞けてしまったんだろう。
どう答えるか。
いや、ここは嘘つかず、話していい部分だけね。
「あー、それは全くの嘘ではないよ。ちょっと色々あってある方に送ってもらったりしてただけだよ。」
だけ…というとなんか違うような気もするけど、この表現は言葉のあやということで。
「え!?どこのどなたですか!?」
そう言ったのはイルカだった。
その語尾にお姉様!っと付きそうな勢いだ。
「そ、それは、その方にご迷惑がかかるからお名前は言えないかな…まぁ貴族ではあるけど。」
姉様たちは下級貴族に言い寄られてるって従業員に説明してるみたいだけど、なるべく嘘は言いたくない。
嘘とか下手だし。
「そんな…」
イルカが驚きというよりも残念そうな声を上げている。
なんで?
「イルカ、セイラは商人の末娘なのよ。どこかに嫁ぐことはそんなに珍しくないし、下級だとしても貴族ならかなり喜ばしいことなのよ。祝ってあげないと。」
そう言ったのはアリンだった。
うん?なんか話が飛躍してない?
私がエラン様(下級貴族だと思われてる)と結婚するとかいう噂になってるの?
いや、従業員の方の話を聞いていたとすれば下級貴族に言い寄られているという噂から結婚まではおかしくないが。
「まって、私とその方とは結婚なんて話はないよ。あくまで仕事関係というかお友達のような関係…ではないけど、恋仲とかではないし。」
アリンとイルカが私をジッと見つめている。
ネイはおどおどしてた。
「そっか…」
イルカは視線を緩めてホッとしていた。
アリンはまだ私を鋭い眼差しで見ている。
そこで、やっと馬車が来た。
ナイスタイミング!
そこから馬車に乗ってからはその話題は終わり、ネイが収穫祭の演舞について話さないとってミレーナ先生が言ってたと告げられた。
ネイは話題を探してたみたい。
変な話を振ってしまったと思ったみたい。
ごめんね、ネイ。
ホントのこと言えなくて。
その後学校についてからも同級生たちにやたら質問されたけど、同じようにごまかした。
私のそんな関係じゃないという言葉を信じていない人の方が多そうだ。
なんでだ!?
本人が否定してるのに。
その後授業が始まる前に人に囲まれたくなくて早速生徒指導室に向かった。
ノックをしても返事はなかったし、鍵がかかってた。
まぁ、朝早いしね。
廊下で待っていると授業が始まるだろうなという時間にミレーナ先生はやってきた。
「おはようございます。」
「おはよう、セイラさん。エラン様と何やらやっているようですが、調子はどうですか?」
ミレーナ先生の表情は穏やかに鍵を開けながら話してくる。
別に棘はないけど、なんか引っかかる言い方だな。
「あの、そんなに噂酷いんですか?」
「ふふっ…まぁ、その話も含めて中で…」
あのミレーナ先生が笑ったよ。
笑った瞬間は顔を逸らされたし何がおかしいのか。
私は誘われて生徒指導室のソファに腰掛けた。
ミレーナ先生は木の窓を開き風がフワッと部屋に入ってくる。
「あのエラン様がね…」
風向きのせいかボソッと呟いたミレーナ先生の声が僅かに聞こえた。
「私は話していないから相手がエラン様ってことは全くバレていないようだけど、学校からあの空き家は近いから結構見られていたみたいですね。空き家で何してるかはわからないと思うけど…ちなみに何をしているのですか?」
「え?あぁ、能力の確認とあの家の庭の整備です。そういう能力なので。」
「そうなのね。使えそうな能力なの?」
「アドル老師とエラン様の口ぶりだと、恐らくかなり使えるみたいです。」
「そう、それは良かった。」
ミレーナ先生は穏やかに本当に安堵したような声を出していた。
「そうだ、演舞の件なんですが、どうしますか?」
どうしますかとはどういう意味だろうか?
私が首を傾げるとミレーナ先生は続けた。
「エラン様からセイラさんの能力の件でしっかり方針が決まるまで表立って動けないので、サポートしてほしいと言われているんですよ。表立って動けないということはあなたは貴族側、つまりアドル老師のような立場になる可能性があると言うことでしょう?アドル老師の時の教訓があるので、あまりあなたを目立たせたくはないのだけど…収穫祭は来月だから」
え?
アドル老師のような立場ってなんだろう?
教訓とは?
「あの、すみません。状況がよくわかってなくて。アドル老師の立場とか教訓って?」
ミレーナ先生は固まった。
「そうか、知らないですよね。年齢的に…」
私は首を傾げるしかなかった。
確かに私はもうすぐ10歳という子供ですからね。
そこからミレーナ先生は先生も伝え聞いた話から実際に見た話を交えて語ってくれた。




