白馬ではない王子様
翌朝、エラン様は本当に迎えに来た。
私が半信半疑で馬車に乗るには少し早い時間に外の様子を伺って家の前でストレッチをしていたら都の方からパカラパカラと馬が駆けてきた。
エラン様は見た目白馬の王子さまなんだけど、馬は黒と言ってもいいくらい濃い焦げ茶色で、地球の馬より図太くて少々がたいが大きい生き物だ。
馬車の馬と同じ種類なんだろうけど、よく見るとこの子は他の馬とはちょっと風格が違う。
「おはよう」
エラン様はいい笑顔だ。
「おはようございます。本当にいらっしゃったんですね。」
私は少しビックリしてると首をかしげた。
「来ると約束したでしょう?セイラちゃんも待ってるし。」
エラン様はフフフと笑っていた。
何してもやっぱりイケメンだわー。
そんなやり取りをしてたら後ろでドアが開いてカエラ姉様がでてきた。
「エラン様、お迎えありがとうございます。よろしければこちらをお持ちください。」
そう言って、姉様は風呂敷のように何かを包んだ麻布を私に渡してきた。
なんだろう?
「こちらにはうちの商会で仕入れた干した果物とパン、それとメリーさんが配合してくれた茶葉を入れてあります。よろしければ昼食になさってください。」
姉様、気が利くなぁ。
さわった感じ、 木の皮で作った箱に全部入っていそう。
それを麻布で巻いただけ。
「それは助かる。ありがとう。」
エラン様はそう言って一旦馬から降りると蔵に付いていた縄で私から荷物を受け取り縛り付けた。
私とエラン様が乗る位置より少し後側に箱が付いてる感じだ。
「あ、姉様。アリンとネイには…。」
「あぁ、大丈夫よ。二人が行った後に停留所に行ってくるわ。しばらくうちの仕事の手伝いをすることになったからと伝えておくから。」
集落には都側から途中で道が二つに別れていて、その反対側の別れたすぐだからうまく通り抜ければばれないだろうけど、ネイのうちはこっち側の家より奥だから早めに出ないとね。
私はエラン様に手伝ってもらって少し手こずって馬に乗るとエラン様が私の後ろに乗った。
え?こっちなの?
こっちのが恥ずかしい。
「昨日後ろに乗せたら落ちるんじゃないかって心配だったからね。鞍を相乗りしやすいようにとって付きにしてきたからそこ掴んでて。」
私が取っ手を掴みつつもうろたえてるとエラン様はさも当たり前のように私の腰に手を回してきた。
ヒェエ!
顔の温度が一気に上がる。10歳の少女と15歳の少年では身長差があるが、言っても10センチくらいの距離にエラン様の顔があるわけで…
近い!
だけど、エラン様はにこりと笑っている。
お主慣れておるな!
「では、失礼します。」
「あ、行ってきます。」
エラン様は私が姉様に挨拶したのを見てすぐに走り出した。
フォー!
前だと風が凄いし疾走感が凄い。
でも確かに安定してる気がする。小さな斜め掛けバックを胸の前に寄せてそれを抱くような感じで取っ手にしがみつく。
エラン様は右手に手綱、左手を私の腰、というよりお腹に巻き付けている感じ。
というか、片手で操作できるのね。
私には喋る余裕がなくて、ひたすら振動と風と羞恥に耐えた。
何って羞恥が一番耐えたけど。
走っていると、T字路が見えて、右側に行った少し先に停留所がある。
基本田舎の農道なので誰がいるかも見える。
いまのところ誰もいないみたい。
そのT字路を左に曲がり都方面へ向かう。
そこからはずーっと芋畑やガラン園や雑木林が続いて10分いかない程度で三の壁近くに着いた。
早い。
前に三の壁までの距離を計算したときに4キロくらいかなと思ってたんだけど、どうなんだろ。
この馬が時速何キロで走ったかもわかんないけど、原付くらいの早さは出てたんじゃないかな。
この世界には信号はないし、馬車だってろくに走ってない。
ノンストップだから時間感覚と交通感覚が全く一致しない。
しかも集落のT字路から都までの道は平坦でまっすぐだ。
曲がれる道が左右にあっても見えないことはないので、かなりのスピードを出せる。
日本だと北海道の道央あたりの農道を走ってるのと感覚は近い。
走ったことないけど。
いつか北海道をバイクで走ってみたかったんだよなぁ。
就職してからバイクの免許も取る暇もなく、北海道に行く暇もなかったけど。
転生してこんな経験するとはね。
私が農道を馬で走る心地よさを感じられる余裕が出る頃には三の壁が見えてきたわけだ。
次はもうちょっと楽しめるかな。




