姉の策略
そこには食事の準備は終わっていて夕飯が並んでいた。
父と母は座って待っていた。兄は立っていて、何故かまだメリーさんがいた。
いつも食事の準備が終わるとすぐに帰っている。
洗い物は住み込みの従業員が自分たちの分のついでにしてくれるので帰っても問題ないからだ。
「エラン様が来たって?なんでこんなことに…」
そう言ったのは父だった。
少し顔が青い。
「すみません。説明は後で。メリーさん、いつものお茶をエラン様に出していただけますか?時間過ぎてるので申し訳ないのですが、メリーさんのいれるお茶が一番美味しいので…」
「え…か、かしこまりました。」
私はメリーさんにそう微笑んで言うと、焦りながらキッチンに向かった。
「セイラ、何かエラン様にご迷惑でもかけた訳ではないですか?」
今度は母だ。
父ほど緊張してはいないが、気を張っているのがわかる。
「あ、いえ、どちらかというと、私が謝られてしまったというか。ちょっと能力の件であるコアナキア家で管理している空き家に行ったの。」
私はざっくりと両親と兄に話した。
その家に賊が住み着いていて、奴隷を監禁していたということを。
おそらく裏で奴隷の売買をして儲けていたのだろう。
コアナキア領はもとよりサイファ帝国では奴隷の売買は禁止されている。
しかし、子供が10歳になるまでは証明書となる能力証が配られないので子供を裏で悪いやつに売っていてもばれることはあまりないそうだ。
貴族の一部にそのような子供が流れることもあるらしい…という話を従業員から聞いたことがある。
サボっていた従業員だったから、あまり信じてなかったけど、実際にある話だったんだろうな。
「怪我はなかったか?!」
兄は私をぐるぐると回りながら見た。
「大丈夫ですよ、兄様。エラン様が守ってくれましたから。」
「そ、そうか。それは礼を言わなければ。」
兄はそう言って応接室に行こうとしたので袖を引いて止めた。
その時、ちょうどメリーさんがお茶のポットとカップをカートに乗せてキッチンから出てきた。
「アルロは大人しくしてなさい。私が行きますから。メリーさん、ありがとう。後は大丈夫だから帰宅なさい。」
「は…はい、奥様。失礼いたします。」
メリーさんは手が震えていたので母が気を利かせてカートを押した。
その母の手もましだが震えてる。
私は母についていき、応接室のドアをノックして開けた。
母がカートを運びいれたところで私がすぐにポットからカップにお茶を注いだ。
ガランの香りが心地いい。
カップはいくつ用意すればいいのかわからなかったのか6つあった。
たぶんメリーさん以外全員分だ。
ポットも少し大きめ。
私は4つ入れるとそれらをローテーブルに並べて母に目配せをして座った。
「エラン様、うちのお手伝いさんがいれてくれたガランのハーブティはとても美味しいんですよ。よかったらどうぞ。」
私はそう言って、目の前のカップからお茶を飲んだ。
うん、いつも通り美味しい。
緊張してても分量多くても同じ味に出きるところがメリーさんのすごいところだよね。
と、エラン様より先にお茶を口にしたのを見た母と姉様は一瞬「いいの?」って顔をしてたけど、すぐにいつもの商人スマイルになった。
まぁ、一般人には毒味なんていらんもんね。
エラン様は毒味がつくのはたぶん普通なんだと思う。
むしろ、貴族の世界ではホストが先に飲むものなんだろう。
今回はフィーの気配はないが、きっと遠目で窓のそとからでもみてるんだろうな。
エラン様は私が飲んだのを見てなんとも思ってないだろう笑顔を見せた。
「それは美味しそうだね。」
そう言って香りを楽しんだ後口に含みホウっと吐息をはいた。
美味しかったようだ。
「これは美味しい。ハーブは独自の配合かな?うちで飲むのともライザがいれてくれたのともちょっと違うな。ガランの風味にあってる。」
エラン様はやっぱり口にいれるものに並々ならぬ情熱を持ってるんだろうな。
「メリーさんに聞いても割合は教えてくれなかったですが、何が入っているかはわかりますよ。あと、配合は果物の種類だけでなく状態でも変えることがあるらしいです。」
と、姉様は言う。
私は知らなかった。
今度教えてもらおう。
「ところで、エラン様」
姉様はお茶を飲んで落ち着いたところで口を開いた。
私がいない間、何か話していたのだろうか。
「セイラのことはどのように思っていらっしゃいますか?」
?!?!?!
私はお茶を吹きそうになった。
出会って三日目で聞くことではない。
しかも私はもうすぐ10歳だが子供だ。
身長は伸びるのが早かったからおそらく150センチくらいあると思うけど。
姉もちょっと兄と同様にシスコンをこじらせている。
「セイラさんは素晴らしい能力を持っています。私が直接守らなくても良いくらいの能力でしたが、彼女を守るのが私の役目だと思っています。頼りなくて申し訳ないですが。」
エラン様は天然だなぁ。
姉が聞きたかったのはそう言うことではないみたいだけど、仕事として守ると言われたことに関しては納得したみたい。
エラン様はニコニコしてる。
そういえば、姉様もエラン様も同じ年だよなぁ。
やっぱり男と女では恋愛に対する考えもかなり違うんだろうし、同じ年でも噛み合わないのは仕方ない。
一方母の方を見るとやはり私と同じように姉の質問の意図をわかっていながら天然で流されてホッとしてた。
不敬で処罰なんてことになったらこまるし。
まぁ、エラン様はそうそう処罰をすることはないんだろうなぁ。
性格が穏やかだ。
研究欲と食欲はやたら強いけど。
「さて、そろそろお暇させていただきます。」
エラン様はお茶を一杯だけ飲みきると立ち上がり身だしなみを整えて早々に歩き出した。
「あ、ありがとうございました。明日もよろしくお願いします。」
私も慌てて立ち上がった。
「では、明日は迎えに来ますね。」
!?!?!?
「え?」
なんとおっしゃいました?
「カエラ殿にいっそ馬で送迎付きの方が安心だと言われたのですよ。毎日は難しいかもしれないのでそのときは別のものに迎えを頼むと思いますが。」
サラッと言いますが、それ目立つのでは?
私が目を白黒してると
「大丈夫、私がセイラさんに惚れた下級貴族だというように従業員に言っておくとのことですよ。」
「はい!?」
どこが大丈夫だと!?
これやらかしたな。
姉様の神経図太すぎる。
エラン様はニコニコのんきに笑ってるがほぼ姉の思い通りだ。
確かに下級貴族としておけば、少なくとも貴族を恐れて下手に情報を外に出さないだろうし、下級をわざわざ害そうとする者も少ないので都合はいい。
何より姉は常日頃から大棚の商家か、下級貴族に私を嫁がせると言っていたから、従業員は納得しちゃうかも。
エラン様は家督を継ぐ可能性はかなり低いので、領主の城に出入りでもしてなければ顔ばれもほぼしてないし。
って惚れてるふりなんて、エラン様、それでいいの?
とは姉の後ろからの圧力で聞けなかった。
それからすぐにエラン様は馬で去っていった。
そして、その時に気がついたけど、遠くの方でガサガサ音がしていてフィーとヨーが走って付いて来ていたようだ。
マジか!?
姉と母は気づいてないようだったけど。
いるのかなとは思ったけど徒歩だとは。
隠密ってやつなんだろうけど、何かしら足が早い能力でも付いてるんだろうなぁ。
それにしても、姉よ、妹はヒヤヒヤしすぎてどっと疲れましたよ。
それから、やっと冷めた食事をしながら家族会議をした。
エラン様に化け物みたいな護衛がいること、これからしばらくエラン様と能力研究をする事、あとはエラン様の立場について話した。
主に姉様に下手なことをしないでくれという牽制のつもりだったが、飄々としていた。
両親は青くなってたけど。
「セイラをエラン様の嫁にしてもらうわ」
と姉が言ったとき呆れてしまった。
「俺は認めないぞ!」
と兄が本気にして姉様に言ったとき、私と両親は頭を抱えざるを得なかった。
一商家の娘が元は王族だった領主一家に嫁ぐなど夏に雪が降るくらいあり得ない。
私はその夜、姉と兄について悩まされながらも疲れからかすぐに寝てしまったが、魘されるはめになり、目覚めは最悪だった。
姉と兄がエラン様の護衛のフィーとヨーに戦いを挑みギリギリまで追い込み、
そして、私とエラン様はそれをヒヤヒヤしながら隣り合って観戦しているだけという微妙な立ち位置
そんな夢だった。




