無邪気なイケメン
「こんなにおいしい果物は初めて食べた!…モモ!…モモ!!…おいしい!」
エラン様がおかしくなった。
「ほんとに毒はないのだな?」
ヨーはエラン様の乱心ぶりに私に聞いてきた。
私も一切れ口に入れる。
うん、少し柔らかめの白桃の味。
「大丈夫だと思いますけど?」
エラン様がモグモグと次から次へ食べそうだったので弁当箱を取り上げ、フィーとヨーにも差し出した。
エラン様が残念そうに見ているが気にしない。
まさかこのイケメンがここまで食いしん坊だとは思わなかった。
アドル老師のところによく出入りしていたようだけど、料理が目当てだったのでは?
フィーとヨーは桃を一切れずつ食べて目を見開いた。
「甘い…それに果汁が豊富で、香りもいい」
こっちの世界のこの国ではおそらくこのような品種改良されて甘くなったような桃はないのだろうな。
気がついたのだけど、コンバートされて出てくる食べ物はほとんど私の記憶にあるものばかりだ。
もしかしたら、現実にあるものを私の記憶にある中で近いものに変換してしまうという能力なのでは?
サンドボックスゲームをやって味わったものが無いものはあまり無いので確認がしづらい。
イタチ…食べたこと無いな。
私が弁当箱を机に戻すとエラン様が子犬のような目でこちらを見ていた。
「お気に召したのならどうぞ」
私は笑って残りの桃を勧めた。
エラン様は嬉しそうに食べていた。
横に置いたパンも気になったのでちぎって口に入れるとなんとふわふわのパンだった。
こちらの世界の固いパンじゃない!
私は二口三口とどんどん口に入れる。
懐かしいこの優しいふわふわ食感。
これ絶対麦だけじゃ作れないと思うんだけど!
「あの…セイラちゃん?」
私が感動しながらモグモグしてるとまた子犬のような目でエラン様が見てた。
桃は種を残して食べきったようだ。
手元を見ると一口分しかパンは残ってなかった。
申し訳なかったけど、それを差し出した。
「ごめんなさい。どうぞ。」
こんな食べ差しで申し訳ないです!
エラン様は嬉しそうにそのパンを口に入れるとフィーがこっちに飛びかかってきそうだったがヨーが押さえてた。
なるほど木の上でこれが行われてたのね。
エラン様は幸せそうに味わっていた。
「このパンを腹一杯食べたい」
エラン様は一口で幸せそうに呟いた。
「すみません。このパンはマコトちゃんのために作ったものなので…これ以上は…また明日うまく行ったら作りますね。」
「マコトちゃん?」
あ、言ってなかったか。
「あの、能力で出てくる人形みたいな子のことです。勝手にそう呼んでて。」
「食べ物食べるの?」
エラン様は不思議そうに聞く。
確かに、見た目デカイ人形だもんなぁ。
「活動してるとお腹すく…燃料が切れる…みたいな感じです。」
知らない人からしたら不思議だろうな。
「じゃあ、本来あの人形の燃料になるものを食べてしまったのか…すまないことをしたな。お詫びにこれを」
エラン様はそう言ってバックから三本のポーションを出した。
1つは前にも飲んだ物と同じ色合いの茶色い陶器で他の二つは少し小ぶりで磁器なのか白っぽかった。
1つは青緑色、1つは白、つまり青磁と白磁だ。
「これは前と同じポーション。この青いのは魔素増加ポーション、白いのは精神安定ポーション」
エラン様はポーションについて説明してくれた。
普通のポーションは栄養ドリンクみたいなもので、素早く栄養を採ることができるので通常よりも早く自分の100%の魔素まで回復させることができるもの。
魔素増加ポーションは本来の魔素よりも120%から150%ほどとどめておけるようになり、使ってもそこまで素早く魔素が戻るようになる。
匂いを嗅いだらかなり強い漢方臭がした。
たぶん口にしたことはないだろうな。
というか地球に無い薬草入ってるかも。
精神安定ポーションはそのまま、精神安定をさせるポーション。
魔素を使うには精神力をつかうので、あまり長く魔素を扱っていると魔素はあっても的が外れたり、意識がもうろうとしたりするのを防ぐ。
たぶん、ハーブティの効果を強くしたようなものだと思う。
匂いはカモミールとかの匂いに近い気がする。
どれも魔法薬剤師が作る品なのでただの漢方薬やハーブティみたいなものではなく、その薬草の効果を強くする魔力が込められているらしい。
ちなみにアドル老師もエラン様も魔法薬剤師らしい。
上級貴族の多くは毒を恐れるので自分でポーションを作れるように練習はするらしい。
それを売れるかどうかは資格というか、許可がいるんだとか。
中級以下の貴族は自分で作るには魔力を多く使うことになるので、ポーションはあまり作らないとか。
魔素を割くよりも金を割く方が簡単だし、上級貴族は自分が目をかけている下位の貴族たちにポーションを配ることもあるそうな。
ポーションを作るときの魔力は誰がやっても同じくらい消費するらしいので、保有魔素量が多い人が良いタイミングでやるのが利にかなってるみたい。
消費期限は一ヶ月ほどらしい。
意外と持つなと思ったけど、浄化の魔力も込めるらしい。
それが切れてくるのが一ヶ月ほどだとか
結構複雑なことしてるんだな。
「この3つを渡しておくよ。」
「そんな気を遣わなくてもよかったんですが…ありがとうございます。あ、じゃあ、これもあげますね。」
エラン様はニコニコして押し付けるように渡してくるから受け取らざるを得なかった。
結構強引だよな、エラン様。
多くもらいすぎな気がして、紙の上の砂糖を机の上でエラン様に渡した。
嬉しそうだった。
何に使うつもりかわからないけど、砂糖は貴重だからなぁ。
結局エラン様は砂糖をどうやって持っていくか悩んでいたので、サンドボックスで木のボールを作ってあげて、砂糖はそこに入れ、紙で蓋にした。
「さて、そろそろ帰らねばな。厩舎に馬がいるから送るよ」
「そう…ですね。ありがとうございます。」
すっかり夕焼け空だ。
お尻が痛くなる覚悟をしておこう。
私とエラン様は学校向かいの厩舎へ向かった。
エラン様に、栗毛色の図太い馬の後ろに乗せてもらった。
乗せてもらった後エラン様は私の前に乗り私の手を掴むと腹回りに手を回させた
「私に捕まっていてね。こうお腹にしがみつく感じで…」
それは予想していなかった!
ちょっ!近い!
「掴んでないと落っこちちゃうからね。」
地味に馬って高いから落ちたらヤバい!
仕方ない…
落ち着け!
私は10歳の幼女、エラン様は兄みたいなもの。
私は幼女、これは兄!
私は幼女、これは兄!
私はすごいスピードで走り始めた馬の上で必死にエラン様にしがみついた。
そして、必死に恥ずかしさと戦っていた。
これ馬車と同じ馬なのか?
すごい早い。
エラン様の馬のようだったけど。
喋ることはほとんどなかったが、ひたすら背中にしがみついてたから気がついたんだけど…
エラン様、いい匂い。
イケメン過ぎて死ぬわ。




