戦闘後のピクニック
「殿下、ところでもう昼過ぎてますが…」
後ろからフィーが仕事を終えたのか低い声で話しかけてきてビクッとした。
さっきの兵士達はこちらに礼をするとあっという間に賊を連れて行ってしまった。
仕事が速い。
「フィー、"殿下"はやめろ。そうだな…どこか座れるところはあるだろうか。」
殿下?
一応もうコアナキア家は王家という立場ではないけど、元は王家だったということをちょうど今日の授業で聞いたばかりだ。
それはともかく座るところか…地べたしかないなぁ。
あっそうだ。
「あの、展開していいですか?」
私は能力証を指差して聞くとエラン様は頷いて少し離れた。
もう感覚的にどのくらい離れれば結界の外かわかっているようだ。
展開。
そして、置いてあった現実ではただの机の作業台に向かう。左には縦長の大チェスト、右にはその半分の小チェストがある。
ストレージを確認して樫の原木があったので、そこから板、そして階段ブロックを8個作った。
そして、少し離れてギリギリ範囲内のところに階段ブロック四つを逆さに使って机を、残り四つで椅子を作った。
これでどうなるか見たかったのよね。
それと、実は樫の机と樫の椅子も作れるのでそれは机を2つと椅子を4脚作った。
これはどのサンドボックスゲームでも存在しなかったアイテムだ。
見た感じ中国版にあった机と椅子に近く色合いは薄めの茶色いダイニングセットって感じ。
階段ブロックのセットから少しだけ離して向かい合わせになるように机と椅子を設置した
最後に手元に残っていた食べ物、リンゴを小さいチェストに入れてコンバートした。
「な…!」
向こうの方でエラン様の声が聞こえた。
階段ブロックの方は木を切り出しただけのようなまさに階段のような形だったが、座る部分がたぶん50センチくらいなのかな。ちょっと高めの椅子っぽい
机も1メートルほどなので高すぎる。
カウンターっぽい。
やっぱり階段は階段としてコンバートされるっぽいな。
一方机と椅子は完璧に小さめのダイニングテーブルに変換されている。
画面で見る物はデフォルメされてるものなんだろうなと想像つくような形だ。
今度は触ってみよう。
階段ブロックで作った方を触ると、原木から切り出しただけの感じだ。
机の方なんか下を細くしてしまったからぐらつく。
ダメだこりゃ。
そして、座ると足が入らない。
一方ちゃんとした机と椅子は外なので多少ななめるけど、四つ脚なのて安定性も足の所在も問題ない。
こっちだな。
「あの、フィーさんとヨーさんもここで食べますか?」
フィーは首を横に振った。
ヨーがどこからともなく現れてフィーの横に立っていた。
「すみませんね。フィーは無口なもんで。我々は任務中はほとんど食べないのでお構い無く。」
そう言うとフィーの肩に軽く振れて合図し、また見えなくなった。
フィーも私にも見えるギリギリのスピードで近くの木の中に消えていった。
「彼らのことは気にしなくていい。そういう仕事だからね。」
エラン様は笑顔を向けて私に言う。
ちょっと寂しそうだ。
「そうなんですか。ところで、私なにも昼食用意してませんでした。あるのはリンゴとガランくらいです。」
小チェストに向かってリンゴとガランの模様が見える白いモヤモヤがかかった2センチ角のキューブを取り出して机に置くと、それぞれが一センチほど跳ねてポップコーンが爆ぜるように原物が現れた。
リンゴは二つ、ガランは三つ。
「ガランも採れるのかい?その能力は本当に不思議だね。この机と椅子は特に驚きだ。とても精巧にできてるし。」
確かに私はサンドボックスゲームを散々やってきたが現実にできるというのはすごい。
そもそもリンゴなんかは現実に無いものを生成していることになる。
夢?これは夢ですかね?
それくらいおかしなことだ。
でも使えるなら使おう。
それにしても机と椅子は便利だなぁ。
確かソファってのもあったはずだけど、革がいるんだよなぁ。
私は椅子を引く。
エラン様も同じように向かいの椅子を引いて座った。
それを確認して私も座った。
悪くない。
「そうそう、昼食は用意してきたんだよね。」
エラン様はそう言って肩掛けのそれほど大きくないバックから木の皮で編んだような箱を出した。弁当のような形状だ。
エラン様がそれを開けると、大きな笹のような葉にくるまれてサンドイッチのようなものが出てきた。パン自体は固めのパンだけど中にはハムとチーズが挟まれている。
「今朝出掛けにライザが持ってきてくれたんだよ。アドル老師の希望通り作っても何故か満足してくれないから君に食べさせて感想を聞いてきてくれないかという言葉付きでね。」
最後にエラン様がフフッと笑っていた。
ライザの声がアニメ声なの思い出して笑ったの?それともライザの表情?それともそのエピソード?
私の気持ちが顔に出てたのかエラン様が答えた。
「いや、ライザってなんでも完璧にこなしちゃう侍女なんだよね。でもアドル老師の食事に関しては難しいみたいで試行錯誤してるんだけど気迫がすごいんだよ。こう眉間に皺寄せてさ」
エラン様はその真似をした。
「フフッ…ライザさんは真面目なんですね。こちらに無いものを食事に気をつけてなかった人の言葉で再現するのは難しいでしょうに。」
「やっぱそうなんだねー。いつも注文が抽象的で、もっとしょっぱかったようなとか辛いようなとかそんな言葉からよくやってるよ。」
エラン様はそう言うとサンドイッチを私に渡して来た。
そのあとナイフを取り出してガランとリンゴを簡単に切ってくれた。
リンゴは皮つきだ。
それを弁当の蓋にいれている。
「ありがとうございます。」
ナイフとかあった方が便利だなぁ。
さてサンドイッチを頂いてみよう。
ふむ、見た目は美味しそう。
「じゃあ、食べてみますね。『いただきまーす』」
パンを口に含んだ。
その瞬間にパンの香ばしい香りとバターの香りを感じた。
ハムとチーズも美味しい。
でも何か足りない。
いや、違う。
決定的に違う。
まずパンが固くて噛みきろうとするとサンドが崩れる。
こういうのもあるにはあるしそれは置いとくと、まず味が薄い。
ハムの塩気やチーズの味はあるがソース的なものがない。
サンドイッチと言えば私はサンドイッチスプレッドを使うこともあった。
タルタルソースを使ってもいいけどどちらにも言えるのは…
マヨネーズだ!
あとはケチャップを入れてもいい。
マヨネーズとケチャップがあればかなり料理のバリエーションは広がる。
マヨネーズは確か卵とお酢もしくは柑橘の果汁と塩を混ぜて、混ぜながら油をちょっとずついれるだけ…だったかな。
かなりシンプルだからこっちはできそうだな。
油はいっぱい使うには高いけどアドル老師なら大丈夫でしょ。
卵と柑橘はあるし。
いや、泡立て器あるのかな?
まぁ、それもなんとかなるか。
問題はケチャップか。
ケチャップはトマトと玉ねぎ、酢と砂糖、それにスパイスだな。
確かローリエとかシナモンとかグローブとかタイムとか…その辺りのものだった気がするな。
チラッとなにが入ってるのか気になって調べたことあるけどレシピは人によってマチマチだったんだよね。
そもそもこっちに同じスパイスがあるとは限らないし。
それはライザさんに試行錯誤してもらうしかないよね。




