姉と二人 帰りの馬車
それからアレッサンドロ様以外は執務室を出て、カエラのいる客間に向かった。
そこには菓子とお茶を貪った跡があった。
菓子と言っても砂糖少なめのクッキーのようなものとラスクのようなパンやフルーツソース、そしてドライフルーツ程度だったが、かなり暇をもて余していたようだ。
普段は食べられない甘味にちょっとホカホカ顔だった。
そこからはエラン様とアドル老師に見送られて私とカエラは城の馬車に乗って三の壁内まで送ってもらった。
馬車に乗って少し緊張がほどけたのか向かいに座ってる姉はところでと話を始めた。
「セイラ、あなたの能力はなんなの?能力証自体は貰ったのよね?」
姉は心配してるのか答えにくいことを聞く。
私は首に下げた能力証を見る。
スマホを首に下げるなんて現世ではダサいって言われてたからどうかと思ってたんだけど、スマホよりは軽いのでそんなに気にならない。
ほんと何でできてるんだか…。
帰り際にエラン様が首に下げる用のチェーンを用意してくれてたから仕方なしに下げてる。
チェーンの途中から外れるようカニカンがついてるのでそこから外し見せる。
作成途中は他人が触らないようにしないと行けないけれど、完成しきってしまえば他人が触っても問題ないらしい。
それはアドル老師が最後に言ってた。
あと見せても日本語はわからないだろうから構わないとのこと。
「何これ?」
姉が日本語が読めなくて困惑してる。
「下の方に送るとちゃんと読めるのもあるよ。」
こちらの世界の言葉で書かれた能力はセイラとして身に付けたもの。
日本語は日本で身に付けたものか、転生時についたものだろう。
「お貴族様の能力証ってすごいのね。」
今度は能力証をパカパカして見せると姉はため息を吐いた。
「この読めない部分の能力はわかってるの?」
「う…うん。私はなぜか読めるんだよねー。これも闇曜日のせいかな?」
なんでもかんでも闇曜日産まれという言い訳ができて楽だがほんと闇曜日って何よ。
闇の精霊ってものがいるという話は学校で習ったけど。
他の精霊とは違って性格も性質も謎だらけなんだとか。
闇の精霊は他の精霊よりも早く産まれたこと以外はよくわからない。
姉は続きを求めているようなので嘘でない範囲で言えることを考える。
あの空間形成の感じはイメージ的には結界って感じだよね。
確かあの空間では他の魔法は使えないって言ってたし。
で、土や岩や木を採ることができて、苗木を植えるとあっという間に木にできて。
土とか木の魔法に近いんだろうか?
「えっと…結界が張れる。その中で土とか岩とか木を色々できる。」
どこまで話していいかわからず、語彙力が崩壊する。
カエラは眉を寄せて首をかしげた。
「とりあえず、私もよくわかってなくて、これから試してみるから話せる範囲でわかるようになったら姉様にもお教えします。」
「そうなのね、わかったわ…」
納得したようなしてないような返事でカエラはひとつため息を吐くと外を眺めはじめた。
実際どこまでできるかよくわからない。
上下左右1チャンク分、つまり16メートルまでしか結界が展開できないというのは採集も捗らないし、私自身危険だと思う。
本来サンドボックスゲームではチャンクは平面上16×16ブロック分のすべてのブロックのエリアのことを指すので、上下に制限があるのはよく考えたらおかしい。
そういえばシミュレーション距離レベル1ってのが関係してるのか?
よくわからない項目があるなと思ったんだよね。
だってゲームならシミュレーション距離って設定で変えられるし。
シミュレーション距離を高くすると重くなるので場合によって低くしたり高くしたりしてプレイする。
重くなる…ということはそれだけメモリを使ってるって事だよね。
もしかして、あの結界を広げると魔力を大量に消費するのかな?
そんな気がする。
私が考え事をしている最中カエラも何か考えていたようで馬車の中は比較的静かに過ごしていた。
馬車を降りて兵士の服装の御者にお礼を言って私とカエラは兄の待つ酒場へ向かった。
そういえば、昼間から酒出してくれるのかな?
カエラは酒場の前に着くと窓からチラッと中を覗いて開けっぱなしのドアから中に入った。
やはりまだ日があるので客はまばらだったが、どうやら日中も食事ができるカフェバーのような場所らしい。
左奥の席で早めの夕食なのかがっつりご飯を食べているガタイのいいお兄さんがいる。
がっつりご飯と言ってもとにかく肉がデカイという意味だ。
5時前の日中に鳥の丸焼きを食べてるんだもん、ビックリだよ。
「いらっしゃーい」
カウンターの中にいるおねーさんがヤル気なさげに声をかけてきた。
そのおねーさんのあたりから右側の端の方のカウンターに兄がいた。
転生を思い出してからはじめてみる兄だが、ワーッと嬉しさが沸き上がってきた。
セイラは兄が大好きだ。
なぜって?
たぶん猫っ可愛がりしてくれるからだろうな。
まだ10歳の女の子だしね。
「兄様!お帰りなさい!」
私は気がついたら駆け出して兄に抱きついていた。
兄の名はアルロ。
アムロじゃないよアルロだよ。
目も髪の色も比較的地味な栗色。
両親からそれぞれ地味な部分ばかり受け継いだようだ。
とは言え顔の作りは悪くない。
あくまで悪くない、だ。
エラン様の顔をさんざん見たから安心する顔だと言ってもいい。
それにしても兄よ、酒臭いんだが。
言わないでおこう。
「セイラ!無事だったかい!?心配したんだよ。お貴族様に変なことされてないか?!」
ちょっと酔っぱらってるようだ。
私の顔をぐにぐにと両手で挟んだり、ぐるぐる私の周りを見て回ったり異常がないか確認している。
「大丈夫だよ。とてもよくしてもらったから。なんたって牛肉食べたもんね!」
私は心配させないようにドヤ顔をした。
「牛肉!?いいなぁ。コアナキアは酪農家が少ないからあまり出回ってないんだよな。最近増やそうとしてるみたいだけど、時間がかかる。天然の牛もこのあたりは少ないし…」
あ、始まった。
兄は特に食品関係の商材を求めて色んな農家や酪農家や漁師やハンター協会に対しての商談というか説得によく出掛けているので家にいることの方が少ない。
そこで落とせられた生産者さんについての商談をあとは父や母に任せて次々に契約をしていってる。
とにかく食べ物に対する熱意がすごい。
「兄上、お話はそのくらいにして、帰りましょう。」
それを見かねてカエラが促した。
「おっとそうだった」
そう言って懐から小銀貨を一枚カウンターに置くとおねーさんがそれを見て眉を寄せて言った。
「お代はもらってるけど…」
兄はニコッと笑って言った。
「昼前からずっといたのに文句言わずいさせてくれてありがとう。これは君に」
なるほどチップね。
確かにあの奥の鳥の丸焼き食べてるお兄さんはさっき来たばっかりのようだから、一人の客のために店に立ち続けてたのかも。
兄のためにずっとそこにいたというわけだからチップくらいはあげたいよね。
おねーさんは目をぱちくりさせた後顔をほんのり赤らめていた。
「また来なよ…」
おねーさんの声はちょっと小さかったけど兄には届いていた。
そしてすぐに店を出た。
なんというか、兄は人たらしなのだ。
ただ、チップだよとだけ言えばいいのに、丁寧にお礼を言って下心の無さそうな笑顔をされちゃあ悪い気はしないよね。
兄のこの性質は誰に対してもそうで、言ってしまえば天然なのだ。
兄は屈託ない笑顔を振り撒く人なのだ。
商人にはあまり向いてないのだけど、勉強をして、両親だけではなく、妹であるカエラに相談したりして仕事をこなしている。
社長にはなれないけど案外飛び込み営業でも実績を出すタイプだ。
だから生産者回りをしてるのか。
これ、カエラの戦略なのでは?
まだトールゲン商会の跡取りは決まってないのだけど、たぶんカエラの方だ。
いや、役職だけ商会長はアルロかも知れないけれど。




