謁見と契約
それからすぐに私たちは呼ばれた。
さらに別の広くて豪華な部屋に通された。
一番奥には大きな執務机に、大きな詰め物のたくさんはいったソファのような椅子。
そこにはエラン様より目付きはきついが少し似た顔立ちで金髪のおじさまがいた。
いかにも偉そうな雰囲気だが、イケオジだ。
服装は滑らかな黒地に金糸の詰襟を着ていた。
暑いのか上の方はしっかりはしまっていない。
「よく来てくれた。そちらに掛けたまえ。」
イケオジはソファーを示すと自分も立ち上がり執務机の前あたりにある1人掛けのソファに座る。
アドル老師とエラン様は右側に行ったので私と姉様は左側のソファに向かう。
が、ソファの少し手前で姉様がカーテシーをしたので私も慌てて拙いカーテシーをする。
「ご機嫌麗しゅう。アレッサンドロ様。本日は商会代表ではなくこの者の姉としてお呼びいただきましたこと、心より感謝いたしております。」
姉様ってすごいな。
こういうこと、さらっとできるとは。
ホントに15歳か?
「うむ、今日はそれほどかしこまらなくとも良い。緊急の用件だしな。コアナキアの頭脳とまで吟われるエランとアドル老師の見立てだ。そなたの妹はそうとうなものなのだろう。悪党に見つかる前でほんとうに良かった。さ、座りなさい。」
そう言う領主様の表情はさっきより柔らかいもののように思えた。
姉がその様子を見てまだ緊張は崩さないものの笑顔で私を領主側の席に座らせた。
緊張するんですけど!
着席するとアドル老師の後ろに立っていたライザが羊皮紙の巻物と木札をバックから取り出し老師に渡した。
その間に領主は私にニコッと笑いながら話しかけてきた。
「私は領主のアレッサンドロ・マカルド・コアナキアだ。」
そのあと、君は?という言葉はなかったけれど、その雰囲気を感じたので答えた。
「わた…私は、セイラ・トールゲン。トールゲン商会の三人目の子供で次女です。」
めっちゃ緊張する。
面接くらい緊張する。
「ふむ、しっかりした子のようだな。エランの言ってた通り…」
その言葉の後を領主は濁した。
姉をチラッと見やる。
ニコッと笑って今度はアドル老師を見る。
老師はすぐに木札と羊皮紙を渡す。
木札は裏になっている。
領主は木札をまず見た。
ざっと目を通してやはり裏にして置くと羊皮紙を広げた。
そちらもざっと目を通した。
「セイラは字は読めたな?これをカエラも共に確認してくれ。」
差し出された羊皮紙を受けとる。
一度開かれてはいたが、羊皮紙はクルンと巻いてしまっていたので再び開く
ーーーーー
ここにその者の契約を記す。
1.契約者は被契約者の庇護者となる。
2.被契約者は契約者や準契約者を害さない。
3.契約者は被契約者にその能力の助力を乞うことができる。ただし、本人の許諾なしに命の危険や健康を害する事物、または精神に重い負荷を課すことはできない。
4.被契約者は契約者や準契約者に助力を乞うことができる。また、危険にさらされた場合力の及ぶ限りその危険を排除する。ただし、契約者の采配により強度は変えられる。
5.契約者が死亡または自ら判断できない状態になった場合、準契約者のいずれかに引き継がれる。
6.契約者が被契約者を害そうとする場合、3の項は該当せず、契約は破棄される。
7.被契約者が契約者や準契約者を害そうとする場合、4の項は該当せず、契約は破棄される。
8.以上を仲介者が監視する。
契約者 アレッサンドロ・マカルド・コアナキア
被契約者 セイラ・トールゲン
準契約者 コアナキア次期当主候補者一同
仲介者 シン・アドル
エラン・ユグレスト・コアナキア
ーーーーー
アドル老師のフルネームはシン・アドルなんだ。
アドルはファミリーネームか。
「随分セイラに都合のいい契約のようですが、よろしいのですか?」
姉様が怪訝な顔で領主に聞いた。
「構わない。それくらいセイラの力は強力なようだ。むしろ私達を害さずにいてくれるだけで守る価値がある。あと、仲介者のところにカエラも名を記してくれ。」
領主はそう言うとライザに目配せをして、わかっていたかのようにライザはすぐに羽ペンとインク壺を机に置いた。
カエラは目の前に置かれた羽ペンを持ちインクをつけるとサラサラとエラン様の名前の下に自分の名前を書いた。
羊皮紙って文字書きづらそうなのに、慣れてるんだな。
それを見ていたらライザがへその緒が入っていそうな小さな箱を領主の前に置いた。
中に入っているのは銀の針?
まさか!
血判?
領主はカエラから羊皮紙を受けとるとためらいなく指を刺し、血が出たのを確認すると血判を押した。
薄く契約書の表面に魔方陣が現れる。
何も書かれてなかった気がするんだけど。
姉様も少しおどろいている。
するとアドル老師が説明をしてくれた。
「契約魔術だよ。国内有効の契約魔方陣が特殊なインクで書かれてる。」
しばらくすると魔方陣の光は薄くなって消えたように見えた。
それを見て領主はさらに血を準契約者の欄の後ろに垂らした。
「準契約者の次期当主候補者はアレッサンドロの近い血縁者、つまり一親等のもの、親か子供だけだから血だけでいい。」
再び魔方陣が光って収まった。
領主はライザが渡してくれた小さな布を受け取り指と針をぬぐい契約書と針をエランの前に差し出す。
エランも同じように針で指を指す。
消毒とかしなくていいのか?
私の考えを理解したのかアドル老師がまた説明をする。
「その銀の針の後ろの出っ張りに浄化の魔方陣がついてるから大丈夫だよ。」
前世日本人だからわかる衛生観念だな。
注射針の使いまわしなどで広まった病気の例はいくつもある。
エラン様もためらいなく行く。
なんでや!
慣れすぎでしょ!
同じようにアドル老師の前に来た契約書と針。
前世日本人のアドル老師は耳たぶを刺した。
そして、その血を親指につけると血判を押した。
「相変わらずですね」
そう言って笑ったのはエラン様だった。
「カッコ悪かろうと、指は痛いだろ?『神経』集中してるんだし。」
「毎回、シンケイ、シンケイと言ってそれだな?やったことはないが刺すことに代わりがないのだから痛いのではないか?」
と領主。
「変わります。指は後々も気になるけど耳たぶならあまり気にならないし、一番痛くなくて刺しやすいとこです。」
「そうなのか」
領主は納得したのかしてないのか詰問をやめた。
契約書がカエラの前に回ってきて、それを聞いていたカエラがどうしようか迷っていた。
指に刺す?耳に刺す?
カエラは躊躇った後に指を刺した。
思いっきりいったので苦痛に顔を歪めていた。
いくらなんでも領主もエラン様もそこまで刺してない。
カエラは唇を噛んで血判を押した。
「思いきりがいいね。」
そう苦笑いしてエラン様がカエラの右手を取るとなにやら小声で呪文を唱えた。
すると指の出血はとまりすぐにかさぶたになったと思うとそのあとかさぶたがとれて指の傷はなくなっていた。
エラン様が手を離すとカエラは自分の右手を見て目をぱちくりさせた。
治癒の魔法か。
それを見たら耳たぶの方がいい気がした。
日本人の時ピアッサーでだけど、耳に穴開けたことはあるからね。
私は耳たぶに針を刺した。
うん、確かにそれほど痛くはないけれど…
そこに親指をこすって血判を押す。
すると魔方陣がさっきよりも強く光って薄い虹色に輝いて定着した。
「これで契約は成立だ。ご苦労」
そう言って領主はキラキラ輝く契約書をくるくる巻いた。
そっけない。
領主は襟を広げるとチェーンに繋がった鍵を出した。
契約書と鍵はライザに手渡され、その部屋の棚にしまわれた。
その棚は随分頑強そうな作りだった。
金属の金庫のようなものだ。
最後にライザは鍵をすると鍵を領主に渡した。
領主はそれについているチェーンを首に下げ服の中にしまった。
なるほど肌身離さず持ち歩くのね。




