状況確認
さて、気分は大分落ち着いたが、ここは前世にいたような地球ではないらしいということに気がついた。
9歳の知識なので、まだまだこの世界に知らないことは多いが、少なくとも地球ではないことはわかる。
なんせ魔法的なものがあるということと、世界地図が全く違う。
本とかの類はほとんど見たことないけど、大店の商人の家だから商談を行う客間に地図が掛けられている。
一応文明はそこそこあるが、電気の変わりに魔法を使うって感じの世界だ。
魔法の力で火を起こしたり、魔法の力で食品を冷蔵したり魔法の力で物を動かすことができる。
だが、9歳の私の知識の中ではこの世界の人は空はまだ飛んでいない。
鳥はいるから多くの子供が大きくなったら鳥のように空を飛べる道具を開発するなんて夢を語るものもいる。
コントロールとエネルギーの供給の問題でまだ開発途上だと聞いた。
なぜ、そんなことを9歳の私が知ってたかって言うと、セイラ自身が例に漏れず空を飛びたい願望の少女だったからだ。
前世の私からすると魔法があれば空を飛べそうな気がするんだけど、空を飛ぶにはそうとうな魔力がいるんだとか…。
でも私にはそもそもあまり魔力はないらしい。
というのもこの世界には魔力の才能に恵まれたものと恵まれないものがいる。
才能があって仕事にいかせる者は全体の一割程度だ。
私は手のひらに乗る程度の水も出せないという記憶しかない。
いつだったか忘れたけれど数人の魔力を持った人が学校に来てテストをしたのがその記憶のようだ。
物を移動したり風や火や水を出したり念を送ったりとか…まぁ、超能力のようなものを見せてくれて、10人中一人くらいが物を移動できる程度だったはずだ。
例に漏れず私は何もできなかった。
これでは普通の仕事にしかつけなそうだ。
普通の仕事のほうがこの世界でも普通なのだから当たり前なことだけど。
それかお嫁さんかな。
私は来月には10歳になって成人に向けての修行・・・というか勉強を始めなければいけないわけだけど、平凡に両親の手伝いをしながらの修行になりそうかな。
花嫁修業かもしれない。
前世の記憶から立派な花嫁になれる気がしないけど、この体見た目だけは美人だし頑張ってみるか。
この世界のこの国、サイファ帝国では10歳になるとそれぞれに"能力証"という手の平サイズの鏡のような魔道具が配られる。
見た感じスマホサイズの手鏡かな。
能力証は鏡部分に映った人物を一人登録することができ、写真のように登録時の顔が写し出され、その裏にはその人物の能力名や数値が文字で示される。
すごいアイテムだ。
サイファ帝国ではこの能力証がないとまともに仕事ができない。
身分証明書も兼ねている。
それを開発させたのはこのサイファ帝国の皇帝の先代で、すでに亡くなってる。
相当にすごい魔力を持った切れ者だったらしく、他国に比べてサイファ帝国はかなり潤っているし、治安もよく、社会保障が行き届いているらしい。
それもこれも、この能力証のお陰という人が多い。
というのもこの能力証、本人が知らなかった才能も検知できるらしく、国民一人一人が自分の得意なことを生かして仕事ができるってのが利点らしい。
まぁ、中には好きなことができないと嘆くものがいるにはいるが、不思議なことに「好きは物の得意なれ」という日本の諺を体現するような現象も起こっているらしい。
10歳までに好きなことを極めた子供は大概その好きなことが得意な能力として検知されるし、それを越えてからも好きを極めて更新手続きをすれば、能力が新たに発現するというケースがあったそうだ。
だから好きなことを仕事にできない人は努力不足だと言われかねないので不満を言えない状況らしい。
この情報は幼馴染みの少女アリン・ミエーネから聞いた。
アリンはすでに二ヶ月前に能力証を貰いに領内役場に行ったそうで、そのときの説明を聞かせてくれた。
私ももうすぐ10歳…というか、能力証をもらえるまであと一週間なんだけどね。
そんな重要な行事の前に私は木から落ちて頭を打って死にかけた。
記憶が蘇る前の私、なんて馬鹿なんだろう。
幸い、薬品類の取扱もあった親のところに商談に来ていた魔導医師がいたときでなんとか助かった。
ほんと不幸中の幸い。
前世では横断歩道を普通に青で歩いていたら右折車にはねられて死んだんだけどね。
マジついてなかったなぁ。