周辺情報とセイラの立場
本に比べると分量は少ないからあっという間に読み終わってしまう。
日がくれる前に棚の資料は全部読んだ。
棚の向かいの大きな古びた地図を見ながら情報を整理しよう。
基本的には、一番上は衣料品の染料の植物についての記述や糸について、織機についてなどの資料
二段目は薬など、三段目は農産品の資料だ。
薬はよくわからなかったけど、生薬のようなものがどのような症状に効いてどのあたりでよくとれるかとかだった。
農産品はハーブや香辛料の資料が多かった。
とりあえず、胡椒が良い商材だということは書いてあった。
他は塩が岩塩として隣の領地でとれたり、海の塩が北の外れでとれるというのがわかった。
他はわからない植物の名前が多くて日本でも手に入っていたものなのかどうかもわからない。
セイラの記憶と日本名が合致しているものにじゃがいもや豆のようなものはあるけど、他の野菜はよくわからない。
一応、このあたりでは柑橘のガランとじゃがいものような芋ホクレンという根菜が名産ということはつかめた。
このあたりは北西の山脈のせいで雨量が少ないので、果物や芋の栽培が盛んなようだ。
麦ももちろん作っているがコアナキア領の収穫量や出荷量はそれほどでもない。
つまりほとんど領内で出回って消費されてしまう。
麦に関しては北西の山脈の麓のタシュカ領がサイファ帝国の最大産地だ。
タシュカ領の麦とここコアナキア領のホクレンという芋がこの国の食卓を支えている。
今のところ米らしい記述を見つけられなかった。
あるのかどうかわからないし、あったとしたら産地は遠いんだろうな。
米、食べたいな。
「セイラ様ー!どちらですかー?」
遠くの方でメリーさんの声が聞こえてハッとした。
夕飯の時間だな。
私はお腹の虫に逆らえずそそくさと地図の前から立ち去った。
それからメリーさんに呼ばれるまま、ディナーをいただいた。
農家に比べたら豪華なんだろうが、やはり味は物足りない。
鳥を焼いたものが出てきたが、庭に生えているローズマリーのようなハーブがついていて香りは良いのだけど、塩気は足りない気がした。
あとはバターや塩分少なめのマッシュポテトとパン、これまた味の薄いスープもあった。
付け合わせで葉物野菜のソテーも一応あった。
味付けはやっぱりさっぱり。
なんか高血圧に気を付けた食事みたいだ。
そして、ガランのジュースだ。
これだけは本当に文句無しに美味しい。
くどくない甘さと酸味がある。
私の好みなだけかもしれないけど。
一緒に食事している父と母はジュースじゃないものを飲んでる。
酒かな?
「あのお父様お母様の飲まれてるものはお酒ですか?」
食事がほぼ終わって酒らしきものを楽しんでいる父に聞いてみた。
「ああ、これは確かに酒だな。ガランワインだ。セイラも飲んでみるか?そろそろいいだろ。」
「ダメですよあなた。まだ能力証ももらってないんですから。」
「イルゼは固いなぁ。もう数日じゃないか。」
やはり、こっちの世界でもアルコールを飲んでいい年齢というのは感覚的にあるようだ。
とは言ってもこの感じだと10歳で成人と見なされるのか?
「父様、できれば15までは飲まない方が良いと思いますよ。自分で責任を実感できる歳までは親の責任になりますし。」
そう言ったのは姉さんだった。
私の記憶だと、10歳で能力証を交付され法的には成人だけど13歳までは職業訓練期間とされていて、希望の職場で雑用をしながらの修行や勉強をする。
15までにある程度自立してくる人が多いので、実質伝統的な成人は15と考えられている。
令和の日本では寿命が80歳くらいは普通だけど、こちらの世界では70過ぎれば長生きと言われていた気がする。
たぶん、人生設計の時間感覚がちがうんだろうな。
セイラの記憶が正しければ結婚は10歳でできたはず。
酒は法的にはどうなのだろう?
「別に今すぐ飲みたいわけではないんだけど、法的には何歳なの?」
それを言ったら三人とも目をあわせてキョトンとしていた。
「別に法律では決まってないよ。」
と父。
「ただ子供のうちはからだに悪いから飲ませるなとは言われているわね。」
と母。
「でもお酒で失敗する人はたくさん見てきたから、一人前になるまではおよしなさい。」
と姉。
なるほどね。
法律では決まってないのか。
そして、この中だと一番姉が過保護ということがわかった。
別にお酒が好きなわけではなかったから15まで待ってもなんら問題はない。
「カエラ、そうは言ってもセイラは早めに嫁ぐことになるかもしれないんだぞ。カエラはこの五年であっという間に我が商会に無くてはならない存在になってしまった。うちから外に繋がりを作るためにはセイラに嫁いでもらうしかなくなるかもしれない。」
おっと重い話来ました。
「そうならないよう私も兄さんも頑張っているのですよ。父さまも新しい商材でも見つけてくださいね。」
「うっ」
姉の猛追がすごい。
そんな話はセイラもしらなかったのだけど、この姉、シスコンなのでは?
「私のために頑張っていたの?その…ありがとう。」
一応お礼を言わなきゃね。
確かに変なやつのとこに嫁ぎたくはない。
せめて同年代かイケオジでお願いします。
「セイラのためだけではないわ。私は商売が好きだし、私自身も変なやつに嫁ぐのなんてごめんですからね。できれば私もセイラもそこそこ能力のある男を捕まえて婿養子にして商会の力をつけていきたいわね。」
姉、なかなかたくましいな。
「嫁ぐのも悪いことではないわよ。例えば下級貴族に嫁ぐって手もあるわよ。うちもそこそこの大店になったのだから、それくらいの口はあるわ」
母は玉の輿を狙えと言うのか。
「下級貴族ではお互いにじり貧だ。できれば中級くらいだといいな。いや、でもセイラは闇曜日生まれだしな。やはり他領の商会との繋がりもほしいところだ。」
ここでも闇曜日がどうという話が出てくるのか。
別に家族仲は悪いと思ってなかったけど、好きな人と結婚しろとは言われないんだなぁ。
やっぱ、これが文化の違いか。
それにしてもなぜ闇曜日が疎まれるのだろう。
「なぜ貴族が闇曜日生まれでは駄目なのですか?」
また三人が目をあわせている。
このアイコンタクトはなんなのだろう。
「闇曜日生まれの者は普通の魔法を使えるものが少ないと言われているのよ。」
姉は私に気を使うように言う。
「我々庶民にはあまり魔法は馴染みがないが貴族は魔法が使えなければならない機会が多いのだそうだよ。」
「貴族には庶民を守る仕事をする代わりに税を享受する権利が与えられるのよ。闇曜日の貴族でもしっかり仕事をしている人もいるし、特殊な仕事に就くのは闇曜日生まれだとも言われているわね。女性ならば家を守ればよいからそこまでは気にされないとは思うけど、『あいつは闇曜日生まれだからよくわらない』という揶揄される言葉はよく話に聞くのよね。」
母は私が疎まれるのは嫌だという顔をする。
つまり日本でいうあいつAB型だから二重人格でよくわからんとかB型だからマイペースだよな…というような感覚なのかも。
いや、魔法に関係してるともなると迷信とかではないのかな。
「つまり貴族よりは他領の商会の旦那さまを捕まえればよいということ?」
要約するとそういうことかな?ってか、前世30過ぎてまともに恋愛してなかった私にできるのだろうか。
そんなことを考えていると
「セイラは可愛いのだからそれでもよいけれど。考えは足りないけど勉強をしたことに関しては覚えはよいし、私か兄と一緒に仕事をしていればいずれ素敵な方と出会えるわよ。そして、兄弟三人でこの商会を大きくするのよ。」
あ、姉の中では決定事項なのですね。
たぶん、シスコンなんですね。
「それは後々でよいとしても、能力証になんて記されるのかが心配だな。」
父は一つため息をついた。
「おそらく俊足のスキルは書かれるでしょうね。私でさえついていたのですから、いつの間にか抜かされるようになったのでそれは間違いないでしょうね」
姉はガランジュースを飲み干して言った。
そんなに心配しているようには見えない。
「俊足はどちらかというと、女騎士に多いスキルなのですけどね。」
母までため息をついた。
両親よりも姉の方が肝が座って見える。
シスコン拗らせすぎて、何があっても私が守るという気持ちなのかも。
一人っ子だった前世とは大きく違うな。
私は苦笑いを返すしかなかった。




