アレッサンドロの失態
アドル老師の説明はこうだ。
エラン様が9歳ごろに帝都に会議と言う名のパーティにアレッサンドロ様が赴いた際の事だ。
マルティーナ様の実家と仲のいい貴族と話していた。
アレッサンドロ様は酒ぐせがよくなく、まわってくると大盤振る舞いをしてしまいたくなるらしい。
まぁ、外から見たらとても太っ腹な人なんだけど、内から見ると散財したり、面倒なことになったりするので酒の席にはアドル老師が同席するのが常となっていたそうな。
でもそのときはアドル老師は体調が悪かったらしく、先にパーティ会場を後にした。
そこには他にも侍従などがいたので大丈夫と思っていたそうだ。
だが、相手が悪かった。
マルティーナ様の話から子供の話になり、もうすぐ成人のエラン様の話になったときに、アレッサンドロ様は「エランはすごい!」とやたら身内自慢をしたらしく、相手が「そんなにすごいなら娘の婿に欲しいですな」…と言ったそうな。
それに対してアレッサンドロ様は少し冷静になったのか渋い反応だったらしいが、
「では、15までにお互いに良い相手が見つからなければ婚約しませんか?」
との言葉にそれならば良いでしょうと答えたのだそうだ。
翌日侍従からその話を聞いてアレッサンドロは頭を抱えたのだそうだ。
その相手の娘というのが、当時25で現在30で、年の差15も離れているのだ。
噂では魔力が中級並みで見た目はともかく性格が良くないとか…悪い噂しか聞かなかったそうだ。
相手は高い魔力を持つ貴族の男なら誰でもいいから娘の婿にほしいと必死なようだった。
マルティーナ様の縁を頼って酒を飲むと太っ腹になってしまうアレッサンドロに付け入るような提案をしたのだから、厄介極まりない。
方方声をかけて回ったせいかその父親は現在少し貴族界でも浮いてしまっているらしい。
アレッサンドロは妻たちに相談したそうだが、そこまで評判の悪い娘と番わせるのはエランほどの能力を持つ者が力を発揮できるかどうか怪しいという奥様方の意見が一致した。
しかもその相手方、子はその娘一人で条件は婿養子というから頂けない。
嫁にもらうならばともかく。
それが、会議という名目のパーティの席だったので、そこで話されたことは公の事とされるので約束を破ると少々立場が悪くなるそうだ。
エランの能力が低ければ兄弟も多いので仕方ないと割り切れたのだが、能力証配布で、エランの能力が特級であることがわかった。
エランは年を追うごとに美しくなり、魔力も強く、頭もキレるのでコアナキアの治世の業務を色々とこなすようになっていった。
つまり、コアナキアになくてはならない存在になっていた。
ところが、その魔力に見合う娘は中々見つからなかった。
子の魔力は父親よりも母親の影響をとても受けやすいらしく、領主の仕事を手伝える上級貴族の家として独立させるためには相当な魔力を持つ娘をあてがわなければならないそうだ。
そういえば、エラン様、よく「私は領主にはなれない」と言っていたっけ。
だが、エラン様の結婚できそうな年齢のコアナキア領の娘は上級貴族にはほぼいなかったそうだ。
刻々と迫る期限に領外から来てくれる娘も内々に探したそうだが、領主の息子とは言え5男坊に嫁いでくれる者はいなかった。
というのもエラン様が生まれた年あたりは流行病が蔓延しており、出生率や生存率が一時的に下がっていたらしい。
私が生まれた頃は下火になってたみたいだけどね。
エラン様の婚約相手を探す間中級下級の娘の父親が群がりはしたけれど、それでは約束を反故にできる効果が薄い上に、約束の娘の魔力は中級並みとは言え帝都の上級貴族だからそれを上回るか同等の地位、もしくは魔力を有さなければならない。
いよいよ、エラン様は13歳になり、アドル老師はそれまで部下達に多くを任せていた能力証交付を自らほとんどまわることにした。
貴族でなくても稀に突然変異のように強い魔力を持って生まれる子がいるのでそれを見逃さないためだ。
ついでにできれば転生者を見つけたいという気持ちももちろんあったそうだ。
転生者であればきっと特級の能力を持ってるだろうし、一石二鳥という話だ。
そして、やっと、ついに私を見つけたのだそうだ。
なるほど、私はまんまと捕まったのだね。
「ということは、エラン様は仕方無しに私と婚約することにしたのですか?」
私は感情の乗らない声でアドル老師に聞いた。
「いや、実はこの件はエラン様は知らない。知ってるのは私達と3人の奥様方だけだ。」
「え?じゃあなんでこんなに短期間で…」
出会ってから一週間ちょいしか経ってないんだよね。
「私の策略もあるけど、短期なのは奥様方の後押しが大きいかな。アレッサンドロ様がやらかしちゃってから私は年齢層からして一般市民からの特級しかもうないと思ってたから市井にかなり関わらせていたし、奥様方とそうとう話し合ったから。」
アドル老師が弱った目で私を見てくる。
それにしてもアレッサンドロ様に対して厳しい口ぶりだ。
「セイラちゃん、君にはこんな話をして申し訳ないと思うが、エランは本気で君のことが好きなんだ。それだけは信じてほしい。」
アレッサンドロ様はアドル老師の言葉は気にしてないようだ。
そうとう反省してるのかもしれない。
エラン様の気持ちが本物だと目で訴えてくる。
「確かにそそのかしたのは私達だけど、実際に気持ちは動いたのだから本物だと思う。信じてほしい。」
アドル老師…私が疑ってると思ってるのかな。
「あの、気持ちを信じてないわけじゃないですよ。兄に対して『土下座』までしてましたしね」
あれは本当にびっくりした。
「『え!?土下座までしたの!?ええ?!』」
「『あんたが教えたんじゃないんかい』」
「『あ、はい。小さい頃、教えました。…すみません。』」
アドル老師が舌をペロッと出した。
最後は私と老師は笑い合っていたが、日本語がわからないアレッサンドロ様はぽかんとしていた。
なんだか、老師とは長い付き合いの友達みたいな気がしてきたが、それこそエラン様と変わらないのにね。




