エラン様のダメ押し
私とエラン様、そして、兄は馬で駆けて特に問題もなくベレファ邸に着いた。
そこからは兄に色々説明して回っていたら、サトウキビに関しては協力してくれる農家がいないか探してみよう…などと色々考えているようだった。
さっきの厩舎前の出来事はすっかりなかったように振る舞っている。
さすが商人だな。
サトウキビに関しては実際に市井に砂糖が出回るためには必須だ。
他の植物からも砂糖になるものはあったが、今の所この世界では私はサトウキビしかしらないし持ってない。
あとはサトウキビからは紙も作れる。
サトウキビすごい。
まぁ、紙は本来はサトウキビに限らずいろんな植物から作れるんだけど、今の段階で製法的に大量生産できるのかわからない。
もしかしたらアドル老師のスキルで紙を作る機械が作れるかもしれないしね。
とりあえず、砂糖は大きいよね。
それ以外の薬草などは最近は供給が間に合っていないし、そのまま市井に流してもいいだろうということだが、トルー鉱石以外の鉱石や宝石類は金に困ったときや必要なときだけにした方がいいだろうという判断だった。
あまり出回りすぎると暴落を起こすこともあるので、調整が必要だそうだ。
その後、3人で屋敷の中を歩いて回った。
燃えたあとだが、アドル老師が浄化魔法などを使ったのでそれほど煤なんかは残ってない。
その代わり家具も扉もない。
細かいものもないのはなんでだろう…。
と思ったら最後に端の方の部屋へ行ったらその窓の外に大量のゴミが投げ出されていた。
不法投棄はやめていただきたい。
後でマコトちゃんに処理させよう。
基本はただ石造りの部屋がいくつもあるだけの建物だ。
地下へ続く隠し扉がある以外は。
地下への道はエントランスから左に向かう廊下を行ったある狭い一室に回転式の壁に見せかけたドアがあった。
そして、エラン様によると地下に向かった先は一方通行の牢屋になっているらしいのだけど、変なところから魔力の気配を感じて、まだ隠し扉があるのではないかと考えてるいるみたいだ。
おそらくそこにトルードアがあるんだろう。
軽く探して見たけど隠し扉はみつからなかった。
違う入り口でもあるんだろうか。
構造的には建物の下に地下室があるようなので、もしかしたら右側からも地下への入り口があるのかもしれないな。
一通り見たあとに私は木材などでドアや窓となるトラップドアや木の窓なんかを作りそれぞれの部屋に設置した。
「それにしてもすごい能力だね。」
兄はドアがものの10分程度で何部屋も設置された光景を見て驚いていた。
なんだか目がキラキラしてる。
兄は18でもう立派に仕事をこなせる大人なわけだけど、日本ではまだ未成年の年齢だったし、そう言ってしまえばまだまだ若い。
精神年齢アラフォーの私からすると可愛いわねぇ…って感じてしまった。
兄なのにね。
そういう面で言ってしまうとエラン様も15なわけだから可愛いよね。
ただ、領主の息子という立場上気持ちを隠そうとしていつも笑顔でいるのかいまいち子供らしさには欠けるかもしれない。
「ベットとか家具もあればもう住めそうですね。」
私がベレファ邸を見上げて呟くとエラン様が何かを思い出したようだ。
「そうだ、ノエミ様からの伝言を伝え忘れてました。ベレファ邸買い取りの許可はすぐ出たので家畜も正式な書類ができるくらいにはここに送るって言ってましたよ。」
ってことは羊が来る!
「ちなみに羊以外はほしいものある?ノエミ様が金額的にはかなり余裕があるので家具等も用意しようかって言ってました。」
「うーん、どこまでこの能力でできるか試したいので、家畜だけいただければいいかなと…。牛とか…」
「わかりました。伝えておくね。」
エラン様はやたら優しそうに会話をする。
それが、私に対してなのかみんなに対してなのかわからないのよね。
まぁ、さっき告白されましたけど…。
その後、兄に庭に植えた植物の生産について見せながら話した。
薬草類に関しては領内ではずっと枯渇しているから、主に領主一家に卸す分くらいはまかなえるといいという。
薬草の流通に関してトールゲン商会では領主一家に一部卸しているのだが、他の商会と協力してたくさん入手できた際に商会組合を通して卸すそうだ。
一度組合を通すことで競合しないようにバランスを保っているのだとか。
市井に関してはそれぞれの商会と商店でやり取りをするが、薬品や食品に関しては金額の目安のようなものが協会が月ごとに決めているものがあるらしい。
たとえば、主食となる小麦やホクレン、このあたりの産直品であるガラン、必要だが希少な塩、砂糖など。
薬ではバイシャグル、トルー鉱石。
そしてポーションそのものがその対象だ。
金額の目安があるとは言っても時価なので仕入れ値や値付けは商人の考え方で結構変わる。
あえて高く書く商店もあるが、その場合は常連に安くしたり、まけたりするわけだ。
「トールゲン商会はその点協会の金額にかなり近いですよね。」
「そうですね、カエラが仕事に関わるようになってからはかなり協会の金額を遵守してますね。それにしてもエラン様は市井や組合についてよく存じですね。」
エラン様と兄が私が口をはさみにくい話をしていた。
「私は順位的に言って次の領主にはなれませんからアドル老師に助言を請いながら、市井についての管理を学んでいます。商業と教育に関しては特に手をかけているので。」
「なるほど…。…だから…セイラと婚約したいのですか?」
「違います!」
兄がまた失礼なことを言ったらエラン様の否定が食い気味に入った。
別に政略的でもエラン様みたいな人と一緒になれるならお得かなって気はするけどね。
イケメンだし、優しいし、頭はいいし、強いし…
え?欠点無くない?
「それこそ最初は一目惚れだったかもしれませんが、セイラさんの謙虚で可愛らしいところが好きなんです!家業とかは関係ありません。」
エラン様は若干自分より背が高い私の兄に向かって訴えるように必死に語る。
恥ずかしい!
「あ、はい。わかりました。あの…別に仲を認めないとかではなく…。なんというか…その…」
兄はそのエラン様の気迫に押されながらも解せぬ様子だった。
うん、わかるよ。
なんでこんな地味な商人の娘の私を好きになったのかってことでしょ?
「エラン様の周りにいらっしゃるご兄弟の方々や上級貴族の方々はとてもお綺麗でしょうにわざわざ私のような地味なものを選ばなくても…と、兄は言いたいのだと思いますよ。」
私は苦笑いして兄や私の気持ちを伝えた。
セイラは比較的可愛い顔だけれど、庶民の中では可愛い方ってだけで、エラン様やご家族の顔の整い方と言ったら月とスッポン。
性格だと言えば期間的に短いしね。
「え?兄弟なんかよりよっぽどセイラさんのほうが可愛らしいと思いますよ。それに期間は短いとはいえ、セイラさんは我々の要求に頑張って応えようとしてくれている姿勢がなんと健気かと…。」
エラン様の目は庶民派なんですかね。
そして、性格の把握がエグい。
意外といいところついてる。
ブラック企業に勤めてたせいで身に染み付いてしまった部分を健気と表現してくれるとは…。
そういえば、そうね。
給料が出るか、得になるかわからないのにみんなの言うことを粛々とこなしていたわ。
怖!?
でも、セイラとしての性格もそういえば、大人の言うことは聞くタイプだったのよね。
自由時間はかなりお転婆だけど、勉強しなさいと言われれば勉強してたし、踊りの練習をしなさいと言われればやる。
記憶はなくても影響してたのか?
「そう…なんですか。」
私は誠子だったときのことを思い出したら赤面はしなくなったが、うまく笑えなかった。
あの地獄で形成された性格を良いと言われるとは…。
「あ…何か気に触ること言ったかな…。私は本当に君のこと…」
エラン様の表情が曇った。
「違うんです!前世のことを思い出してしまっただけなので気にしないでください。」
「そうかい?話して楽になるならいくらでも聞くからね」
エラン様は潤んだ瞳で私の手を握って見つめてくる。
ひえぇぇ!
頭に血が昇って気絶しそう!
「エラン様、イチャイチャするのは二人っきりのときにしてください。」
そう言って兄が私の手をとった。
ふう…助かった。
「と、とにかくちょっと羊とか家畜くるだろうし、ゴミが山積みになってたからちょっと作業しちゃいますね。」
これ以上エラン様と一緒にいると心臓破裂しそう。
落ち着け私。




