40年目のロマンス
翌日、いつものようにエラン様が迎えに来た。
その時には私は兄に付き添われていて、エラン様が不思議そうな顔をしていた。
「エラン様。今日から私がセイラに付いていくことになりました。馬はこちらで用意してます。セイラ、さ、こちらの馬へ」
そう告げられ手をひかれ厩舎へ向かった。
そこにいるのはいつも兄が買い付けに行くときに使っていた馬車に繋がれていた図太い感じの馬だった。
エラン様の馬も日本で見たスプリンターに比べると図太いし見た目ちょっと違うんだけど、うちのより筋肉質でスラッとしてる。
なんていうか、うちの馬のが遅そうなんだよね。
確か兄は名前をドンと名付けてた。
こっちの世界では馬にはドンという名前はよくつけられてる普通の名前なのだ。
猫にタマ、犬にポチみたいな感じで、馬はドン。
確か、詩吟が歌われてた物語か何かで馬のドンという話が出てくるんだよね。
それにしても走らなそうな名前だわ。
「お兄様、よろしければセイラさんは私がお守りしたく思います。何かあれば私は魔法が使えますし…」
ドンを見たエラン様が兄に訴えかけている。
「しかし、セイラは私の大切な妹です。兄である私が面倒を見るべきでは?」
兄も引き下がらない。
「ですが、失礼ですが、この馬ではスピードが出ないでしょう。何かに追われでもしたらこちらの馬のほうが有利だと思います。」
と、エラン様。
「エラン様は騎乗戦には慣れておられるでしょうから、むしろ我々は離れていたほうが敵を蹴散らすには良いのではないですか?」
と兄が応酬を繰り返していた。
こういうときどうすればいいのかわからず固まってしまった。
というか、兄はともかくなんでエラン様は必死なんだろう?
「だからセイラとは血縁でもなんでもないエラン様では信用できないと言っているんです!」
「兄様!いくらなんでもエラン様に失礼では…」
私は血の気が引いて兄を止めた。
仕事で従業員や取引相手と話すときはこんなことはないのに頭に血が昇っているんだろう。
私が兄を力づくでエラン様から離そうとするとエラン様が私の肩に触れ少し微笑んで首を振った。
その後信じられない光景が繰り広げられた。
エラン様が土下座した!
ちょっ!!?
え?!
なにこれ!
「正直に言いますと、私はセイラさんに惹かれているのです。始めて会った日から、ずっと。だからお兄様、セイラさんと親しくなるチャンスをください。」
「そ…それはなん…ですか?…なんで…そんな格好…」
兄は驚いてしどろもどろになっている。
領主の息子を膝まづかせてしまったという動揺で冷や汗を流している。
一方私は耳まで真っ赤なのは言うまでもない。
というか、なんで私なんかに惹かれてると?
こんな地味で冴えない性格なのに!?
え?セイラの美人な顔のせいか?そうなのか?
「あの、エラン様、私はお転婆と言われるような性格でして、その前世はすごく地味でしたし、…いや、それよりも立ってください。ああ、服が汚れますから…」
私がエラン様を立たせて膝に付いた土を払う。
幸い、エラン様が来ていた服の中では一番汚れても良さそうな服ではあるんだけど…
ってか、なんで土下座!?
この世界に土下座なんてないんですけど?
「やり方が間違っていたかい?私は本気でセイラさんのことを好きになってしまった。アドル老師に聞いていた通りやったのだけど、気持ちは伝わっただろうか?」
エラン様は少し目を潤めて不安そうに私を見つめてきた。
なんてイケメンなんだ!
別にドキドキなんてしないんだからね!
いや、ここまで言われたら認めざるを得ないし、悪い気はしない。
それにエラン様の事は好きかはよくわからないけど好ましいと思う。
それにしてもアドル老師はとんでもないことを教えたな。
たぶん「お父さん、娘さんをください!」のシチュエーションについて話したことでもあるんだろう。
「なんでもかんでもアドル老師の助言を鵜呑みにしないでください。あの方はたぶん面白半分に日本の知識を教えてると思いますよ。…まぁ、気持ちは伝わったと思いますけど…」
あー、恥ずかしぃ
私が耐えきれず目を背けた先には兄がいて、兄は死んだ魚のような目をしていた。
「ウン、ワカッタヨ。キミラノスキニシナサイ。」
兄は棒読みでそう言うと、おもむろに馬に跨って先にトボトボと向かってしまった。
どうしたんだろ?
あんまりに覇気がないので心配になる。
「さ、セイラさんも乗って、出発しよう。遅くなってしまった。」
エラン様はそう言うと私を抱えあげ、自分も馬に乗ると私を前に抱いて馬を走らせた。
いつも以上にきつく巻き付けられたエラン様の左腕が熱かった。
あれ?
ちょっとまって?
あれ?私、エラン様の好きに対して受け入れたってことになってるよね。
あ、いや、うん、それでいいけど…
いいんだけど…
前世あわせて40年、やっと男性とそういう雰囲気になって、その相手が15歳の少年なんだが、いいんだろうか?
いいんだろうか!!?
ふとエラン様を振り返るとまだあどけなさの残った美しい顔がはにかんでこっちを見返してきた。
絵画のような美しさに目眩がした。




