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第7話 せっかく来たんだからスキーも楽しもう


 大賑わいのモーニングブッフェも無事に終えることができた。


 後片付けを手伝うと申し出る神さま方に、さすがにそれは遠慮して頂く。

 その代わりと言っては厚かましいが、この世界の平和と調和をシュウはお願いした。

「本来なら、神さまに願い事などしてはいけないのですが」

「そんなこと、いつでもやってるのに」

 当たり前の事を言うシュウに、ちょっとションボリ気味の神さま方。


「まあまあ、それもこれも自分勝手な奴らが増えてくるとしんどいだろ? 時たまこうやってこいつらの美味い飯を食わせてもらって、力をつけようや」

「おお、そういうことなら大賛成じゃ」

 ヤオヨロズの言葉を聞いて途端に機嫌が良くなる神さまに、シュウは苦笑い。

「店の営業中は邪魔しないから、安心しろ」

「はい、是非そうして頂きたいものです。それ以外でしたら、本気も大いに出させて頂きます」

 シュウが言うのに、神さま方はまたまた大喜びしつつ、各々天の向こうへ帰って行かれた。




 2日目も天気に恵まれている。

 彼らは大いに滑りを楽しむつもりだが、まずその前にホテル本館の入り口へとやってきた。坂ノ下ご一行が一足先に帰ることになっていたからだ。

 親方たちは金曜日から2泊3日で旅行を楽しみ、今朝は朝食のあとチェックアウトを終えて帰途につく予定だと昨日話してくれていた。

 ふもとの駅まで行くリムジン乗り場で、坂ノ下たちは彼らを待ってくれていた。

「親方!」

 夏樹が呼ぶと、「あさくらくん!」と、あやねが一番に手を振って答えてくれる。

「またね。でも、もっとみんなと滑りたかったなあ。くらまくんとしすいくんとは、ほとんど滑ってないんだもん」

「ははは、ここに来ているのを知ったのが、昨日だったからな」

 親方の言葉に、ちょっとつまらなさそうなあやね。そんなあやねに夏樹が言う。

「今年はもう無理かもだけど、また来年。スケジュール合わせて来ればいいっす」

「うん! そうだね」

 途端に笑顔になって言うあやねに親指を立ててみせると、あやねも真似して親指を立てている。

「来年は、俺がスキーに連れて来てあげます!」

「おお、頼もしいな」

 笑う親方に、夏樹は急にしおらしく頭をポリポリと掻き始める。

「とは言え、シュウさんと冬里に相談してからっすけど」

「私にもよ!」

「俺にもだ」

 由利香と椿にまで言われる夏樹に、志水と志帆が吹き出している。

「そろそろ出発致します。ご乗車お急ぎ下さい」

 係員からの呼びかけに、まず志帆とあやねが、そして親方が、最後に志水が乗車口に向かう。

「志水さん! またランチでもディナーでもいいので来て下さい」

「お待ちしています」

「今度、ディナーをご一緒しましょうよ」

「あ、いいな、いろんな方をお招きして」

「うん、楽しそうだから、ぜひ実現させてよね」

 口々に言う『はるぶすと』メンバーたちに、志水は「あらあら」と驚きつつも笑顔になる。

「これは責任重大ね。わかりました、またご一緒させてね、秋渡ご夫妻」

「「はい」」

 そうして5人はバスの発車を見送ったのだが。


 そのバスの中から外を見ている3人の女子。

「ねえ、あれって昨日の講師さんよ!」

「ホントだ、でも今日は子連れじゃないわ」

「ていうか、昨日一緒にいた子って、あの子じゃない?」

 最後にバスに乗り込んできた一行の中に、紛れもなく昨日夏樹と手を取り合って? レストランを出て行った子どもがいる。

「ということは」

「あの子は講師さんのお子さんじゃないってこと?」

「……、……」

「「「ええー?!」」」

 リムジンバスに響く3人の心の声。

 初心者3人組は、今さらにして真相を知ったのだった。だが、時すでに遅し。

「「「やっぱり連絡先、聞いておけば良かったあ」」」


「ふふ」

 バスを眺めて微笑む冬里。

「どうしたの冬里、なんか楽しそうね」

「うん、この世界はよくできてるなあって思ってね」

「? なにそれ」

「由利香は知らなくていいの。さ、時間は限られてるよ、滑りに行こう」

 ぽん、と由利香の肩を叩いてリフト乗り場へと向かう冬里に、また遊ばれたのかしら、と、絶対に言わないだろうとわかっていても、由利香は「待ちなさい」と冬里を追いかけるのだった。



 まずはじめに椿が、競争云々を抜きにして、もう1度だけ超難関コースを滑りたいとのことだったので、由利香は快くOKして自分は中級コースへと向かう。

「鞍馬さん、本当に度々すみません! この1本だけ、この1本だけよろしくお願いします」

 他のメンバーに見えないところで拝むように頼む椿に、シュウは頷きながら微笑んでいる。

「よろしいですよ。冬里の話によると、ここの難関コースはおすすめらしいので」

「そうなんですよ。鞍馬さんもあとで是非、滑ってみて下さい」

「はい」

 嬉しそうに言う椿が難関コースのリフト乗り場へ向かうと、当然のごとく夏樹が後を追いかける。

「椿、負けねーぜ」

「今日は、競争はなしだ!」

 力強く宣言する椿だが、どうなることかはわかったものではない。

「大丈夫かしら、あの2人」

 昨日と同じように心配そうな由利香だが、そこは気持ちの切り替えが早い彼女のこと。時間が惜しいと、とっとと中級コースのリフト乗り場へと向かうのだった。

 ようやく勘が戻ったのか、由利香は昨日とは雲泥の差で中級コースを危なげなく滑り降りていく。

「へえ、けっこう上手だったんだね由利香」

 1度降りてきたところで、すぐ後ろを滑ってきたのか、冬里が隣へ来て珍しく褒めるようなことを言った。

「冬里、あんた後ろにいたの? 全然気づかなかった」

「そう? まだ周りを見渡す余裕はない、なんだね」

「当たり前よ。気を緩めると転んじゃうもの。こけるのいやー」

「本当に無駄な体力使うの嫌なんだね。それでは、もう1本行きますか」

「いいわよ!」

 宣言する由利香と冬里が仲良く? 2人乗りのリフトに乗り込む。

 今日は冬里が由利香のお守りをしてくれているのかな、と思うシュウだが、冬里の事だ、いつ何時やーめた、となるかもしれないので、2人の少し後からリフトに乗り込んでいった。


 3人が滑り降りてきたところで、椿と夏樹が待っていた。

「椿、もう競争は終わったの?」

「ああ、結局俺の負け、あ……」

 競争はしないと行っていたのに、どうやら夏樹の情熱? に押される形になってしまったらしい。

「ふふ、いいわよ、あんたたちは仲の良い兄弟みたいだもん。で、どうする? もう一回行ってくる?」

 由利香には似つかわしくない優しい言葉だか、椿はその言葉に首を横に振る。

「ううん、もういいよ。それにせっかく来てるのに、俺ほとんど由利香と滑ってないんだよな」

「そう言えばそうよね」

「このあとは由利香とのんびり滑ることにするよ」

 またまた中のよろしい秋渡夫妻に、夏樹はやれやれと肩をすくめている。

 けれど今回はお邪魔するつもりはないようだ。

「じゃあ、僕たちは違うコースに行くね~。あとはおふたりでごゆっくり」

 冬里がひらひらと手を振って、夏樹とシュウの背中を押すように違うリフト乗り場へと向かう。

「え? あれ、どこ行くのよ」

 由利香が冬里に問いかけるが、3人はさっさとその場を離れていく。

「良いんじゃないか由利香。夏樹に聞いたんだけど、鞍馬さんはまだ難関コース一度も滑ってないんだって」

「そうなの?」

 それがほとんど自分のせいのような気がしていた椿は、胸の内ですみませんと手を合わせつつ彼らを見送るのだった。



 難関コースの出発点から眺める雄大な景色は、それこそ見とれるほどだった。

 ほぼ遮るもののない雪平原に転々と葉を落とした木々たち。

 地上と山の上をつなぐいくつかのリフト。

 快晴の青空と、はるか向こうの山々に白くたなびく雲。

 ここまで上ってくるだけでも、このスキー場に来た甲斐があるというものだ。

「由利香さんも連れてくれば良かったのかな」

「で? 帰りはシュウがおんぶして降りるの? ……うーんそれも良いかなあ、あとで提案してみよう」

「違うよ、またリフトで降りて頂くんだよ」

「ブハッ! 由利香さんカンカンになりますよ」

 吹き出して言う夏樹に、微笑み返すシュウ。

「だからお誘いはしないよ。おんぶも却下」

「なーに? 自分で言っといて」

 楽しそうな冬里に、「申し訳ございません」とこちらも少し楽しそうに謝ると、シュウが宣言した。

「さあ、では気持ちを入れ替えて、降りていこうか」

「うっす!」

「りょーかい」


「行きまっす!」と一番に夏樹が飛び出す。

「お先に~」とあとへ続く冬里。


 少し背を伸ばして長く息を吐き出して。

 彼らの軌跡と交差するように、シュウは大きなシュプールを描いて滑り出すのだった。








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