第4話 ここでも登場、あの方たち
ホテルのラウンジで志水とお茶を楽しんだあと、シュウと冬里の2人はコテージへと向かっていた。
コテージへの道すがら、冬里が昼食後の皆の話をしてくれた。
椿を超難関コースに誘った夏樹が、「もう勘弁してくれ」とお断りされ、ぶすっとしていたのだが、冬里とともに上がってみるとそこに弦二郎さんがいて、超ご機嫌になったこととか。
志帆さんとあやねちゃんと由利香は、初心者コースでのんびり滑るのがとても楽しそうだったとか。
椿は中級者コースで、親方となかなか良い勝負だったとか。
「でも気がついたらシュウがいなくて、あれ?って思ってさ。志水さんも消えちゃったから、ははーん、てね」
「悪かったよ。でも冬里はまだ滑り足りない感じだったから」
「まあね。でも、超難関コース、けっこう面白かったよ。シュウも行きなよ」
「ありがとう。明日、行ってみようかな」
「うん、おすすめ」
シュウがコテージに行くのには訳があった。
ディナーのテーブルセッティングと、明日の朝食のちょっとした準備のためだ。
朝食も自分が作る! と、はじめはずいぶん言い張っていた夏樹だが、さすがにあとの2人から却下されていた。
ディナーとスキーと、その上朝食までと言うのはやはり無理がある、と、冬里とシュウの意見が一致したからだ。と言うより、夏樹ならどんな無理をしてでもやってのけて、あとでぶっ倒れてしまうのが目に見えていたからだ。
テーブルセッティングは今しておけば料理に集中できるし、朝食は……そんなに手の込んだものを作るつもりはないのだが。
なぜか準備しなくては、と言う思いが頭から離れないのだ。
その理由は、コテージに着いてすぐにわかった。
「ようやく来たか」
「うん、待っておったぞ~」
きちんと戸締まりしたはずのコテージ。そのリビングで、神さまが思い思いにくつろいでいた。
しかも、かなりの数。
回れ右をして出て行きたいのをなんとかこらえたシュウは、ちょっと固い声で言う。
「きちんと戸締まりはしたはずですが」
すると、きょとんとしていた神さまたちが、一斉に大笑いしてはしゃぎ出す。
「鞍馬~戸締まりなんて、わしらには関係ないぞよ」
「そうそう、まあそんなに堅くならずとも」
「座れ座れ」
「お、冬里もいるぞ、ほれここへ、近う近う」
「はあい」
シュウとは対照的に楽しそうな冬里は、すぐ示された席に座る。
「ほれほれ、クラマも」
背中を押されて手を引かれて、シュウもソファに座らされてしまった。
「いやあ、わりぃな」
いつの間にか隣にはヤオヨロズがいた。
「なんだかな、奴らがお前さんたちの朝食をどうしても食べたいって言ってさ」
「それで?」
「それでって、……なんだお前怒ってんのか?」
表情を崩さないシュウに、怪訝な顔で聞くヤオヨロズ。
「シュウはさ、何かって言うと押しかける神さまにあきれてるんだよ」
「え? そりゃお前、お前たちの料理おいしいんだもーん。なあ、皆」
すると、シュウが怒っていると聞いてソワソワしていた神さまたちが一斉に賛成の意を示す。
「そうそう、みんな楽しみなんや」
「だっておいしいんだもーん」
「幸せになるんだもーん」
「力がわいてくるんだもーん」
それらの言葉にシュウの顔から堅さが少し抜ける。
「神さまだって、美味しい物を食ったら幸せ、なんだぜ。それに俺たちが押しかけるのは、こういう、お前さんたちの休日とか旅行先だけだろ。店の営業中にはさすがに行けんわな」
うんうん、と頷くようにヤオヨロズが言っている。
するとシュウは、ようやく顔をほころばせた。
「そう、ですね。店があるときは来られませんね」
「邪魔なんかしないぜえ、みんな気が小さいんだからあ」
モジモジとソファで身体をくねらせるヤオヨロズに、シュウはこらえきれずに吹き出してしまう。
「おお! クラマが笑ったぞ」
「鞍馬がわろうた、わろうた」
「クラマが笑ったぞお。やんやあ」
「よきかな~」
神さま方も嬉しそうだ。神さまはもともと楽しいことが大好きなのだから。
「で? 神さま方はどんな朝食がご所望なのかな」
こちらは最初からニコニコ顔でいた冬里が聞いている。
「おう、よくぞ聞いてくれた」
「わしらはの、あの、ほれ、なんやったかな」
「もーにんぐ、ぶゅっふぇ、とか言うのを食べてみたくてのおー」
「日本語で言え」
「バイキング」
「それも外来語じゃ」
どうやら神さまたちは、ホテルの朝食などでよくあるビュッフェスタイルの朝食が食べたいらしい。繊細な神さまたちは人が大勢いるあの雰囲気に気後れして、なかなかビュッフェには挑戦できないとのことだ。
事情を聞いたシュウは、少し考え込んだあとに言った。
「そういうことでしたらお引き受けします。ですが、この人数の食材を調達するのは……」
パチン!
シュウの言葉を聞いたヤオヨロズが指を鳴らす。
すると、リビングの一角に海の幸、山の幸がどおんと魔法のように現れる。
「心配は無用だぜ」
「でしたね」
そしてまたやんやと騒ぐ神さまに、シュウが言う。
「あとひとつお願いが」
「ん? なんだ?」
「夏樹にはこのことは黙っていてほしいのですが」
「なんでだ?」
不思議そうに聞くヤオヨロズに、シュウがいきさつを説明する。
「ああ、そうか。あの夏樹だからなあ。いったん諦めてもこんな話を聞いたら、這ってでも料理しそうだもんな。OK、皆、そういうことだから、夏樹には口外無用だ。極秘だぜ」
「おお、極秘任務じゃ」
「なんちゅうたかな、あの格好いい俳優の」
「みす・いん・ふぁっしょなぶる、じゃ」
「いや、俳優じゃよ、ドムなんたら言う」
神さまは大間違いしているが、楽しそうだからまあ良しとしよう。
こんな経緯があって、シュウと冬里は翌日のモーニングブッフェを担当することになった。食材は夏樹にわからないよう早朝まで隠しておくことにして。
そして帰ろうとするヤオヨロズに、シュウが遠慮がちに言う。
「あと、もう一つお願いがあるのですが」
「ん? なんだあ」
「彼らを派遣して頂けると、ありがたいのですが」
彼らというのは。
こういうときにシュウたちの手助けをしてくれる、おなじみアニメネズミの事だ。
「おう! お安いご用だぜ」
「ありがとうございます」
「有能だからな、あいつら」
思いをはせるように言うヤオヨロズに、シュウが優しい微笑みで言う。
「彼らとの作業は、とても楽しいので」
すると、冬里が一言。
「ヤオ、今の台詞。夏樹に言っちゃ駄目だよ」
「なんでだ?」
「夏樹ってさ、他のこと、そうだなあ綺麗なお姉さんにモテモテのシュウとかは全然平気なんだけど、こと料理とシュウが結びつくと、異様にヤキモチ焼くんだよね~」
「そうなのか?」
ヤオヨロズに聞かれて首をかしげるシュウに、「あっという間にできるクッキー事件」
と言う冬里の台詞で何かに思い当たり、苦笑する。
「私が椿くんに、クッキーの作り方を教えたのが気に食わなかったようで」
「いいんだよ別に教えても。ただ、夏樹の知らないところで椿にだけって言うのが駄目だったみたい」
ふうん、という感じで聞いていたヤオヨロズは、
「まああいつにとっちゃクラマは師匠だからな。尊敬してるんだよ、許してやれ」
と、シュウの背中を軽く叩いた。
「はい」
この場合はこう返事するしかないだろうと、また苦笑しつつシュウは肯定を返しておいた。
ヤオヨロズも帰ってしまうと、2人は手分けしてテーブルセッティングを手早くすませ、ホテル本館へと急ぐ。
そろそろ他のメンバーが山から下りてくる時間だ。




