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08(修正前)

瑠璃はロウと共に夜の町を駆けている。といってもロウは隠れているので見えなかった。

目指しているのは町の中心部、神栄寺。そこに仲間はいる。




着くとすでにみんな揃っていた。

菫は白いワンピースを着て空色の仮面をつけている。和哉は袴姿だ。すごく似合っていて男として悔しい。ちなみに黒い仮面をつけていた。

ぽつぽつと雨が服を濡らそうとするも、以前菫がつけてくれた撥水の守護符のおかげでぬれることはない。

守護符の影響は身体全体だから、瑠璃が水も滴るいい男、になるわけがなかった。


「あーあ、僕が最後かぁ」

「時間ギリギリだったな」


と和哉が茶化す。


「小鈴ちゃんはもう落ち着いた?」

「ああ。菫のおかげで熱は大分下がった。明日は来られるだろう」

「そっか。良かったね」


にこりと微笑むと、和哉は珍しく素で笑っていた。


「ああ。…………では、そろそろ行こうか」

「はい。二人とも、構いませんか?」

「はいよ。頼むよ菫」

「任せて下さい!」


菫は深呼吸をした。


これから発動する『呪』は一般人を巻き込まずに魔物を狩ることができる代物。

菫は朗々と呪を紡いでいった。


『言葉は真実。信じる心はすべての光』


なめらかに言葉は流れる。

その言葉は空へ吸いこまれるように空気へと溶けていく。


『闇に映る者は光に見出されよ』


それは比喩ではない。菫を中心として渦のように文字が輝いた。

仮面の中で目を細めながら、瑠璃はそれを見た。


『あなたが見るもの、すべて嘘』


青白い光は、言葉であり、心であり、真実であった。

一言発するたびに、菫がまとう光は波打ち、波紋のように広がっていった。


影島が使う詠術は『光』と『闇』の伝承に基づいている。

その伝承の中で、『光』と『闇』は神の御技に最も近しい力だとある。

影島の詠術は、それらを理解することで効果を発揮するらしく、呪を紡いでいるはずなのに菫の姿は神々しく輝いている。

落差は、不自然なくらい、感じられなかった。


『あなたの心は、すべて虚無』


地面をつたうその光は、ついには町全体に達した。

それを予期したかのようなタイミングで菫は呪を完成させた。


『夢と現を彷徨って、捉えて出でよ。……夢幻鎖獄』


途端に、輝かしかった光は、町のあちこちで半球状に膨れていく。

その半球は、中に魔物がいることを表していた。

無論、一般の人に見えるはずがなく、仮面をつけている者だけが(あずか)り知ることができた。


「今日はやけに多いな……」

「三手に別れますか?」


その球体の数を見て、和哉が思わずといった具合に呟いた。少しばかりの動揺が伝わってきた。

菫は心配そうに眉を寄せている。

その事に眉をひそめながら瑠璃は言う。


「駄目だよ。菫と和哉は二人で力を発揮できるんだから。細かいところは僕が潰して回るから、いつも通りにして。いいね?」

「……分かりました」

「和哉は、いい?」


菫に気付かれないように和哉に目配せすると、和哉は肯いた。


「ああ。分かった」


肯き返して瑠璃は笑った。


「それじゃ。また明日、学校で」

「ええ。気をつけて下さい」


心配そうに言う菫に、にっと笑う。


「だいじょーぶ。じゃあ!」


その場を一跳ねして寺の屋根に移った。

そして住宅の屋根を次々と飛び越え、巨大な光にもとに向かう。

空から見ると白薔薇のような結界の大きさはそれぞれ違う。

結界の大きさは魔物の数と強さに左右されるのだ。

そして、そこに偶然居合わせてしまった人間は強制的に移動させられる。

つまり、いなかったことになる仕組みだから、全く邪魔は入らない。


夜の生暖かい風を身に受けながら、瑠璃はトン、トン、とリズムよく屋根を蹴って、三十秒足らずで着いた。


その光のドームを前にして、瑠璃は自分でも知らないうちに、にやりと頬を歪ませていた。



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