06(修正前)
縁側から光が差し込んでいる。
良く言えば整頓されている和哉の部屋に、瑠璃は身体を滑り込ませた。
久しぶりとはいえ和哉は慣れた様子で瑠璃を迎えた。
「何も出せなくて済まないな」
その言葉にむくれながら瑠璃は言う。
「そんな事したら僕がここにいるってバレるでしょ。それよりさ――」
室内を見渡すと、そこは相変わらずの様子で思わず「殺風景だね」と呟いてしまった。
「悪いな、殺風景で」
大して気に咎めた様子もなく和哉は言った。
「座ったらどうだ?」
「んー。それじゃお言葉に甘えて」
「ああ。殺風景だから座布団しかないがな」
「根に持ってんの?いやいやこれは仕方ないって」
昔ながらの日本家屋だから部屋は当然和室で、しかも広い。
部屋の中央に四人用の座卓があってその周りに数枚の座布団。それだけ。
床の間には唯一つの装飾品の掛け軸がかかっていたが、「見た目通りの渋さだ」で終わってしまう。
面白みなんて何もない。
「和哉くん、もうちょっと派手にしようよ。その年でもう枯れちゃうの?」
「意味が分からんが、まあ俺はこの部屋が気に入ってるんでな。恐らくずっとこのままだ」
「さいですか……」
意気消沈してしまった瑠璃を見て和哉は溜息を吐く。
「そんなことはどうでも良いから。いったい何のようだ」
この部屋の良いところといえば日当たりが良いことだけだ。
「だから、そんなことはどうでも良いだろう!不気味にひとの部屋に文句を言うな。こちらまでその暗さがうつる」
「何だって?!和哉のくせに、生意気な!」
「意味が分からん。それより早く用件を言え。小鈴の側についてやらねばならんというのに」
全く、と溜息をついた和哉を見て瑠璃はやはりと思った。
「……やっぱり和哉ってシスコンなんだ……」
「し、しすこん……?って何だ?」
瑠璃は和哉の呟きを聞いた時やはりと思った。
「……やっぱり琴吹さん家は時代遅れだ……」
「何?!瑠璃、貴様俺たちが一番嫌いな言葉だと知っていての言葉か!」
激昂とまではいかないもののかなり怒っている。
今日の琴吹さんは「時代遅れ」という言葉がむしずが走るくらい嫌いらしい。
いつ座卓をひっくり返してもおかしくない状況だった。
鋭い睨みを利かせる和哉を横目に、瑠璃は溜息を吐いた。
「……和哉」
「何だ!!」
「明日僕のクラスに転校生が来る」
「それがどうした!…………って、何だと……?」
「明日、僕のクラスに転校生が来るんだ。有り得ないだろうに。」
打ってかわったような声の調子に和哉はひるんでいた。
それを横目に見ながら瑠璃は言う。
「こんな事は一度もなかった。今日の天気は一日中晴れだと予測したし、あと一年は普通に暮らせると思った」
瑠璃はゆっくりと息を吸った。
「状況に変化有りだ。和哉」
「ああ。分かっている」
しっかりと肯く姿に瑠璃は苦笑した。
「頼むよ。……あと菫のお祖父様には伝えておいて。でも菫には言わないで」
「何故だ。菫も俺達の仲間だろう」
「それでもだよ」
瑠璃は強く言った。
「菫の身体は無茶できない。これ以上の負担はかけたくない」
いいよね?と聞く瑠璃に和哉は渋々とだが肯いた。
「ああ。代わりに影島の当主殿に協力を頼むのだからな」
「うん。それじゃあ帰るよ」
「ああ。また今晩に」
「うん」
そして瑠璃は呟いた。
「転入生には警戒が必要だろうね……」
たとえそれが何者であっても。
邪魔をするなら、排除する。
そして来たのと同様に、瑠璃は姿を消した。