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11(修正前)

国語だ。瑠璃の得意でも苦手でもない教科だ。

担当はクラスの担任であるとかげちゃんで、微妙な緊張感が良いとかなり変わった意味で人気があるのだが。


とかげちゃんの国語は自習になった。

さすがというべきか、授業にならないことを見抜いたらしい。早々にお待ちかねの質問タイムになった。

自習を告げられた瞬間から玖珂の席の周りは、蜂が花に群がるように女子の大群に囲まれた。

きゃいきゃいとはしゃぐ彼女たちは我先にと玖珂に質問を開始した。

「どこから来たの?」「好きなものは?」などのありきたりなものから「お父さんの仕事は?」とプライベートに関わるようなものまで多種多様な質問が玖珂に浴びせられる。

玖珂はご丁寧にもその一つ一つに当たり障りのない答えを返していた。



瑠璃はというと、半ば押し退けられて席を移った。目を輝かせる女子の大群に恐れをなしたと言ってもいい。

瑠璃は精神的にも体力的にも疲れていたが、とかげちゃんが監督しているせいで眠ることはできない。

仕方なくよく一緒に喋ったりする自称変人たちのところに混じって時間を潰そうとした。

一応玖珂の情報は手に入れたほうが良いだろうと思って質問の内容を気にするが、聞こえない。

ぎりぎり聞こえる範囲に座っているはずだが、いかんせん周りの雑音が大きすぎて玖珂の声は聞き取れなかった。

だが、やはり注目される転入生の話は知れ渡るもので、自称変人のひとりの佐々木はメモ帳を片手に玖珂のところから戻ってきた。

一応女だが、ビン底眼鏡におさげというすでに絶滅してしまったような出で立ちをしている。

趣味は情報収集らしい。

噂によると、佐々木に情報を握られると夜眠れなくなるくらい怖い目に遭うとか遭わないとか。

瑠璃は自分の弱みを人には決して握らせないようにしているので未だかつて佐々木に脅されたことはない。


ともかくも、佐々木が掴んできた情報によると(玖珂の話の盗み聞いただけだろうが)どうやら玖珂は親の都合でこっちに越してきたらしい。それで一人暮らしとはなんとも奇妙な話だ。


佐々木の話は転校の理由にとどまらず、好きな物や嫌いな物、家族構成、好みの女性のタイプetc etc……


玖珂は本当に律儀に答えたらしいと瑠璃は呆れた。



ふと瑠璃はあの時聞いた報告を思い出した。

何というのかは知らないが、とにかく大きな和室で、部下と思しき男が今は亡き父に報告していた。

家から抜け出そうと庭に潜んでいたせいで、瑠璃はそれを聞いてしまったのだ。



 *



気配を絶って家の中の動向を気をつけつつ進んでいるとふと声が聞こえてきた。

気になって瑠璃が木の陰から覗くと日本庭園のような庭に男がうずくまっているのが見えた。

縁側にはよく父のそばにいる重鎮たちが正座して並んでいた。

面している和室の奥には父がいた。


重鎮たちが居並ぶ中、男は負傷した腕を庇いながら上座に座る父に報告していた。


「……く、玖珂湊は戦闘中に死亡を確認し、その妻、良枝は捕らえましたが、監視が目を離した隙に服毒自殺をしました!も、申し訳ございません!」


その部下はぶるぶると震えながら頭を垂れていた。


「……息子はどうした?」


重鎮の一人が口を開いた。確か第三精鋭部隊を率いていた人だと記憶している。その声は静かな怒りが込められていた。

男はひたすら低頭して言った。


「……む、息子の行方は、未だ分かりません。この失態は必ず……!」


男は必死の形相で言ったが、当主である父は覇気の欠片もなく肯いただけだった。



“四大家”総出で捜索に当たったが、息子の行方は分からないままだった。

鈴宮の当主が乗り気でなかったこともあって、まもなく捜索は打ち切られ、玖珂冬流は死亡したと伝えられた。

そして“玖珂”の名は“九師家”から抹消されたのだ。


『玖珂家抹殺』とあとになって呼ばれるこの事件は、大概の者が真相を知らないまま終わった。



 *



そんなことを思い出して瑠璃は眉間にしわを寄せた。

死亡と報告はされたが、行方不明だっただけで本当に死んだわけじゃない。

それなら生きていてもおかしくはない、とは思うが、わざわざ姿を見せるのは「殺してください」と言うようなものだ。

知る人ぞ知る『玖珂家抹殺』の真相は閉ざされてしまったし、瑠璃は裏の人間が言う“常識”をほとんど知らないが、玖珂の一人息子を“四大家”に引き渡せば多額の金と出世が約束されることくらいは知っている。

裏に居ることさえも危ういのに、ましてや表に出てくるなんてほとんど自殺行為だ。


瑠璃は思わず唸った。


(……自分の身を危険にさらしてまですることなんてあるのだろうか)


女子に囲まれている玖珂は相変わらずの笑みを浮かべている。鋭くて優しそうに見える傲慢な笑み。

瑠璃は溜息をついてみせた。


真意を知りたいと思うが、やはり厄介事には首を突っ込みたくない。

めんどくさいことは起きませんように、と祈って、瑠璃は友達の話を聞くことに専念した。



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