第8話・大人バレエの楽屋話
思い出話、続き。
発表会のお衣裳やシューズ、ヘア飾りは群舞の場合、もちろんおそろいが多いですが、ネックレスやブレスレットが手持ちでゴールドならば金メッキでもなんでもOKな時がありました。
本物の貴金属持参の人もいますが、Bさんのように千円ぽっきりで購入した金メッキでごまかした人もいます。メッキでも舞台の観客では見分けがつかないのですが、楽屋内で己の装飾品を自慢し、さりげなくマウントを取ってくる人もいました。もちろん、Cさんたちは褒めますが限度があります。たかが大人バレエ、されど大人バレエ。先生に絶対わからないところで、下品としかいいようのない態度をとって優越感を感じたい人もいます。精神的に幼い女同士の醜いところです。
発表会当日は忙しいと言えども、化粧をすまし、ゲネプロをすましても、大人バレエではたいてい群舞で忙しいようで忙しくない。時間をもてあますが、レッスンはない。あとは本番を待つばかりだがあと一時間半はヒマ、ということがあります。忙中閑ありを実感して時間つぶしで世間話。
大人バレエの楽屋は誰もストレッチしないでかたまってお菓子を食べながら雑談、ということが多かったです。そのうちにその場にいない人のちょっとした批判、悪口になってくる。友人が楽屋見舞いに来たとかで席をはずした某さんのことになった。
「あの人、ちょっとアレねえ」
「そうね」
「そういや、普段のレッスンでも先生へ目立ちたいアピールも強いしちょっとアレねえ」
「一応、あれでも一流企業勤務よ? でもバレエでは性格がアレ」
「ちょっとね」
と、ふふふと目で笑いあう。
大人バレエの出演五分程度の舞台でも、楽屋内で悪口。人の悪口や批判を言う人は必ずグループを作ります。生臭い。ばかみたい。綺麗なお衣裳、綺麗な舞台メークをしていても、三、四人で肩をよせあって話をするのは、たいてい人の悪口。
気に食わない人に対して直接言わないで徒党を組んでひそひそ話をして、プライベートなことまで憶測で笑いあう。こういうのは、相手が多数であるほど、活力を与えてしまう。Bさんのように無視するしかない。
大人バレエの大半の生徒はバレエにあこがれを持ち、バレエが大好き。だからこの日のために頑張った。だからそれを忘れない人たちは、ひたすらこの日を楽しみます。
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次いで私の話。
私は大人バレエの発表会時には友人は呼びませんでした。バレエをしていること自体、笑いものにされるのはゴメンだわと同居の家族にすら内緒にしていました。当然わりあてられたチケットは余ります。買い取ったまま、ごみ箱行です。大人バレエは子供の両親、祖父母、従姉妹などの団体客は来ないので気楽な面もあります。
友人を呼ぶ人は当然バレエをしていることをオープンにしている。ソロで踊る場面もあったりして、やっぱり華やかだなあと思う。誰も呼ばない私は同じような人と一緒に楽屋でお菓子ばかり食べていました。
大人バレエは普段は皆フルタイムで働いていて忙しいので時間とお金をやりくりして、舞台に臨む。一種のお祭りです。お菓子を持ち寄り、化粧品の交換をし、時には口紅をいいように引き直してもらう。私はアイメークがすごく下手なので、時間をかけるほどヘンになる。しょげていたら、「もうちょっとなんとかしてあげる」 とお直ししてもらったこともあります。化粧がうまい人はへたくそな人には結構優しい。こういうのは、良い思い出になっています。
気前のいい人は楽屋見舞いのお菓子の箱を全部その場で開けて皆にふるまってくれる。本番前だと誰も食べないが、本番後で急に食欲がもとに戻って皆で食べまくったこともあります。発表会が終わってしまったというさみしさを感じながら、普段は手がでない高級なプチガトー、クッキー、ラスク、チョコレート、シュークリームなどをほおばる。化粧を取りたくないなあと思いつつ普段しゃべったことも一緒に踊ったこともない人と記念写真を撮りまくるのも思い出になる。先生ともツーショットを取りました。
ゲネプロで、あなたたち、ポーズの時は身体揺らさないでよ、このシーンでは主役メインだから絶対に動かないでよ、ポーズそろえてよ、もうちょっと高く足あげなさいよっと客席の真中で一人座ってマイクで怒鳴りまくった先生も、終演後は優しい先生に戻ります。まだおまけがあって、発表会終了後は私の場合は間違いなく太りました。これでこの話は終わりです。
発表会が無事終わると人生にも一区切りな感覚で、めでたいです。