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第7話・発表会出演直前のトラブル

 今回は、発表会前に舞台で必要な小物を盗まれた人の話。当事者から匿名なら掲載可と言われましたので書いてみます。話の都合上、Bさんとします。 

 このBさん、大人バレエです。よくある話で、子供時代にちょっとだけ遊びでバレエをかじっていたが、社会人になって、ちゃんと踊りたいということで再開しました。

 そこで発表会で十六人ぐらいの群舞に出たそうです。全員、大人バレエ。Bさんのように子供時代にバレエをやっていた人は三分の一ぐらい。あとはまったく初めての人たち。レッスンは平日の夜で、生徒は全員会社勤め。それぞれに踊る時間をやりくりして、わきあいあいとレッスンしていました。


 舞台での流れは、以下の通り。

① 最初はみなで一緒に踊る。

② 大人でも技術力がある人、なんとかレッスンについていける中程度の人、まったくの初心者でバレエをチュチュを着てみたいという人とで、大雑把に分けられます。ついでに背丈で配列も考慮される。

③ 曲内で小グループに分けられてそこで踊りつつ、

④ 最後に再び全員で集まって総踊り

 ……という大人バレエにおける、発表会あるある群舞コースに出演しました。

 こういう時はお衣裳は貸し出してもらい、小道具は買い取りが多い。Bさんの場合は小道具の買い取りに加え、皆でおそろいの色付きシューズも買い取りになりました。私も経験がありますが、お衣裳の使いまわしはどこでもありますが、シューズは買い取りですね。扇子や弓矢程度は後々の思い出になっても使わないし、大きなものだとクローゼットの邪魔になるし結局お荷物になりますね。


 本番直前にゲネプロ(リハーサルのこと)でそのシューズがないのに気づいたBさんは青くなります。とりあえず、バレエシューズでゲネをこなしましたが目ざとい先生から「忘れたの?」 と言葉鋭く聞かれる。Bさんは絶対に入れてきた自信があるので「さがします」 という。

 でも、バッグをいくらさぐってもない。

 楽屋にもない。周囲も一緒に探してくれたがやっぱりない。普段使いのバレエシューズはあるので、色マジックで今から染めようと腹をくくったときに、一番年長の人が隣にさりげなく座ってきました。

「まだ見つからないの? 私の予備があるので本番に使って」 と言ってきました。「え」 と顔をあげると人目をはばかるように囁く。この人をCさんとします。

 サイズは全然違うが、確かに演目で使うものです。

 読者さんもお察しだけど、Bさんもこの人が怪しいと感じました。訝し気に「同じものを二つ注文していたのですか」 と問うと、「ええ」 と微笑む。舞台に出る時間はもう迫っている。会話している時間も惜しい。Bさんは、とりあえず「お借りします」 というとCさんは「返さなくてもいいから」 と立ち去りました。

 これって「Cさんがサイズがあわないなどの理由で、欲しいサイズのBさんのシューズを盗った」 可能性が大。ただし、証拠は、ない。

 Cさんが履いているシューズはぴったりというよりは、きちきちに見える。Bさんは小道具のシューズに記名はしていなかった。己のイニシャルぐらい刺繍しておけばよかったとBさんは後悔しました。

 Bさんはこの件でCさんを締め上げて、本番直前で騒いで雰囲気を壊すこともしたくなかった。典型的日本人ですね。黙ってそのシューズを履いて踊りました。

 シューズは普段履いているものよりも一センチぐらい大きい。当然つま先があまるし、足幅も大きいので、歩くだけで脱げそうになる。しかし皆と同じデザインでないと、そろえないと皆が困るだろう。普段レッスンで履いているバレエシューズを色マジックで染めてもデザイン上の問題がある。

 踊れるがデザイン違い。

 踊りにくいがデザインは一緒。

 Bさんは、群舞の中で一人違うシューズを履く自分が舞台写真などで残ってしまうよりは、Cさんが譲ったそれを使うことにしました。やはり本番でもシューズが脱げそうになり、いつも踊るアラベスクがいつもより低いもの、シャッセの距離も短く迫力がないものになってしまいました。これは仕方がありません。

 Cさんは、そのグループ内で一番年長でまったくの大人バレエ。レッスン以外に接触のない人です。善意でやったことと思いたい。性格が意地悪な人は別にいましたが、そこまで普通やるとは思わない。結局犯人はわからずじまいです。

 Bさんは現在バレエをしておられず良い思い出にしたいからと、そのまま皆にも告げず、フェイドアウトしました。それが大人の態度でしょう。雰囲気をぶち壊してまでCさんや怪しい人を追い詰めるのもまた問題です。もちろん金銭的な被害や怪我があれば黙ってはいられませんが。

 仮にCさんが犯人とすれば、彼女は盗人です。どういう心境でしょう。でも被害者の思惑などどうでもいい人はこの世に存在します。そういう人はどこでもそういうことを繰り返しできますから。死んでもなおらない。ならばどうすればよいか。不運と思うしかないのか。被害者は永遠にもやもやするだけです。人生そういうものの繰り返しです。

 バレエ好きでもいろいろな人がいます。解決の仕様がない話です。被害を忘れないで身辺に気をつけ、過去にこだわらず、日々は新しく来ますので楽しく過ごすべきだと私は思います。Bさんのようにまったく新しい趣味を見つけて新しい人間関係を築くのもよい選択だと思います。


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