第6話・トウシューズの痛み・後編
で、初心者コースのマメの話に戻ります。こすれて皮膚の一番上の部分が下の部分にはなれてしまい、その隙間に体液が満たされてしまう。体の自己防衛反応のひとつです。そしてこれまた何度も同じ部位にできると自己防衛反応としてマメがタコに昇格します。つまり皮膚がその分だけ厚く堅くなる。そこだけぼこっと膨れて見かけは悪いですが、部位によっては踊りやすく感じることもあります。
タコがウオノメに発展することがある。ウオノメは、タコの固い部分が円錐型のとがったかたまりになり、皮膚の奥に入っていった状態のことです。タコは軽石やステンレス製のやすりなどでこすれば、自分で取れる。しかしウオノメは芯があるので、なかなか取れない。同心円状のウオノメは本当に魚の目そっくりに見え、昔の人は名称作りがうまいなあと感心してしまう。命に別状ないのはよいが、バレエを踊るときにどれも痛むので邪魔です。私はウオノメが我慢できず、皮膚科で切除してもらったことがあります。もちろんしばらく踊れず、レッスンを休みました。悩ましいところです。
つま先の痛みに気を取られず踊れたらどんなにいいだろうかと今でも思います。鎮痛剤を飲んでまでやるものではないし、表面麻酔剤を使うと痛みはでなくとも、つま先で立つ感覚もついでに麻痺をしてしまう。ここまでやると単なるバカです。結局足指のケアは自分で地道にするしかない。これも経験です。プロは八時間履いていても平気だというのは、やはりケアがうまいからでしょう。ポワントレッスンはそういう意味では初心者は女性講師から習うべきかもなあと思います。
もう一つ、初心者の予防法としては最初の購入時に、専門店のシューフィッターさんに相談することです。足の指ですが、大体に三つに分けられます。
① スクエア型 親指から小指まで平行にそろっている人
② エジプト型、 親指だけ突出している人
③ ギリシャ型 人差し指もしくは中指だけが突出している人
国名がついているのは、なぜだろうか。調べたのですがわかりませんでした。言い出しっぺは誰でしょう。エジプト人だって親指だけが突出している人ばかりではないだろうと思いますが、とりあえず分類はこんな感じです。
その上に足の甲の厚み、幅の条件もあいまってシューズを決め、詰めるトウクッションも決め、我流でいろいろな工夫をして踊るときに痛みを感じないようにします。それぞれみんなに涙ぐましいポワントストーリーがあるかと思います。
私はスクエア型ですので、それぞれの指がこすれてマメができます。足指にサックをしてしのぎましたが、その分幅が広がり前のポワントがあわなくなってサイズを変えたりしました。そこまでしてもポワントで踊るというのは、バレエシューズで踊るよりも気分が違ってくるのです。身体の軸を上にあげる感覚がより必要になってきますが、上手に踊れたら達成感がハンパなく出てきます。その状態が日常になっているプロバレリーナさんたちの体型がいつでもすらりとしているのがわかるような気がします。
私はトウパッド+サックですが、テーピング、真中に穴があいたフェルトを貼るなどいろいろとやってみました。足の痛みは誰にもわからない。いや、わかるけれど、部位や痛みの度合いは人それぞれです。あなたにあうトウシューズはコレですと言われても、決定ではない。誰もわからない。
シューフィッターさんは職業柄いろいろな足を見ていますのでこれがいいかな、とは確かに言えるが、レッスン場の床との相性もある。だから実際に踊って良しあしを判断するのは結局本人だけということになる。
そうやっていても、痛みも慣れ、痛くもなくて好きなだけ踊り、長いこと履いていると、今度は別の足のトラブルを起こす。
巻き爪になったり、爪の下が出血して爪下血腫になったり。果ては外反母趾になり、足の形自体がかわってしまうことも。本当にトラブルパターンもいろいろです。
それでもバレエを踊るということは一種の麻薬のようなもので、踊ることをやめられないものです。このあたり、バレエに魅入られた人から、ご賛同いただけたらうれしいです。
俗にいうポワントで立つということは、つま先をまっすぐに立てることで間違いはないですが、実際は、足の裏の筋肉を使っています。つまり、最大限に筋肉を収縮させています。これをやると自動的に反対側の甲部分が前にでてきてバランスをとる。同時に足首にある程度の強さを持たせて立つ。規則的に繰り返し訓練というかレッスンをしないとポワントで長時間立てません。バーレッスンでバレーシューズを履いている段階で何度もつま先立ちになるルルベをやるのは、このためです。ルルベとバランスこそ、バレエの真骨頂といえる。これをやってこそバレエを踊っているといえると思います。
私はバレエは誰でもでき、楽しむことができる舞踊ですといいます。しかし、ポワントを履いて踊りたいなら、ある程度の足首の強さを持たせないと危険です。しかし初心者であっても、優しくて優秀な先生につき、バーを持ちながら踊ることはできます。あきらめないでと思っています。
やれる範囲の中で時にはちょっぴりと背伸びして踊るのも悪いことではありません。あこがれのトウシューズ、ポワントを履くのです!
ただし無理をしてはだめ。怖がり過ぎてもだめ。己の足と相談し、様子を見ながら楽しんで踊りましょう。