第5話・トウシューズの痛み・前編
本面中ではトウシューズをポワントと言い換えています。トウシューズという言葉の方が有名ですが、少女漫画の名残りなのだろうかと思う。ポワントはフランス語由来で、もともとはシュル・ラ・ポワント(sur la pointe)、つま先立ちをするという意味で、それを略してポワントという。
このシューズはクラシックバレエの特徴でもあります。他の舞踊ではポワントをはいて踊るものはなく、ポワントを見ればバレエという認識がたつ。これぞ象徴、シンボルであると言い切っていいかもしれません。
トウシューズ、ポワント、もちろん、どちらも正しいです。意味が通じていればよいと思います。トウシューズのトウはつま先という英語からきていますので、その方が分かりやすいかも。
しかしこのポワント、あのつま先は製造元により違いがあって、堅いプラスチックや厚紙でできています。つま先があわないと圧縮した状態で踊るので、足を痛めます。ポワントを履く全員が通る道かと思います。
まずポワントの中で、足のつま先がこすれあってマメができてしまう。特に小指、親指の外側、もしくは全部の指の爪の下に。足指と足指どうし、もしくはシューズがこすれるとどうしても皮膚に負担がかかってしまう。かくしてマメやタコ、ウオノメができます。予防のために、トウクッションでつま先を保護したり、カットバンを貼ったりテーピングしたりするのですが、それでも痛い時は痛いです。
子供の時にはじめてのポワントレッスンで三十分ぐらいだったのに、シューズを脱ぐともうマメ=水ぶくれができて痛んだのを覚えています。私の場合はほぼ全部の指にそれがでました。レッスンを続けるとこのマメがやぶれて汁が出てきますがこれも相当に痛いです。タイツをそろそろ脱いでもお汁が出たところをはがすのが痛くて、涙がにじむ……。その晩のお風呂で沁みてこれも痛い。でもそれでバレエをやめる子はいません。マメはできて当たり前の認識です。それを乗り越えて美しいバレエをすべく少女たちはがんばるのです。
当時はシューズフィッターさんはいなくて、先生が足のサイズを聞いてハイコレと配布してくれましたので大雑把でした。昔のバレエはこういうものだったのでしょう。
このポワントレッスンを受けるには子供の場合は先生の許可が必要です。私も数年かかりました。
ちなみに大人バレエでは自由です。まったくのど素人でも、その気になれば勝手にバレエ用品店へ行き、先生の許可なしに購入して勝手にレッスンで踊るのも自由です。実際、オープンクラスで、いきなりポワントに挑戦して足指を骨折した人もいます。ポワントを履いて踊るのは、ある程度足首に強度を持たせないと絶対に無理です。それを知らないでやったのだと思いますが冒険家な人もいるものです。
子供の場合、先生の許可がいるのは、やはり怪我をしたら危ないからです。毎度バーレッスンで両手、片手でバーを握りながら基礎の動作を繰り返すのは、足首を鍛えるためです。甲を出し、膝を中にいれ、柔軟もきちんとできるようにならないといけません。ポワントを履きこなすということは、つま先に全体重をかけて臨機応変にそして基礎に忠実に踊るということ。それには数年かけてまず基礎と柔軟性を保つことを体に覚え込ませないといけないから。
プロの人の素足を見ていると満身創痍の人、まったくの無傷の人、特徴的なタコがある人などいろいろです。それで何時間ポワントを履いても平気になるというので、素晴らしいです。
満身創痍の人はポワントで立たない足の甲の部分も傷だらけになっている。なぜだろうか? 不思議に思って恐る恐るご本人に伺ったら、振り付けに立った状態から瞬間的に座る振り付けが頻回にあり、そのたびに甲と床がこすれる。バレエで座る場合は、通常は足の甲を床に密着させるものなので、瞬間的にそれをやると、擦れて傷だらけになる……とおっしゃいました。タイツを履いても傷がつくらしい。私はどんな役でも苦労ってあるのねえ、と感じ入ったものです。
」」」」」」」」」」続きます。