第33話・振付家同志の対立
バレエドラマのフレッシュアンドボーンのネタバレ注意
前回に続いてフレッシュアンドボーンの視聴後のエッセイです。このドラマ中、面白いと思ったことの一つに、振付家同志の対立があります。
ドラマではABCというバレエ団には昔からポールという振付家がいまして、男性だが男性を愛するゲイの人。喜怒哀楽がはっきりして製作者、監督側としては動かしやすいキャラですね。
彼は目をつけた別の男性ダンサーにも振付指導にかこつけてセクハラをする。が、断られる。
⇒ 報復として役を下ろす。
代役は今までアンダーとしてやってきた黒人の後輩。プリマのキーラもこの交替に不満だがポールには逆らえない。代役はとまどいながら頑張るが友情は壊れるし、公演直前に気に入らないからと再度役を下ろされる。ついでに期待外れだったとまで批判され黒人であることをも揶揄される。よく炎上しなかったのが不思議なぐらいのドラマです。
バレエ団のマンネリ化を警戒して古参のポールは、しぶしぶと新進気鋭のトニという女性振付家も団に入れる。当然水面下で対立する。ポールは正統派のクラシックバレエが一番だと思っている。
しかしトニは独立独歩の女性。誰の意見も聞かない。斬新な振り付けをつける。トニが団員の心をつかんでいると思ってポールは嫉妬する。表面上は仲良くするがトニがいなくなると、団員を厳しく指導する。軸を崩すな、バレエを踊るならきちんとカウント取れと怒鳴る。椅子を壊しその椅子の脚でもって自らカウントを取って踊らせる。団員に対して休暇もろくに取れないぐらい何度もやり直しさせる。団員はキーラ以外は逆らえない。(キーラだけ落ち目のプリマを自覚しているのでどうせいなくてもいいでしょって笑顔でさっさと帰った)
ポールは気に食わないダンサーの退団も命じるが、理由を問われても返答しない。本当に誰も逆らえない。手に負えないタイプで振付家の権威は、リアルでもそんなにも強く絶対的なものかと驚いてみていました。ドラマでは、パワハラなことをされ続けてもなお、団員は彼についていく。公演直前衣裳をつけた団員を集めたポールは「私の子供たちよ」 と親し気に呼びかける。笑顔で嬉しそうに応じる団員達……影でポールのことを毒づきながらも、ここでしか生きていけない、バレエでしか生きていけないという団員達。
憎いはずのポールの前に立ち、舞台の上では一致団結。バレエ団内部は嫉妬で渦巻き脆そうでいながらも本番には強い絆が自然発生する。振付師、ダンサー、立場が違えどもクラシックバレエへの強い想いが彼らを結びつける。
そういうところがバレエ好きの私にとっては大きな魅力に感じました。それと振付師がダンサーの個人的な感情も見抜くところも見どころです。ポールとトニの振付家同志の反目はあっても、振付家同志で通じ合うものはある。そういった部分は、二人とも対面して話しあう。
たとえばドラマ前半にこういうシーンがある。
二人ともクレアをトップに押し上げたい気持ちは共通している。が、二人とも同時に彼女の男性恐怖症を見抜く。トニはポールに対してどんなに才能があっても人形のようなダンサーはいらないとまで言い切る。ポールも同じことを考えていたので荒療治にでる。
ポールはマッサージ師の施術をうけている自室にクレアを呼ぶ。全裸で目の前にたち、性器を見せつける。思わず目を背けるクレアに性器を振り回して「これが怖いのか、ちゃんと見ろ」 と怒鳴る。このあたりは一種の名場面。
ポールは女性に性的な興味はないので、それ以上は何もせず「早く自分の男を見つけて突っ込んでもらえ」などと毒づいて開放。そこまでやられて、クレアもこのままではダンサーとしてもやっていけないと悩んでストリップなどに挑戦する。いやはや、ドラマだなあ。
どのシーンも刺激的だったが、振付家同志の会話が秀逸で、私はやはり本作が未完でも推したいです。リアルのバレエ団でも新作を創る振付家同志の対立はやはりあるだろう。
バレエ業界は本当に閉鎖的でパトロンも必要というのもわかる。新規でバレエ団を設立するならどれほどの覚悟が必要か。ポールのように才能があって認知度があってもバレエ団存続の危機を感じて必死にあがく。キーラからあんた昔はただのウェイターだったじゃん、有力者に飼われてバレエ団を作れたくせにと暴露されてもだ。ポールが信頼できると思っていた意外な仲間がバレエ団の横領までする。波乱万丈だが本番では協力的でポールもトニも真剣な顔。本番直前の舞台トラブルでもポールは感情に正直すぎ、子どもみたいだなあ、でもトニと反目しながらも支え合っているのもわかる。そういう振付家ドラマは本作がはじめてで個人的にはすごく面白かったなあ。精神的な危うさを持っているクレアは、視聴者の好意をたくさん獲得するだろう。バレリーナとして彼女とキーラが堂々たるドラマの主役だ。が、私はポールとトニの方が好きだ。でも、途中で終わったのでこのエッセイも途中で終わります。