表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/56

第26話・追悼志村けん・パロディとしてのバレエ


 白鳥の生首つきチュチュといえば、過日コロナウイルスによる肺炎で亡くなられた志村けんのイメージがある。彼には、あいーん、など、誰でも知っている決めポーズや決め台詞が多い中、今回はバレエのパロディに特化したエッセイを書いてみます。

 こういうのはエロバレエビデオと同様、正当なバレエ雑誌は特集しないので私しか書ける人はいないかもです。





 バレエを全く知らぬ人が、バレエとはどんなものか問われれば、白いチュチュを来てトウシューズを履いたバレリーナのことだと答えるだろう。白鳥が羽根を広げている様子を彷彿とさせるポーズ、もしくは片足を高くあげたアラベスク。これが一般的なバレエのイメージだろう。白鳥の湖のそのポーズはそれほど普遍的にバレエのイメージを確定させている。チャイコフスキーの音楽やプティパの振り付けはかくも偉大なり。

 パーティーの余興として踊るのも白鳥の湖を思わせる衣裳が多い。ドン・キホーテなどの安売り店でもパーティーグッズに大柄な男性でも着れるチュチュもおいてある。例の股間に白鳥の首をつけたのもちゃんと売っている。Amazonにもあるので欲しくなったらいつでも購入が可能だ。

 いかつい男性が股間に白鳥の首をつけてひょうきんに踊るのは、お上品とされるクラシックバレエの世界に対する一種のアンチテーゼと思っている。正当なクラシックバレエにはお笑いの要素が一つもないから。このアンチテーゼというのは一種の否定です。

 ちょっと話がそれるが、槇村さとるのバレエ漫画にもバレエに反感を持つ男性が主人公のバレリーナに向かって「おバレエ」 と連呼して、怒らせるシーンがある。私もバレエ好きであることを「高雅な趣味ですね」 と嫌味を兼ねて言われたことがある。どうもバレエ全般にお金がかかるイメージがあるのが悪い。バレエをやるというと留学にお金がかかることや、来日バレエ公演は日本人役者がやる舞台に比べてチケット代が高価だったりするから。そして誰それちゃんが出ていた華やかなバレエの発表会の印象がやっぱりお金持ちねえとうわさ話で伝わったりする。

 そういった上品なイメージを徹底的に破壊するのが、志村けんの変なおじさんメークのチュチュ姿だ。股間にある白鳥の首を男性器に見立て叩いたりいじったりするシーンもあったはず。バレエの上品なイメージの破壊は時として爆笑をもたらす。彼はバレエをバカにしているわけではないが、バレエに関心がない層がバレエについてどう思っていたかを良く知っていた。

 同じような観客に爆笑させるバレエもあるにはある。男性オンリーのバレエ団でトウシューズを履いて踊るトロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエ団、グランディーバ・バレエ団の存在がある。でもあちらはきちんと基礎をつんだダンサーが本気でやっている。バレエの基礎のない俳優が演じて、笑いを取りにいくのと根本的に違う。志村けんは世間が持っているバレエのイメージをいじり、かつ己の個性で爆笑をさらった。でもこういったことでバレエのイメージが損なうと怒るバレエ関係者はいない。逆にこれで舞台に興味が出て足を運んでくれる観客もあるだろうと期待もできる。

 心理学によると「笑い」 の要素は、ある種の緊張感や違和感をもたせ、それからそれを開放させるものとある。志村けんのバレエ衣裳は、まず違和感をもたせるということで、その理論にぴたりとはまる。しかも男性なら股間にあるものを白鳥の首に細長くたれさせ、わざと左右にぶらつかせる。ときには上にあがらせる。図に乗るなと舞台上の俳優がばしっと白鳥の頭を叩く。そこへ痛がる演技。男性がペニスを叩かれると悶絶するのは誰でも知っている。その連想もあって思わずわらってしまうシーンだ。そこに意識が集中すると浮世の義理や悩み事が一時的に開放される。続いて志村の持ちネタ、誰でも知っているような誰でもまねできるようなふりが続く。何度か観ていると同じ舞台やテレビ画面にいる俳優たちの呼吸もわかる。ちゃんと双方であわせてやっている。もうちょっとバレエネタを長くやってくれたらよかったのに。私もプロになっていたら拙いながら案も出せたのに。ドリフ時代は「もしも」 シリーズが楽しみでした。動物系は子供と一緒に見ていたりしました。でも私はバレエが一番好きだから。

 ほんと、つくづく惜しいひとを亡くしました。ご冥福を祈ります。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。産後、バレエを細々と再開し40代になりました。 遅ればせながらこの作品を知り、初めから一息に読みました。 バレエへの愛情と、情熱が感じられて大変素敵だと思いました。 私も全く…
2020/06/10 13:58 憧れは金平糖
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ