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第22話・男親


 発表会で時々見かける光景。フロアや待合テレビの前でで出番のないお父さんがぐったりとしている……。 あるトイレ休憩で、フロアを横切ったときに男性が小さな赤ちゃんを抱き、ベビーカーに荷物を乗せた状態で座っているのを見ました。向こう側にはスマホを熱心にのぞきこんでいる男性。舞台を映すテレビの前にも数人。かたまってではなく、ぽつんぽつんと。

 共通事項はお疲れであること。娘の出番は終わったしあとは終演で最後のあいさつに出て化粧を落としてくるのを気長に待っていると推察しました。

 発表会は朝からホールに集合します。体を慣らしてのレッスン、次いでリハーサルや化粧や衣裳の着つけがあります。出番は数分だけでも、なぜか忙しい。小さい子は母親の付き添いが必須です。下の子や夫をかまっているヒマはありません。時には舞台のチケット受け取りや、楽屋見舞いの受付をやったりします。バレエ的に男親の出番はない。

 発表会をやるホールは、たいてい商店街とは離れているし、時間つぶしにカフェに行くわけにはいかない。車の送迎があるなら居酒屋さんもダメでしょう。

 発表会は我が子の出番以外、バレエに興味がない男性なら終演を待つだけの状態は苦痛だろう。後でそれも良い思い出になりますように。

 出演者の子供も今は緊張でいっぱいで父親を思いやる余裕がない。でも、あの時はお父さんも見に来てくれたと覚えています。成人後や親の死後も思い出す。その子も大きくなって結婚して子供を産んだらまたバレエ発表会に出る。結婚相手も送迎や荷物持ちに駆り出して協力してくれる。そうやって歴史は繰り返される。

 最近年をとったせいもあって、モノの見方が変わってきました。一人でなんでもできると思ったらだめですね。バレエレッスンも発表会も保護者たちの協力がないとできない。

 思えば亡き父も子供時代の私の発表会には必ず観にきてくれました。私の踊りをほめてくれたことは一度もない。出たと思ったらすぐ終わった。出るからにはたくさん踊れ、真ん中で踊れなど無茶をいう。

 さて五十年前近くの発表会では父親の役目は「撮影」 でした。今では信じられないでしょう。出番がくるとそれぞれの父親が大きなカメラを持って舞台前にわらわらと集合したものです。念のため申し添えておきますが当時は「デジカメ」 などというコンパクトなものはありません。スマホも存在すらしていません。家庭用ビデオは私の高校生のころにやっと五十万円ぐらいのものが発売されました。社会人となった私が買えたのは三十万円ぐらいに値段が落ちてからです。そのころには舞台写真家が活躍していて客席からの撮影は禁止になりました。

 というわけで私も踊っているところを父が撮ってくれました。前に近寄りすぎて太ももが強調された写真ばかりで、がっかりして捨てちゃいました。悪いことをしました……が、今でもいらないです。

 ふりつけの動画なぞ、その場で確認すらできなかった時代を生きていた私……大人バレエという言葉も存在しなかったです。バレエといえば子供の習い事でした。今のほうがいいですね。

 ぐでたま状態のお父さんを見て昔を思う。時には客席で孫かひ孫の踊りを見て涙ぐむおじいちゃんやおばあちゃんも見かけます。発表会は子孝行。そして親孝行、祖父母孝行にもなりますね。楽しい家族の思い出の一ページを飾る一コマ、それを垣間見て私も幸せを感じます。

 今回は発表会はやはりいいものですねという話でした。



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