第2話・失敗しても顔に出すな
年配で話好きのバレエの先生のレッスンは合間に過去の公演話をされることがあって、おもしろいです。もちろん若い先生は若い先生で、いいところはたくさんある。若い先生は体力があるので、覚えの悪い大人バレエの生徒たちのために本気のお手本の踊りを見せてくれます。
ある時、年配の先生が、大人バレエレッスンで、ある常連さんを注意されました。
「レッスンだから失敗はしても、もちろんいいけど、失敗してもこっちはわかる。だけど、あきらかに失敗したとわかるような動作や表情はやめましょう」
先生は上半身だけ角度を変えて、「きみもね」 と笑顔でおっしゃいました。指摘された人は首をすくめました。
「本番で失敗しても案外観客にわからないものです。だけど、普段のレッスンでミスをすると態度に出す人は本番でも出す。それで観客に、あの人間違えたとなる。これはよくない。だからあなたたちも気を付けてください」
なるほど。しかり方もいろいろです。
しかり方あるあるですが、私は劣等生だったので昔の先生に言われたことは全部覚えている。
「なに、その表情は」「下向いて踊るな」「そんなポーズ、ワタシ、教えてない」「勝手に振り付け変えないでくれる」「その踊り方、心がこもってない」「どうしてその足?」「足首もっと強く」「もっと、にっこりっ、してっ」
若い時こそ注意されるものですよ、みなさん。大人バレエだと何も言われなくて気楽ですけどね。
長いセリフあるあるだと「一度注意したことは二度も三度も言いたくない。それなのにあなたは私に何度も同じことを言わせて一体何を考えて生きているのですか」 と思いきり怒鳴る。このセリフは発表会で役が付いた人に向けたもの。上手な人ほど辛辣なものの言い方をする先生でしたが、どっちが伸びるかではなく、相性もあるかと思います。
バレエで完璧に踊れるということはめったにありません。成功より失敗の方が圧倒的に多い。全然ついていけなくて、途中で照れ笑いをしたり、舌をぺろっとだしたりは現在でも私はしょっちゅうです。
失敗しても案外ばれるものではなく、踊り手の表情でバレるものというのは、実際に踊ってみないとわからないと思います。
プロでも海外だと意外と顔に出す人が多いという印象ですが、どうでしょう。クライマックスのフェッテを途中でくずしたプリマがふくれっつらをしたのも見ています。ジゼルの来日公演、ヒラリオンが演技する深刻なシーンなのに突然何が起きたのか急に声をだして笑い出した男性ダンサーも見ました。コールドのうちの一人でしたが、舞台上の男性が振り返ってわざわざ顔を見ました。あの人はクビになったのではないかな……観客の私もすごく気がそがれ、団の統制がなってないと感じて頭にきました。来日公演のチケットは高いのにあれはない。プロなのに、観客の夢を壊すような人もいますね。
海外のレッスンで、カップルが急に抱き合って嬌声をあげ先生に注意されているのも見ました。海外の方が常識外の信じられないことが起きる印象です。
普段のレッスンのくせは、本番でも出る。これは真実でしょう。プロの人はレッスンでもふざけあったり、私語はしないです。あっても振り付けの確認ぐらいですね……遊びでやってるのではないから。