第18話・肥っている人はいりません
ロシアのバレエ学校を紹介したドキュメンタリー番組を視聴して、かわいそうに、と思ったシーンです。肥ったからあなたは進学できません、退学だと先生に告げられた少女。年は十二、三才か。ロシアのプロバレエダンサーは国家公務員です。しかし狭き門らしくロシアのバレエ学校を出たからと言って全員がなれるわけではありません。途中で進級できず落伍、退学して別の道に進ませるのも先生の仕事らしい。ドキュメンタリーとはいえ、このシーンはプライベートすぎる。よく日本のテレビ番組に取材を許可したなあというぐらい。
……肥ったからあなたは進学できない……
ロシアのバレエ学校が生徒の両親や祖父母の体型まで考慮したうえで入学を許可するというのは有名な話。彼らはバレエを踊る人はこうあるべきという概念が明確にあるのです。私のように肥っていても踊れる場所は必ずあると思っているのと対極にある。そこの校長のインタヴューでロシアの学校を除けばヨーロッパでよいバレエ学校はパリオペラ座だと言い切りました。トップ指導者の彼がそういうからにはそうなんでしょう。
目を泣きはらした少女の肩にクラスメートも悲しそうに肩をまわして激励する。見れば退学を告知された少女だって華奢な体型なのにそれでもだめなのか……踊る才能がないと見切られるとね。でも必ず別の道でもバレエに関われる方法があるよ。私がそうだよ。大人バレエだけど細々と続けていられるよって言いたいです。
発表会はなんでもありなので、コールドでも一人だけ見た目、足が一人だけ太い、年寄り、背中曲がりなどで目立つ人も普通にいる。結構見ているうちに気にならない。普通はそういうものだと思う。逆に大枚のお金を払う公演だと感動させてもらって当たり前という意識がある。ためにそういった伝統あるバレエ団では、そういったブランドイメージの維持も仕事なのだ。ここのバレエはこういうバレエですと確たる信念とプライドがある。そこで落伍者と判定されたらそこの世界では落伍者でそれ以外の何者でもない。
それにしてもロシアは厳しい。国立バレエ団だとバレリーナであると同時に国家公務員。老後もある程度は保証されている。競争率が激しくても当然か。退学させられた彼女の幸運をも私は祈る。在籍していただけでもすごいのに……。
そういや、某さんがばらした話がある。ある有力者の娘さんが入団させてくれと言ってきた。が、写真一枚見せただけで断られたそうです。理由は「足が太い」……入団させたらバレエ団の信用にかかわるとまで言われたそうだ。教えてもらった私は、ほほう、と思う。某の某位で入賞した画像があるというので閲覧。一応プライべートなので名前は知らないし、その画像も入賞者の名前をあげずに踊るハイライトシーンが出ているだけ。でもそういった事情でどんな足か、と閲覧されるのは、本人にとっては一種のデジタルタトゥーになるかな……ごめんなさい……。
見れば確かにバービー人形仕様の足ではない。でも極端な肥り方ではない。細いけどむっちり見えるというバレエ鑑賞的に損な足。ロシアだと門前払いの足だろう。彼女の名誉のために書くが国内だがコンクールで入賞できたのはきちんと踊れたからです。足さえ細ければバレエ団も入れたはず。即座に断られたとはいえ、そういう含みを持たせた言い方もわかる。親の財力や威光なぞまったく関係ない。
世間では見た目でヒトを判定してはダメとはいうが、プロのバレエ団は見た目でバレエそのものを判定される。それはダメだとはだれも言えぬ。バレエは、そういうものだと割り切るしかない。時代に遅れてはいない。これは決して差別ではない。そういうもの。厳しい。私もまた落伍者のなれの果て。どっちの気持ちもわかる。




