第13話・どうしてもパ・ド・ドゥを踊りたいの △
今は大人バレエでも、踊りたいのならどうぞと舞台を提供してくださるお教室も増えました。どなたでも希望するなら舞台にどうぞ、は、昔では考えられなかった。現代はとてもオープンな状況でうれしいです。
Dさんという知り合いがいて、そういうところでパ・ド・ドゥを踊ることになりました。更衣室での彼女を見ると両足首、膝、太ももにテーピング、湿布をされていて満身創痍です。おまけにここに来る直前まで整体を受けていたという。私はDさんに話しかけました。
「余計なお世話かもしれませんが、本番まであと一週間……お身体は大丈夫ですか」
Dさんはきっぱりと言いました。
「私は這ってでも舞台に出ます」
このDさんは、過去もプロ男性ダンサーに依頼してパ・ド・ドウを踊っていた。しかし大人から始めたこともあり、相手方からは怒られてばかりだという。
「私にとってパ・ド・ドゥのために相手に大金を支払ったのに、怒るばかりで教えてくれない。相手を恨む気持ちと上手に踊れない自分が情けなくて、泣きながら帰ったこともある。でもそういう意識がだめなのでしょうね。相手方も、怒ってばかりではなく、できなかったことができると褒めてくれるしね。そのポーズはいいねと言ってくれるしね。やっぱり、バレエはやめられない。今年はとうとうドクターストップをかけられてね、それでも舞台に出るというと、今度は医師が怒ったの。治す意思がないなら病院に来るなとね。医師ならいくら嫌われても平気。誰が止めても舞台に出ると決めたし、別の病院を探すし」
Dさんには悪いが、彼女も私と同じくバレエ体型でないし年配だ。私も足を痛めたときに整形外科医から「バレエをやめたら治る」「他の趣味にしたら」 と言われたことがあるので気持ちはすごいわかる。
しかし、Dさんは、レッスン直前に薬のシートを開けて痛み止めの頓服を飲む。それも毎回。そこまでがんばるのはもしかして……と不安に思っていたら、その発表会のパ・ド・ドゥですっぱりバレエをやめられてしまった。
Dさんは踊り納めのつもりで、パ・ド・ドゥを組んで出演された。それを知った当時の私は、今よりちょっと若かったので、よくがんばったなとしか思わなかった。しかし、現在Dさんの年齢に近づきDさんの「これで最後」 という覚悟。と、それゆえ何があっても舞台に出るといった気持ちがより深く理解できるようになった。
何事も最後がある。Dさんのように去り際を自分で決めてやめるのがカッコいいか、レッスン場のすみで地縛霊よろしく、うろうろするのがいいか思いあぐねている。他の人の邪魔をしないことだけは肝に銘じていますが。




