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自己実現

作者: モブの助

 人生ってものは、意外と単純だ。


 それぞれがやりたいようにやって、死んでいく。


 そりゃ、もともとの目的をたどれば結局は子孫繁栄が最終目標になるんだろうけど、それを目標にされちゃったら今の日本人はかなりの割合で人生のクリアランクはBくらいになっちゃうよね。


 だから、現代日本で大事なのは「どう生きるか」ってことなんだよ。


 やりたくもない仕事やってひとり寂しく不健康な食事をとってちゃ、人生はつまらないまま、それこそクリアランクCになっちゃうわけだよ。所謂「自己実現」ってのができてないんだ。


 例えば、ドラムが好きな二人の人がいるとしよう。


 仮にAさん、Bさんと名づけて、Aさんはやりたくもない管理職の仕事をやらされて休みは月に一、二回。確かにお金はあるけど、趣味であるドラムを嗜む時間はそうない。


 Bさんはフリーターで、大したお給料はもらえてないけど、「ドラマーになる」って夢を掲げて毎日スタジオを借りて練習している。


 どっちのほうが幸せか、なんて質問をすると意見が分かれそうなものだけど、私は断然Bさんの人生のほうが幸せだと思う。もしそれで一生フリーターでドラマーになれなくても、それで幸せだと思う。


 Aさんみたいな人生だと、歯車として日本の一部になっている気がするんだ。しかもそれが義務的になってしまっている。いやいや毎日を過ごしたって、楽しいはずがないんだよ。


 だから何が言いたいのかというと、人間としての一生は「自己実現」をするためにあるんであって、決して誰かの為にあるわけじゃないってこと。


 もちろん、幸せにしてあげたいと思うほど魅力的な人に出会ったのであれば、その人を幸せにすることが自己実現になるのだけれどね。


 みんなのこれからの人生が輝いていますように。



「こんな感じで、どうでしょう?」


「うん、悪くないね」


 俺はダイスケ。国語の教科書に掲載する文をアレンジする仕事をしている。


 それで、「自己実現」というタイトルの文のアレンジをしていたところだ。


「あのー、ダイスケくん?」


「はい、なんでしょう?」


 俺の文の編集担当の小池さん。いつも指導をくれる大切な存在だ。


「こういう文章を見ていて、君はどう思う?」


「と、いいますと?」


「いや、だから...」


 少し申し訳なさそうに言葉を続ける。


「君は、その、こういう感じで、社会の歯車になっているような実感ってあるの?」


「え?あぁ、なるほど」


 つまり小池さんは、俺がアレンジャーをいやいややっているのではないかと、この文章に感化されてそう

言っているのだろう。アレンジの意図がうまく伝わったようで嬉しい。


「俺は、この仕事大好きですから、全くそういう意識はありませんね。Bさんの成功例が僕みたいな感じなん

でしょうか」


「あら、そうなの...?フフッ」


「俺、何かおかしなこと言いました?」


「この業界に憧れて入る人は大勢いても、そのあとにずっと続けられる人なんてそう多くないから、おかし

な人だなって」


 なるほど。小池さんはそういう現場をたくさん見てきたってわけだ。


「俺は、この仕事大好きですよ。」


「もう聞いたわよ。それで、この仕事のどういうところに惹かれるの---?」



「そりゃもう、決まってますよ---」



 俺は、満面の笑みで、こう続けた。











「社会の歯車になってるのに、あたかも自分はそうじゃないみたいな顔して、人生のクリアランクBを目指してる人たちがいるところです」

ありがとうございました。

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